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灯台

十三行詩

 13GHz帯~13行詩~






  13行×4連「負債」


 ある男が、病院でインフルエンザの予防接種をうけにいった。

 「先生、この頃では、二次感染の話もききますね。疑いのある人は別の戸から入るとか」

 ほう、おたくさんのようにみんなそう言います、と医者は軽く咳払いした。 

 「しかしね、二次感染と言ったって、そんなのはまあ可愛いものです。焦げ茶色のロバが

いる。ラーリューロウ 塩漬けロバ肉の燻製。リューロウフオシャオ ロバ肉の棒餃子。ヤ

オリューロウ ロバ肉の煮こごり―――やあ、なんでこの医者、と思われたでしょう? ほ

ら、あそこに可愛い看護婦がいる。口説いてみなさい、そしたらわたしの言った理由がわか

る。すぐにうれしそうに部屋へとさそわれるでしょう。しかし、いつまでたっても、彼女を

抱けないでしょう。その内にみんな逃げてしまう」

 はあ、なるほど、と男は顔面蒼白になった。しかし、試したくもあった。・・・ぶらぶら公園

で時間をつぶし、シーソーをし、ベンチで二三本煙草をすい、もう気が狂わんばかりになり

ながら看護婦に声をかけた。手がかりは一番上のボタンを外した時にわかった。

 ・・・その夜、警官に職務質問された男が、さようなら、わたしはシャブ中です・・・・・・。


  * * *


 髯も剃ってあるし、上着もきちんとしてるし、声のトーンがやさしそうだ、と看護婦は思

った。目ざとく確認しながら、財布の中を見せられるか、という。

 「携帯じゃなくて?」

 「これはとても大切なことなの」

 男はしぶしぶとだが、財布を差し出した。それは看護婦が想像しているよりも、ずっと多

く入っていた。そしてそれは大抵のことをしてでも、わたしをモノにしたい、今夜のディナ

ーにしたいと思っているということだ。狼が赤頭巾ちゃんを待っていたように。

 でも念のため、念のため・・・・・・。寝静まった町の、雨戸を閉めた・・・部屋のしずけさ。

 「欲張り、見栄っぱり、色ごのみ」

 男は頬をぽりぽりと掻いた。

 「ひどいなあ、・・・たしかに夜の公園で待ち伏せして、さっきの看護婦さんですよね、はい

ただけなかった。正々堂々と病院内で声をかけるべきだった。吊り橋理論・・・」

 男はすぐに自分の卑怯さを恥じた。それでいい、と看護婦ははじめて笑った。


  * * *


 いやしかしね、おたくさん、財布あんたが出したからね、・・・あ、あとで無効だ、プライヴ

ァシーだ、とか困るからね。まいったな、どうしてこんなにぐでんぐでんになっちまったん

だろうねえ。いやまあ、ご丁寧におたくさんの財布の中に看護婦さんのサイン付きのお手紙

がありますから、・・・それによれば、まあ、災難でしたなあってこともわかりますがね。いや

それでも、男ってのは馬鹿なもんですなあ。はは、いやいや・・・侮辱はしてない、本官はいつ

でも一般市民・・・、と、これも特権意識か、市民のため、たとえそれがケーンだろうと、シュ

ワルツネッガーであろうが本官は差別しませぬ。といっても聞こえちゃいねえか、馬鹿な男

だ。シーザーにブルータス、クレオパトラに毒蛇、毒薬、といったところですかな。しかし

それでもどういうくだりで、こう、酔っぱらっちまったのか是非とも知りたいものだ。でも

ひと言だけいいますがね、・・・空気注射するつもりないんですか? 新人の実験台にだけはな

りたくないものだ、とは言うべきだったとは思いますがね。ええ。ええ―――。それにして

もまるで蜂蜜の中におぼれた蜂のような顔をして。巧いこと言ったかオレ、巧いことを言っ

てしまったんじゃないかオレ、おおー、オオツー! かがやかしき、警官生活の一頁。


  * * *


 ルート・バスのなかで、吊り革につかまりながら、座席にすわった女に問い質す。

 「じゃあ、きみは・・・、その条件を飲んだら抱かれてもいいって言うのかい?」

 「ええ、・・・わたし、注射マニアなの」

 あざらしのようなぬくったい格好をして、小動物を思わせる女が口にする条件―――それ

は一枚の枯れ葉という皿にのせて、団栗の料理を振る舞うようなもの。

 しかしそれは涙も凍るといわれる、シベリアで・・・。

 「越冬対策委員会として、ひと言いってもいいかい?」

 「・・・するか、しないか、だけよ」

 いかにも挑発的な文句だ。まなじりの奥が、もうベッドに入浴シーンのお色気をつけてい

る。食後のコーヒーのストリップ・タイムに、一服の間のキスも想像できた。

 「―――何も悪いことしてない、は違うと思うけどね」

 あら? ・・・いけないの、と女は舌を出しておどけてみせる。女は男を試す。ダイヤモンド

の光る・・・、ぞくぞくとする瞳を曰くつきのものにかえて。




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