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灯台

灯台

忘れ去られた事故


ニ月六日の現地時間一○時ニ分に

ハワイ・真珠湾を出港した

海上自衛隊のイージス艦「あたご」は

シャツの隅のイニシャルに似て

国内有数のマグロの取扱量を誇る

横須賀港に向けて航行していた
                  アウト・デ・フエ
きこえてくるだろう、腹の底から火刑罰
ニグロスピリチュアル
黒人霊歌
    レクイエム
そして、鎮魂歌――
メエルストローム
大旋渦が。・・闇の中 静脈にうかぶ刺青のように思える


  幕末には黒船が浦賀沖に来航し、

  マシュー・カルブレイス・ペリーが久里浜に上陸した歴史

  「ぺっぺっ、唾を吐き散らせ!」と言えるかどうか

  古くから江戸・東京の玄関口(「で」)

  折しも真珠湾――日本が奇襲、卑劣な騙し打ちをしたという因縁も

  さらに加わった恐ろしい力で

  唾は水溜まりになった。あなうらを濡らした、棘

  ・・・まるで自分は運命の冷たい見張り番のようだ

            おがくず
   錐で穴をあけて大鋸屑が出る。/払う、じっと動かない人の姿

   ボルトを締め、誰にも見えないナットを締め――

   大伽藍見えるか、洞窟の泉は見えるか

   えぐり出してきた追浜、深浦、長浦、本港、新港、平成、

   大津、馬堀、走水、鴨居、浦賀、久里浜、野比 

  
さながら音のない稲妻のように鉛色をした重厚な外観

ゆるやかにふくらんでゆく くちびる

(「を」)ぎらつく重油の海に見た

全長一六五メートル、重量七七五○トン

みればみるほどズングリうっそおとして、

がツがツがツがツ
                  みなわ
碁盤目の手順を食べたのか、泡沫は真珠となったのか

われらが国内最大の艦は
     アクション
悠長迫らぬ生態で

ジュラシック・パークにでてくる

恐竜のように激しい熱やあえぎをきかせていた
      まむし
そして夜――蝮が不気味に這っていく姿に似て

峻別のはっきりしない灰色へと

葬儀の香典袋(「に」)
かきわり
書割のような手、消毒薬、ガーゼ、綿
アルコール
酒精・・ふかくひそむ想いが迸り出た

それは魔人の鞭のひと振りだったかも知れない。・・

たとえ、なにげなく

テーブルの上にひろげた新聞だったとしても


  六隻も所有されているイージス艦の一つは
      クレーン
  溶鉱炉や起重機

  いや、もっと率直にどす黒くうねってふきだされた

  煙突の煙だ、光化学スモッグだ

  いやそれはワシリー・カンディンスキーのモスクワだ


    (自分は暗い男と思ってくれて構わないが、執拗

     だ。もはや陰湿だ。微熱のように魔術を愛する

     「断定」――は吸血鬼の歪んだ口元、となるだろ

     う。それでも忘れてはならない、と言わせてくれ。

     マダム・タッソー館、あるいはモデルの型をとっ

     たトリスタン・シュラード。・・)


それは共鳴し、天聴

ガリレオが
occhiolino
小さな目と呼んでいた

顕微鏡の果てにーミツバチは刺したかもしれない

人類の姿、宇宙の姿

もし無造作に転がっているユニコーンやペガサス

、だったら楽しいだろう、――科学

しっかりと掴まえてもつかまえきれぬ女、子供、国民

おそらく末代、枝葉末節まで

印象的なイラストの世界を展開する

“俺はこうしたい”とやがて王は言うだろう

せいなる資糧という、

いくばくかのロマンチシズムをあたえ、DNAをいじり

人が食い荒らしてしまった神なき時代に

お誂え向きの不可思議な人びとの誕生・・!


