【執筆ノート】 『ピアノと暮らす──日本におけるクラシック音楽文化の受容と展開』
【執筆ノート】『ピアノと暮らす──日本におけるクラシック音楽文化の受容と展開』https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/literary-review/202505-2.html三田評論ONLINEより転載本間 千尋(ほんま ちひろ)音楽文化史研究者・塾員ピアノ文化研究の端緒は、16年間ピアノ一筋だった息子が音大受験の直前にピアノを止め、数カ月後に慶應義塾大学理工学部に入学したことです。息子の急な進路変更と慶應への入学により、私は幼少期から常に側にあったピアノの社会学的な意味を探究したいと思い、慶應義塾大学大学院社会学研究科に入学しました。そして修士課程1年時の、現名誉教授矢野久先生との出会いが、博士課程進学から本書の刊行に至るモチベーションとなりました。元来日本はピアノ文化を持たない国でしたが、楽器としてのピアノが移入された明治期から現在までの140年に及ぶピアノ文化の進化を見ると、日本は単に西欧のピアノ文化を受け継いで来ただけではなく、独自のピアノ文化を創造したと考えられます。そのためピアノが進化した140年間を、ピアノ文化の萌芽期、普及期、成熟期に分け、その上でピエール・ブルデューの「文化資本」概念、厚東洋輔の「ハイブリッドモダン」概念を用いて、歴史社会学的視座に立ち分析しました。現在日本のピアノ文化は、女子のお稽古ごとといったイメージは薄れ、音大生に劣らないほどの演奏技術を持った「高級なアマチュア」の存在など、ピアノが誕生した西欧以上の進展を遂げました。そこにはきっと西欧にはない、日本特有のピアノ文化の受容の仕方があったはずです。本書はその背景を探る手段として、当事者の生の声であるインタビューを重要な資料と位置づけました。インタビューには戦前の人たちのピアノに対する憧れ、戦後ではピアノに関わった親や子ども、ピアノ講師の方々の本音が語られています。また我が子にピアノを習わせてもピアノをあまり重要視しない親たちの声も取り上げ、日本のピアノ文化の偽りない姿を捉えました。ピアノ学習者の演奏技術の進化は、コンクールの課題曲にもなるショパンのエチュードを用いて分析しました。本書を読んでいただくと、ピアノほど日本人に影響を及ぼした楽器はないことや、ピアノを通して様々なことが見えてくると思います。ピアノ文化を経験した方には、自身を振り返る機会にもなると思います。お読みいただけると嬉しいです。『ピアノと暮らす──日本におけるクラシック音楽文化の受容と展開』本間 千尋晃洋書房324頁、4,180円〈税込〉※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。ピアノと暮らす / 本間千尋 【本】価格:4,180円(税込、送料別) (2025/5/16時点) 楽天で購入