2013/07/16(火)10:32
アレックス ― 今という瞬間のシミュレーションに失敗すると、地獄を見る可能性があるという映画
多くの人にとっては今という瞬間が最も大切なわけですが、その今でさえも、過去にたくさんの選択を繰り返してきた結果であることがわかります。
たとえば、今日の晩飯は何にしようと考え始めたときから思考は夕食のメニュー選択へと向いていきますし、今あなたがどこかの会社の社員だったり、どこかの学校の生徒だったりするのも、今あるべき姿を過去に選択しているわけです。
しかし、皆さんもご存知のように、今までのすべての選択が自分にとってベストだったとは言い切れないものです。
現時点で何らかしらの不満を抱えている人は、過去の別の選択肢を探っては、その呪縛から逃れられないのかもしれません。
ああ、あのとき、もう一つの道を選んでいたら、今の自分はこうはなっていなかっただろう。
しかし、あの時間は二度と戻ってこない……。
選択を誤ったために、一生癒えることのない傷を負ってしまった一人の女性を描いた映画、それが今回ご紹介する Irréversible(邦題:アレックス)です。
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以前当ブログでご紹介した『Enter The Void』でお馴染み(?)のギャスパー・ノエ監督による 2002 年製作映画となりますが、こちらは『Enter The Void』よりはるかに暗く、そして最後は絵画のような映像美と、形容しがたい後味の悪さが一緒に押し寄せてくる作りとなっています。
目を見張る映像美だが、下品丸出しで後味が最悪な映画の話(2012/03/01)
ギャスパー・ノエ作品をご覧になったことがない方でも、デヴィッド・リンチ監督作品をお好きであれば十分楽しめるストーリーになっていると思います。
冒頭から暴力、ハードゲイ大集合、婦女暴行など、目を覆いたくなるような映像が続きます。
そして無理やりなのではないかと錯覚させるほど、爽やかな映像に彩られたエンディング。
一見、何の脈絡もない生々しいシーンを適当に繋ぎ合わせたようになっているのがこの映画の特徴であり、『Enter The Void』でも同様の手法が取られていることから考えてみても、こういったストーリー構成がギャスパー・ノエの得意技とも言えるのでしょう。
この映画を理解するためのヒントは、冒頭から逆回しのエンドクレジットで始まること、そして一番最後に以下のフレーズが裏返しで出てくることです。
LE TEMPS DETRUIT TOUT(時間はすべてを破壊する)
デヴィッド・リンチ監督作品に十分毒されてきた映画好きなら、一回通して観ればこれがどういうことなのか、あまりに単純明快なカラクリであることはお分かりいただけるでしょう。
しかし、悪夢のフラッシュバックと考えれば、出てきた順に観ていくのが最も自然な鑑賞方法とも言えるのかもしれません。
これ以上のネタバレはここでは避けますが、この映画から醸し出されるメッセージは、現実は非情であり、残酷であり、そしてときには美しくて幸せをもたらすこともあるということでしょう。
毎日テレビやネットから流れてくるニュースの殆どは、楽しい内容とは程遠いものです。
しかし日々、世界中で起こっている災難は、実は決して対岸の火事ではないのです。
せめて映画の中だけでも辛い現実を忘れさせてくれよとお願いしても、そうは問屋が卸さないのがギャスパー・ノエの映画観なのかもしれません。
『Enter The Void』は購入して今でも楽しく鑑賞していますが、本作品は所有しているだけで胸糞が悪くなりそうなので購入を断念しました。
まあ、それがギャスパー・ノエの望むところなのかもしれませんが。
しかし、こういう映画は一部のウケは良いでしょうが、空前の大ヒットには繋がらなさそうなので、いつか彼が金に目が眩んで魂を売る気になるのではないかと、今からヒヤヒヤしております。
おまけ:
主人公のアレックスを演じたのがモニカ・ベルッチです。
マトリックス・リローデッドにも出演しましたので、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
参考画像はこちら。
商品検索でこちらがヒットしたのでご紹介していますが、この映画は観たことはありません。
今のところあまり観る気はしないのですが、いつかレンタル屋で見かけたら借りてみるかもしれません。
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それにしても、このような美女にあそこまでやらせてしまうとは、ギャスパー・ノエはどこまで鬼なのでしょうか。