    (自分をもっと暗い男と思ってくれ。しかしファ

     ンファーレで出迎えくれ。それが鍵穴になる。
        レジスタンス
     それが抵抗運動になる。アセチレンガスの向こ

     う側に魔羅を! ・・・そしてお前は俺をそう想う

     ことで、滑稽な産卵期を見る。えいえんの時間に

     前髪をなびかせていた水先案内人を見るーさらに

     は解剖台、ゴム手袋、――死についてお前は考え

     る。考えろ! ・・・いいからもっと考えろ! 手

     遅れになる前に――)


神なき時代のなかでは机の上の地球儀(「も」)

錯乱した頭脳ー昔壊れた惑星――

(の)ように想像できる

まわしながら床に落とせばいい

そうだ! ・・・弾力がない、音が鳴る

でも湿気ったビスケットみたいな気がする

うつろう感情の底が定まらず空虚さは消えない

もっと高くだ、もっと高く

たとえるまでもなくバスケットのゴールリング

(へ)地球の外へ!

行こうとしている、牙をもつ獰猛な鯨たち

アセチレンガス、クロロホルム、あるいは糠雨でも
        シャンソン
でも自分はいう、小唄
  はこぶね
――方舟を動かした君たちらしいパフォーマンスだ

しかしいまはイージス艦「あたご」こと

リヴァイアサン。・・

大金庫の前で[消えかけた男の顔を!だ・・]


  ギリシャ神話の盾を示すイージスの語源「アイギス」は、

  ありとあらゆる邪悪・災厄を払う魔除けの能力を持つ

  メデューサーの首のついた盾のことだった

  ――ところでねえ君、クスクスクスクスッ[と笑う]

  いや、実はね、このメデューサー

  じつは海の神であるポセイドンの愛人なんだよね

  笑えるだろ? 風刺がきいていて


   どこへ突進しているのかもわからぬまま(「に」)――
     はりつけ
   岩に磔になって、怪物の生贄にならんとす、アンドロメダ

   (因習にとらわれた世界なら、蛇のうようよする井戸に

   投げ込まれたっておかしくない)――ペルセウスは助けた

   剣では歯が立たぬ怪物にメデューサーの首で石化させた

   そして、その首を庇護してくれたアテナにプレゼント

   ――そして付けた! メデューサーの首(「を」)

   ・・・国防という名の最強の盾を! 


肌を刺すような二月の寒気のなかで

無数の毒蛇[という]

そのポテンシャルは如何なく発揮されるはずだった

最新型対空レーダーで一○○キロ以上離れた

複数の対象を探知・追尾できると

謳っていた[毒の皿、まわる皿、回転寿司のさら] 

イージスのもと暗し、という粗製乱造

見ろ! 銃座[それは起こった――]


  千葉県勝浦市漁協所属の漁船「清徳丸」との衝突

  事故直前まで自動操舵で航行したことを皮切りに

  つぎつぎと明るみに出る海自の実態

  そしてこの時ばかりと唱和に加わる批評家、
  
  元海自、コメンテーター、

  あたまもしっぽもないこのような事件に、

  白い黴のような塩をうみ

  生乾きの傷口に遠慮なく擦りこむ

  うわさ話はひとりでにもう歩きだすのだ

                               フォト
    ――でも、水槽はとっくに溢れていたのだ、光量よ

    或いはもう既に、ひしゃげた鉄骨の如き海自を
              ぶい              くらげ
    浮き彫りにして(浮標に、あるいは萎えた水母にして)!
     レンズ
    [眼鏡を覗くと、見えそうだ。――杭が
                   セイレーン
     あるいは水死者の手が。妖婦の歌が]

    漁師の網にかかっているのは、

    アーネスト・ヘミングウェイの文体・・・!


遠ざかることで見えてくるもの

「たとえば、それはコーラの瓶に投影った猫の目、」

不十分な監視、判断ミス、回避措置の遅れ、

生かされていなかった二○年前の潜水艦「なだしお」事故の教訓

不祥事続きの海自。イージスというハイテク艦(までも、)

――憐れな人びとは、世界が丸くてもひらっぺたくても構わない、

好き勝手に味方にも敵になれ! 

