さらに茅葺きの家を移して奥深い所に入る『第十六行持』16-12-3
〔『正法眼蔵』原本〕 これよりのちに、なほ山奥へいらんとせしちなみに、有頌ウジュするにいはく、 一池荷葉衣無尽、 《一池イッチの荷葉カヨウ衣キるに尽くること無し、 数樹松花食有余。 《数樹の松花食ジキするに余アマリ有り。》 剛被世人知住処、 《剛イマ世人に住処を知らる、》 更移茅舎入深居。 《更に茅舎ボウシャを移して深居に入る。》 つひに庵を山奥にうつす。 あるとき、馬祖ことさら僧をつかはしてとはしむ、「和尚そのかみ馬祖を参見せしに、得何道理トクガ ドウリ、便住此山ビンジュウ シザン《何イカなる道理を得てか、便スナワち此の山に住する》なる」。 師いはく、「馬祖、われにむかひていふ、「即心是仏ソクシン ゼブツ。すなはちこの山に住す」。 僧いはく、「近日は仏法また別なり」。 師いはく、「作麽生ソモサン別なる」。 僧いはく、「馬祖いはく、非心非仏とあり」。 師いはく、「這老漢シャロウカン、ひとを惑乱すること、了期リョウゴあるべからず。任他非心非仏、我祗管即心是仏《さもあらばあれ非心非仏、我れは祗管に即心是仏なり》」。 〔『正法眼蔵』私訳〕その後、さらに山奥へ入ろうとした際に、詩偈を作って言った、(これよりのちに、なほ山奥へいらんとせしちなみに、有頌するにいはく、)この池の蓮の葉は着るのに尽きることがなく、数本ある松の実は食べきれないほどある。 (一池の荷葉衣るに尽くること無し。数樹の松華食するに余り有り。)今しがた世間の人に住みかを知られたから、さらに茅葺きの家を移して奥深い所に入る。 (剛世人に住処を知られて、更に茅舎を移して深居に入る。) 遂に庵を山奥に移した。(つひに庵を山奥にうつす。)あるとき、馬祖はわざわざ僧を遣わして尋ねさせた、「和尚はその昔馬祖に参じたときに、どのような道理を会得して、この山に住むようになったのですか」。(あるとき、馬祖ことさら僧をつかはしてとはしむ、和尚そのかみ馬祖を参見せしに、得何道理、便住此山なる。」)師は言った、「馬祖がわたしに向かって、即心是仏(この心がそのまま仏だ)と言われた。それ以来この山に住むようになった」。(師いはく、「馬祖われにむかひていふ、即心是仏。すなはちこの山に住す」。) 僧は言った、「近頃の馬祖の仏法はまた別です」。(僧いはく、「近日仏法また別なり」。)師は言った、「どのように別か」(師いはく、「作麽生別なる」。)僧は言った、「馬祖は、非心非仏(心にあらず仏にあらず)と言われています」。(僧いはく、「馬祖いはく、非心非仏とあり」。)師は言った、「この老いぼれ奴、人をどこまで惑わす気か。非心非仏がどうあろうとかまわない。わしはひたすら即心是仏だ」。(師いはく、「這老漢、ひとを惑乱すること、了期あるべからず。さもあらばあれ非心非仏、我れは祗管に即心是仏なり」。) さらに茅葺きの家を移して奥深い所に入る『第十六行持』16-12-3b 合掌