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灯台

灯台

えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ

   1


 あたしは化石化された森で奇妙なあじのする果ものをたべている

 ーろびんそん・くるうそお、

   おそろしい怪物を思い浮かべていた

 あたしは魔法使いなのだとおもう、みずから天にも昇ることのできる楽の音そのものなのだとおもう。囂々≪ごうごう≫、日夜、やむときなく島を揺りうごかす

 もはや帰ることのない むずむずという痛痒さ 快感の芽

 あたしはあんなに葡萄酒を飲んだから病気が癒≪なお≫った

 ーわるかったよ ごめん、 

   もうそろそろいくから


    2


 あたかも人間の眼に触れるのを厭うたように、急速にそれを蔽い隠し、姿をあらわしたときとおなじように、漠々たる乳白色のなかへ沈んでしまった。

 ー東京の高層ビルの屋上も、

   コンビニで無料でもらえるあかるすぎるライトも

    くる日もくる日も この街の夕暮れをまっ赤にこがした

 祖母ふたりと 父 母 姉 兄 弟をあたしは亡くしてからというもの、パンツの中にきのこが生え、ちくびは日ごと生育しメロンになり、二の足は おおきな おおきな 大根になりました。そしてあたしはビニール袋のなかにみしらぬ種子をいれていました

 えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ という時も いわない時も

 夜な夜なありふれた幽霊たちがあたしを植物化させます

 (またあの呪文 ! えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ

 神様、後生です、ピルをください、・・・コンドームをください、

 でないとあたしは受精しちゃいます。


    * * *

 
 あたしの島はマイナスによって語られる。心を開かないこと、閉じていることを何よりもよしとする。あたしはグロテスクを嫌う。そしてひよわな、いくじのない男たちは、悲しそうな眼つきで、もしかしたら望遠鏡で薔薇のような、埃が重くつもることのないまだ傷ついてはいないもの、ただいたずらでうつくしすぎる妖精を夢見る。

 そして誰かはまじめな顔をして

 「一緒にお風呂に入りませんか?」と言う

 彼の誘いはエナジー・ドリンクにあふれていた。しかしあれから、魚の背中をぬめらせていた汚れのようなもののこと鱗のこと、分裂しかけている暖流と寒流がすこしずつ真実を語り始める大小のお皿が食器棚にしまわれ

 (けたたましい硝子の開け閉て ! えてるる・しるく・たんはき・くすりびん

 ミルクカップや湯飲み、ガス・コンロ、ブランコゆれてる昼下がり、砂糖という敵めがけて占領を開始する蟻の行進、そしてあたしは岬の断崖に立つ一本の木

 (ないふとふぉーくを持つ ! えてるる・しるく・めだまやき

 ーわたしは訓練し、調整し、完成する能力をもっている

   でも鎖のように じゃらじゃらする日々に飼いならされている

 心は重く沈み、孤独の感じがつよく胸をしめつけた。それは悲哀と不安と絶望にみちた、とらえどころのない情緒。島は幻の彩色をえていた。姑息な野心もなく、本質的な意思と、しぜんな感受性だけがひねくれた解釈をうみだすという砂漠のなかで、

 ーあなたは一匹の犬 わんころよ ワンワン よ

   そしてあなたを軽蔑して人生を棒にふるまいと誓ったの


    3


 地上にも海はある。そしてその海は嵐にも似て、雲とも煙ともつかぬ灰色の混濁の間から、水蒸気をほとばしらせ、ひと眼その島を見るなり、なにかいやな記憶を思い起こさせる。「家」は「青い鳥」だったのだろうか? ああそれとも、それとも・・・、

 ー教えてください、

   あたしは何故この島にいるのでしょう?

 そしてその海が、いつのまにか魚たちの心象を夜着の襟、いや、山羊の衿≪えり≫にする。かンからかンから、トイレットペーパーがまわる

 濁流の音がきこえる 喘ぎがきこえる トンネルの入り口に自転車をとめて

 シュレッダーがざくざくという咀嚼音をたてる

 呼びかけにたいして応答していくフィールド。自分の姿をモニターテレビに映してポーズするパラドックス。たどたどしげに歪んで画≪え≫をかいていた天変地異/

 人間が大自然に余計な手を加え続けた結果

 ーあたしはサボテンになっていた ピース!

