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2014.08.15
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カテゴリ:元気が出る話
 まだネットが普及する前の話です。
 仕事をバリバリこなしつつ、サイドで勉強していこうなどと思っていました。

手相勉強中なんですけど


 どの世界にも上には上がいるものですが、自分はまだ全然ダメだという自覚がありました。
 (この部分は今も変わりありません。)

 実力はそこそこであっても、仕事さえ取れれば、あとは優秀な部下をつけてやらせれば成功できます。
 要は持って生まれた資質と、求心力、人脈、運というやつですね。
 こればかりは努力だけではどうにもならない世界だと思います。

 といったようなことが見え始めた時期でもありました。
 そんなある日の夕方、道端で若い男性(といっても同じくらいの年齢)に呼び止められました。

「あの~手相を見ている者なんですけど~、あなたの周りにオーラが見えたので、お声をかけさせていただきました。」

 カルト団体の勧誘が脳裏をかすめましたね。
 開口一番、赤の他人に向かってオーラの話を出す時点で、まっとうな勧誘ではありません。
 パワーを送るとか言って、道端で人の頭に手をかざす活動を行うカルト団体もありましたから、ははん、あれと類似のやつだなと思いました。

 オーラが見えるとか、守護霊が見えるとかテキトーなことを言って見込み客をマインドコントロールして、自分たちの組織に加入させ、バカ高い曼荼羅画とか壺とか印鑑とかを買わせる魂胆でしょう。

 彼もいままで通りすがりの人たちに冷たくあしらわれてきたのでしょう。
 こちらが「結構です」と言う前に先手を打ってきました。


「あっ、でも宗教とは違うんですよ。全然そういうんじゃなくて。まだボク、手相学を勉強中の身なのでブースを持てないんです。でも占いなんて信じてないですよね?」

「信じません」


 星占いや運命数などで友人と遊んだことはあっても、一人のときは見向きもしません。
 ついでに言うと、血液型による性格診断も信じません。
 手相も早く言えば、手の平に刻まれたシワにすぎません。


「じゃあ、勉強のために1分だけ手の平を見せてもらうのはダメですか?」


 1分だけならということで手を差し出すと、彼は私の手には触れず、すぐに驚きの表情を浮かべました。


「やっぱり珍しい手相をお持ちですね。」


 ここで勘のよい読者なら、すぐにその先が想像できるでしょう。


「それ、みんなに言ってるでしょ?」

 
「違いますよ~。ホラ、見てください。ここの親指の関節のところ。目の形になってるでしょ。これ、仏眼相と言って、特殊な能力がある人に多いものなんですよ。両手にあるなんて珍しいですね~!」


「みんなそうなってると思いますけど。」


 彼は自分の親指の関節を私に見せました。
 たとえは古いですが、全盛期の高島忠夫がよくやっていたイエーイのダブル仕様です。





「ホラ、ただの二本スジでしょ?普通はこうなんですよ。だから何か違うんじゃないかと思うんですよ。」


「いたってフツーですよ。」(真顔)


「それはまだその時期を迎えてないからですよ。きっと。」

「(1分の約束守ってないし)もう、いい?」


 まだ話し足りない彼をおいて、私はその場を離れました。
 仏眼相というものが本当に存在するのを知ったのは、ネット時代に突入してからの話です。

 そんでもって、ここで一言申し上げます。

 この体たらくが証明していますから、そんなもん信じてはいけまへん。ただのシワです。


手相その後


 道端の手相の件があってから、数か月が経過した頃のことです。
 学生時代の級友から電話がありました。


「通訳頼みたいんだけど、やってもらえるかな?」


 聞くと、彼女が所属する非営利団体が海外協力をしているとかで、通訳スタッフが足りないとのことでした。
 週末だけでもやってくれると助かるといいます。

 時給か日給はいくらになるのか尋ねてみました。


「………………ボランティアで。」


 つまりは、活動内容がさっぱり不明の団体のために、昔の級友というつながりだけでタダ働きしてほしいということでした。

 残念ながら、もともと私は彼女と親しいわけではありません。
 卒業してから数年間音沙汰無しで、いきなり仕事を頼んでくるところも不自然でした。


「仕事って何してるの?」

「………………いろいろと講演してまわったり、自己啓発のセミナーを開いたり…………。」


 彼女はとても言いにくそうでした。
 だから、そっと背中を押してやりました。


「ひょっとして、手相の勉強会とかもしちゃってる?」

「……うん。やってる。」


 自己啓発自体は別に悪くないと思います。努力しないよりした方が人生の満足度も上がります。
 自分の体験をもとにセミナーを開くことも自由でしょう。

 ですが、自分たちが何をメインに活動しているのかを、人に説明できない時点で怪しいとしか言えません。
 さらに聞くと、卒業してから家を出て、ずっとその団体のメンバーたちと生活しているとのことでした。

 信念を持つことは個人の自由ですが、あれほどこの級友が遠い存在に感じたことはありませんね。
 もう二度と会うことも言葉を交わすこともないと思いますが、今もどこかで元気で暮らしていればと思います。




 
 道端のスポット勧誘は、問答無用で無視にかぎるでしょう。
 せっかく頑張っているのに無視しちゃ可哀想だと 1ミリでも思ったら、それこそ相手の思うツボです。




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最終更新日  2014.08.15 21:43:48


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