しかし学校という集団生活のなかで暮らしている子供達は

どう思った? 千葉県の野島崎沖に投げ出された

行方不明の船主とその息子

ヴァカンスに行ったのか? 

それともあのバミューダトライアングル
       もど
オシメたち嘔吐してくれ

懸命の捜索にも関わらず五月二○日にうけた

あの認定死亡を。・・


  事故や不祥事は起きぬよう努めるのが第一だが

  “若者よ、”と海は自分に語ったのだろうか

  ――きらめく星は・・・棚の奥の隅にかがやく銀の食器
    くちなし
  だが山梔子の色、出掛けなくてはいけない

  そうだ、SPARK! 銀の食器は特別の時にしか出さない

  (たとえ、)気まぐれで、変わりやすい海のなかでも

  覚悟は決めなくてはいけない。巨大な組織も、

  大衆たちもすすり泣いている場合ではない。孤独のうちに

  凍らせ、――製氷機にして、[糧にして、]

  白鳥が天に帰るのを見つめなくてはいけない


「あたご」は折しもアメリカ合衆国での

艦対空ミサイル“SM-2”の装備認定試験を終え、

帰港しようとしていた

(と、黒い鳥がしゃべりはじめる。)

――本来問いかけるべき言行は違う、

何故そんなものが必要なのかとビロードの仮面を外させ

波間にさらわれていく遭難する船乗りの行く末を案じよ!

防衛の立場ではなく、一国民の立場でもなく・・・。


  “ああ、なげくなかれ若者よ、”

  銀河や太陽をみつめながら、広大な宇宙、
  ケーオス
  荒蕪の地を、――数千年も昔から、白熱光してきた

  三尋も四尋も深く掘り下げてきた

  恐れ敬うわたしは製氷機からポトポトおちる海の霊
                           まぼろし
  喇叭のような悲鳴もきいた、ありとあらゆる幻景も見た

  (それは、)板きれ一枚にすがった海の遭難者

  火は燃えていない、追剥のように波はゆくだろう

  青色にかわった腕(「が」)

  ・・・回転木馬

  髪を振り乱した盾、千手観音、またその立像の

  曼陀羅の「そりゃあもぅ、生き地獄じゃった」


    どの窓にも明かりがないわけではない

    ふるいという穴の中へでも落ちるように

    釦のために釦穴があるよう(「に」)

    彼は彼の修正プログラムを秘密裏に開始しているのだ

    ――たとえ、ひと筋の白い光も見えない闇の中でも

    壮大なスケールの脳の中では、

    情け深い心というものがあるは ず・・


どんよりとして、またくよくよとして、

生まれ出る言葉をためらう日(「が」)

絶望的な不信が――長く続いた、とある日。・・

イージス艦の漁船衝突事故の情報公開遅れで、

防衛相の責任追及の声が飛び出した

イージス艦は事故一二分前に漁船に気づいたとの報告を

事故当日の夜に受けながら

翌日夕まで公表しなかった、と

――契約書のトリックはここにもあった

危険な関係をつづける、テレビカメラが後を追う、

「情報のため=大義のため」・・・盲目なブルース

鉄条網が張りめぐらしてある国の船影に

いざ、ズームイン! ・・・国民の不信のまなざし

みな、いちようにイージス艦を責め立てた

なんという、一方的な海自イジメ、ミリタリズムの魔の手

そしてなんと愚劣で浅慮な、国のための國

アタボウ、それを言う者は“鬼”とされた

魂が去ったとも、去りかねたともいえぬこの時には

そしてその“鬼”の否定的な論調はネット社会に巣くい

(ただ賢そうに見えるというだけで、)

良心を失い、――さも群雄割拠

砂を噛むように覚えたのさ、お前等は

同じ文句を繰返し続けるオウムに似てる


  ポトリと落ちた一滴の涙をよごすのはお前たちだ

  ・・・そして一体何を盗んできたのだ

  知恵の実か? 黄金の林檎か?