   ぴいす。ぴーす。ピース ああ・・・、


    * * *


 ああ、そう、尋ねるということは じいっと 耳を澄ましているということ。部屋の隅で赤子に添乳≪そえぢ≫しているママがいる。
 
 ー逃げられない運命なら、たたかうべきだ

   蟹がもしきみの胸に入ったとして、だれがそれを取らないというのだ

 夢の戸口で あたしはライオンのたてがみをきる理髪師≪とこや≫になる。

 なんどもなんどもノビール下水管 なんでもかんでもノビール・かんかんかん

 (ごくごく・ぱくぱく・ぱふあにゅーぎにあ


    * * * 


 あたしは社会に縛られることがないので信頼を得られない。そうなれば、より規模のちいさなものと向き合わざるをえなくなる。だがそうなる過程で、日ごとに、あたしは名もないもののことが好きになる。あたしの島は混乱体系のもっとも不自然なもののひとつだ。そこでは甘やかしという軟弱なしつけ方がもっとも尊ばれる

 ーコーラが飲みたいというとくれる、お菓子と言えばスナック、

   でもこどもが一番ほしかった愛をその人は与えていない

 あたしの島は、同時に閉鎖的な王国を意味する。たしかに空のハンモック、自然界の原理がみちている。木製のてづくりのブランコもある、でも神はいつでも非情だ、ジャスミンが、アポンクリン腺のようにかおりをはなって、異性を興奮させるということをあなたは知っていたのかしら。

 あなたは上陸させてくれ、という

 (ろんどん・ちんどん・・ぱふあにゅーぎにあ

 わたしはここに棲みたいのだ、とあなたは


    * * *


 でもあたしは知っているのだ。ほそい、きりんのような首をやさしく絞めたがっていること、肋骨に舌を這わせたがっていること、浮き出た、まださわられたことのない真夏のかじつに、小さなミュールからはみ出した小ゆびに

 おさえつけられた野生のうめき あなたの狙いはわかっている/

 あなたはあたしの魔力がほしいのだ 感性のメトロノーム

 無限のイマジネーション 秩序という感覚の新しいモデル


    * * *


 複数の生命圏を通過してゆく 

 ーかわいい子だねえ、聡明そうな子だ

 ーでも遊んでいるんでしょ、あの子 茶髪だし、

 
    * * *


 ーあの子、不美人だったよなあ、愛想がなくて、しかもいつもオドオドしてさ

 ー男を見ると、けがらわしいって顔をするんだ。

 ーこっちだってお前なんか願い下げ! お前の×××なんかにいれたら、

   俺のスーパーうるとらグレイトなものがよごれてしまう


    * * *


 上陸を許した瞬間に、あなたはあたしという秘密の森を、自然のささやきの森、うつくしいこだまときぬずれの森、りんごの花、どんぐりとやせいのまだゆたかな森を、あなたはいろんな人に教えてしまうでしょう。そしてあなたは、あたらしい勲章のように、こいつが自分のものだと証明するように、そのおちんちんで、あたしの頬っぺたを叩く。なんだこのかいがらからあふれてくるジュースは、とあたしをこき下ろそうとする。

 ー君はいつまでたっても変わらない、

   人の言うことがどうしてそんなに信じられなくなったんだい?

 でもあなたは、やっぱり、どこからでも見える、たかい丘に旗を突きたてるでしょう。

 ーほんとうは開けられたいくせに、

   こころをノックされたいくせに、


    4


 そしてあたしはいろいろな噴水のことをしる。洪水のことを知る。ノアの箱舟のことをしる。Bible 島の輪郭がぼんやりとあらわれだしてくる。そして、こう言わなければならない
 どうして六十億人のためのトイレがあるのに、

 ーピアノの蓋は鍵盤のうえにはないのに、

   楽譜はクロールの飛沫≪しぶき≫なのに、

 あたしは妊娠させられなければならないの ときいてしまう

 あたしはきっと堕胎する女 まだ生理にもならない幼さで/

 永久に ママになれないことを悟る

 ーじぶんの高鳴る音以外は蚊帳の外かい、

   それを無知とは君の中では言わないのかい・・・


    * * *
 

 でもカラス麦のにおい、駄菓子屋の低い軒下、銭湯、そして校舎、池、うら枯れた廃園ののすたるじっく・ふらわー、そんな風に ああ そ ん な風 に 長い長い雨があたしの島に降り注いだ。なにかうれしい予感にあたしは取り巻かれている。二階の明るい窓のしたに洗濯ものがゆらめいていた。真新しいシーツをどうしてかあなたのために毎日用意したくなる、

 ー恩恵を施した者は黙る方がいいと何処かで聞いたことがある

   それと同じで 施された者はえいえんにしゃべりつづけてほしい

 まるでじぶんの姿をうつさずにはいられないような

 口の中に馬の頭、でなければサイのツノ

 (またあの呪文 ! えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ


    * * * 


 火が燃えている ただ火が燃えている 火が燃えている

 風が吹いている ただ 風が吹いている 風が吹いている


    * * *


 この島にはキャンプ・ファイヤーという烽火≪のろし≫があがった。だれだろう、文明とは縁遠いものをここに呼び起したのは。内面⇔外面。やじるしによって語られる鏡の性質。でもそれはあたしが望んだもの、あなたが望んだものではない

