ふたり並んで月蝕を見る
風呂から上がったらミニラがいない。旧宅へ行くようなことを言っていたかもしれない……と、小鬼とチビに確認をとったが、知らないという。慌ててLINEに「どこにいる?」と流したら、あっさり捕まった。自宅の目の前のグラウンドで、ミニラを見つけた。月蝕にスマホのカメラを向けている。このあたりは街灯が少ないから、月明かりが強くて、なんだかいい写真が撮れそうな気がする。ミニラの学校の話をして、おれの仕事の話をして、くだらないツッコミを入れたりして盛り上がる。ひとはときどき、すごく珍しかったり大事だったりする事柄を、けろっと忘れる。逆に、どうでもいいような思い出が、妙にいつまでも記憶の縁に引っ掛かって、何かの折にふと浮かび上がってきたり。今夜のことは、どんなふうにミニラの記憶に残るのかな。まあ、すっかり忘れ去ってしまうのかもしれないけどな。おれの思惑通りコトが運んだならば、ここで月蝕を見られる機会は、あと1度しかないんだよな。笑いあいながら。でも「次」のことは言わずに。ふたり並んで、月を見上げる。