  アア 時が過ぎてみな! 忘れ去るのが世の習い

  「憫れね、」と言ってくれた浪花節の視聴者も
                            ツラ
  いまではもう化けの皮が剥がれて胡散臭い横面
                     ツラ
  チラッとカメラにうつりこむ苦渋の道化

  そして――洗面器には石鹸の泡がこぼれてら


    ・・・ちがうよ! ちがうんだ!

    バンザイ! ナニワブシの調子で同調、増長する

    かつおぶしたち

    「清徳丸には非はなかったのか、」

    「なぜ、回避しようとしなかったのか、」

    それは蛇に睨まれた蛙だからなのか、

    違うだろ! 避けるのはいつも大きなものと

    油断していた(その時、事故が起きた、)

    われわれ国民の姿をアイロニーに捉えるのか、

    ちがう、所詮は結果論だ・・・
 
    無残に散華してうまれた! 黒と白の毛糸だ

    海の霊は言う――積雪を踏みしめるように

    あるいは言い含めるよう(「に」)

    “ああ、若者よ、――わたしは知っている、

    みなそれぞれが重たい不発弾をかかえ、

    夜のように冷たく暗く・・苦しみに沈みこみながら、

    幽霊船が永劫という途切れ途切れのなかを進んでゆく、”


事件は イージス艦情報漏出事件や

「しらね」の火災事故などの不祥事と眼差しを交錯させ、
                      うたげ
さながら電光の散乱、オリュンポスの歓宴だ

三月二四日に海上幕僚長を退任させ

防衛大臣は二か月分の給与返納、

防衛事務次官を減給二か月など、計八八人

――それで暗い大洋に行きついた魂は救われるのか

ほほえみがうまれるのか、神の思し召しはあるのか


  二月一九日、海難審判で

  自衛隊側の責任が認定されるのは早過ぎた

  ああ、進軍の喇叭よ

  弱者に浴びせた“感情”の血よ!
        カタルシス
  たとえ魂の浄化作用へと導くだけのアジテーションであろうと

  自分は、悪魔たちが好かなかった、お隣の人死んだみたいよ、

  (「が」)好かなかった。海自を裁く論旨も、

  正義は我にあり[(の)復讐するは我にあり]も。・・
  れいよう
  羚羊みたいだった政治家も――わかってるよ

  どうせポーズなんだろ、演出なんだろ、それ原稿なんだろ

  ああまるで、“仮面舞踏会”みたいだった

  ね! ・・と、火のでるような烈しい声で

  幻を見やすい、いち日に叫びたかったの(「さ」)


神よ、蜃気楼のようにみえる夏の海で

――事故発生当初から、あたご側にすべて過失があると断定し
           チューリップ
バッシングを繰り返した声を思うよ

さまよう雲も、いつか驚くべき船になる

革袋がやぶけて粉薬がでてくる映画のワンシーンみたいに

ズームアップ[ゆらぎ、鎖、ロープ、ライト、永久禁固刑]

・・・最新鋭のイージス艦であろうと、旧式の護衛艦であろうと、

近距離では目視が基本であるということを。――

大漁旗がバスや、ダンプや、トラックのガスのそとでは

おもちゃみたいな超高層ビルディング!

――妊娠する、うねる蛇

渦巻く! ・・興奮の原始の Rhythm


  ひとくわ臭せエ、いきぐるしい都会の海ンなかで

  どうしようもねエ魔羅
  
  ひとしきり揺れていやがった

  (羊朶類のような、)声だった

  やアーい、にゅうどう雲!

  うつくしく冷凍されている疑問の声

  血の滴らない代わりに祭壇となり

  お辞儀をして、ふた言み言

  (まるで、かき氷ありますの幟がゆれるみたいに)

  襟をただして、いつか朽木のごとく倒れる

  去ってゆく人 を 

  僕等は何も知らず(「に」)



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