 ー煙があがっている、ああ煙があがっている、、

   どうしてそれが目に沁みるって言えないんだ、、、

    どうして涙がでてくるって素直に言えないんだ、、、、

 だれも小麦をつくらず、だれも動物を飼育しようとはしなかった。生活が向上する、魂が改まる そうなればいつまでもじぶんを可愛がる楽園のままではいられない
 その日暮らしの恋人に、夢や希望をもたない女に/
 誰もファイヤー・キス もえるようなものを捧げてはくれない

 ーああきみは、一瞬の美を知っちゃったね

   ロマンティックだね、ああ、そう、ロマンティックすぎるね


    * * *


 ここにはタイムマシンがうまれるだろう。裸になることをためらうほど、服の意味が出てくるだろう。神の眼前からかくれたイヴのような羞恥心をもって、芯まで濡れた、あたしのかくされたところに男性のシンボルをさしいれられて、猿のように、また鹿のように、いつでも気軽なアドベンチャー・ゲーム、そしてそれが神話をつくりだした性の、本能の眼に烈しい緊張としりながら、汗ばみをおぼえながら

 ーそれでもこのアドバルーンを棄てる日は永遠に来ない

   西瓜が井戸のなかでのうみつな夜を知るようにそれは来ない

 あなたは急激に高まり、しろく濁った液をあたしのなかに注ぐ

 (またあの呪文 ! えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ


    * * * 


 火が燃えている ただ火が燃えている 火が燃えている

 風が吹いている ただ 風が吹いている 風が吹いている


    5


 あたしは風になびくリボン、ヴェールをとられてくちびるをうばわれてしまう花嫁。それらをすべて恐れて家族を殺し、友だちも殺し、いつもたったひとりで棲んでいた

 ー未確認飛行物体一瞬の出来事・・・、

   ポリ袋をかぶった飛行機のおもちゃ

 で も もう、いい・・・、あたしは四つの車輪のじゅうじゅんな態勢をとらされる

 あるはずのない椰子の木の家、ハワイアン音楽のような波音、

 ありえないわがまま、すてることのできない生活、呪いや悪魔のような影の力がすうと引いていき、かすかな炎の匂い、しがみついていた生への執着を思い出す 

 (またあの呪文 ! えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ

   えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ


   * * *


 虚空にみち満ちる北風の悲歌は、よしない記憶を掻きおこした

 このからだを乾かさなければ はやく 陽によって汚れを浄めなければ

 でなければあの魔力が消えてしまう 


    * * *


 でもそこに一世一代とばかり 全身にボディー・ペインディングした男が、そう精神というふかいふかい井戸におろす桶のために、金剛はがねの鎧をきた男が

 「歩くことを学びなさい、やさしく老いることを学びなさい」と言う

 ー思い出そうとしては遠ざかる 水の上に流氷の残塊が徂来≪そらい≫する

   オランウターンは抽象的哲学をかたる

 ーそしてあたしは魔力を棄てた


    * * *


 あたしのなかの化石たちはどれも一様に、かなしく、ぶざまで、さみしそうだった。しかし息をふきかえした瞬間に、すずしい顔をして、あたらしい平面のなかへ、次元のなかへ、ゆっくりと飛び込んで行った、それが魔力ではないのは何故?

 ーねえ それがどうしてあたしの宇宙ではないといえるの

   アルバムのなかには物質世界に堕ちてゆく仕掛け装置がある

 でもあたしはたしかめてみたかった ささやかな営み 日にやけたアスファルトの道 過ぎ去ったあの魔術の日、あたしはすべての神だった、そしてすべての女神であった。しかし何故ひとりになったのだろう、何故ひとりで選ぶことを正しいとおもうのだろう、

 (またあの呪文 ! えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ

 ・・・たしかなことは ひとつだけある

    あたしはたしかに植物になったのだ 

 ー自分のことをなんら記録せずに息絶えて、体内にこの呪術を孵すだろう

   火と水が、陰と陽が、クリエイティブな魔力

 ーでなければあの微笑みが消えてしまう 


    * * *


 でなければあの微笑みが嘘に変わってしまう

 でなければあたしの魔力が甦ってしまう


    * * *


 えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ

 えてるる・しるく・ぱふあにゅーぎにあ


    * * *


 ー大切にしてください

   うんと・・・、うんと 大切にして下さい


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