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生きること その真摯な矛盾の 奥深さかな
大学時代に読み、今読み返すことが出来る、そう高村薫さんが巻末で書いておられます。「何か」がある、と。そう。再読するのは懐かしさなどという甘っちょろいものだけではないということです。それを「巷の童話やディズニーの世界にはない」とも書いておられます。 法外な金をふんだくるモグリの医師、確かにこの設定は巷の童話やディズニーの世界にはないかもしれません。童話の中には、恐怖を含んだものもありますが。 確かに金をふんだくるはずのブラックジャックではありますが、その視点で見ると、この文庫版第三巻は悉く儲け損ねているように思えます。 「勘当息子」は、最も出来の悪い四男の息子が医者の卵になっておいた母のところへ戻る話。ここでは、還暦の祝いに戻ってくるはずの出来のいい長男・次男・三男が戻らずに、その勘当した四男が戻って母親の持病を治す、その助っ人をするブラックジャック、最後は「長居したって一文にもならん」とさっさと引き上げます。 コマドリの怪我を治した少年が病気であるために、コマドリがブラックジャックの家に拾ったお金を置いていく「コマドリと少年」。「いくら私ががめついといってもな・・・もうこれ以上はもらえない!!」と叫ぶブラックジャック。 手術料がラーメン一杯分に、「これで十分でさ」と言う「ある女の場合」。「私は盗んだ金はいらん」とコインロッカーベイビーを救おうとしたスケバンに金を突っ返す「赤ちゃんのバラード」。 中には、金はふんだくるが、医療ミスの口封じに一億円ふんだくる「キミのミスだ!」や、一億円を盗んだ銀行強盗と追いかける刑事の「奇妙な関係」での治療費一億円は、ブラックジャックの懐に入るものではありません。 こうしたことに、先の高村薫さんも述べてられますが、「三千万円かかるぞ」は、貧しい者にも発せられます(最後には取らないにしても)。発せられた相手は絶望に追いやられますね。実は、彼は自分のそんな罪深さを自覚しながらも、いい続ける彼の矛盾と葛藤、それは、心優しさを備えているだけに、自嘲は次第に真の冷たさを備えていかざるを得ません。自分に相対する自分を受け入れていくという恐怖、いわゆる二律背反と言われる真実を一人の男が抱える、その狭間の深い淵には、「人間存在の矛盾と闇」があります。 こうして高村さんのブラックジャックへの印象は、次のように締めくくられます。 「世の腐敗と堕落にメス一本で立ち向かう非凡な英雄として創られたはずの主人公は、腐敗対正義のもっとも分かりやすい図式を背負いつつ、実はもっとも分かりにくい闇、すなわち自分という人間の深淵をじっと覗いている」と。 私も、ひょっとすると手塚氏が意図したことはもっと別なのかもしれないかな、そうは思いますが、まさにこの高村さんの言葉に痛く共感するとともに、私がブラックジャックを再読して改めて感じるものはこれなのだ、そう痛感する一人であるのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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