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灯台

MY LIFE 25


  第二章 進展



  1



 珈琲専門店ダンスダンスダンスに戻ってくると、もう、山本さんが来ていて、すでに一杯

やっていた。真ん中にテーブルをどんと置いて、所狭しと料理が並べられ、そこにいる、ゆ

かりも、葛城さんも、マスターも、山本さんも、みんな心底から楽しんでいるように見え

た。愛に屈伏し、至福の沈黙をえたいのに、僕は、まだ何かにこだわっているのだ。

 あなたのように死ぬ準備ができて?

 「いや、すみません、ちょっと遅れちゃって・・・」

 マスターにそう言うと、山本さんが、「竜也! なに辛気臭い顔してんだ、馬鹿野郎!」

 まったくもって、酒を飲む奴、馬鹿野郎だ。これは少年だ。この瞬間・・あなたは犯されま

す。干し草の上で堕落したエバみたいに、・・・それでもチャクラ、魂を癒す。RPGのように

されているf uckinの母!f uckinの母!

 ・・・個人的な復讐ラブレターのハメ撮り。

 でも、山本さん――師匠はにこにこして、チャクラを開ききっているという顔をして、サ

ンクスおいそれコンビニの名前だろう、神。と同様に。振舞うキリスト、――祝福はあなた

の心がけ次第である。さまよえ、わが腐海。

 さあ頑固な目醒まし時計のアラーム音が鳴ってる・・。

 「じゃあ、竜也――仕事の話だ。俺、師匠で、お前、弟子だよな」

 「はい」

 疲れているので、こういう時の僕はもう、犬である。

 (・・・はあはあ。ほねっこください。やっぱりドットわんがいいよね。そうかな、ナチュラ

ルチョイス。NO-NOーアーテミス! パーフェクトフィット――ピュリナワン)

 クリスティーの手触りとか、思い出してしまう。頭撫ですぎて、頭撫ですぎて、頭撫です

ぎて。どこからどうみても、脱力噛んで。脱力噛んで。脱力噛んで。

 ――それにしても、師匠は、いつもそんなことを言わないのに・・。

 俺はかわして逃げる、・・小さい雌犬のように。

 「ここにサインしろ」

 「ワン!違った・・はい」

 えーと、かんざき、いぬや――ってオイコラア! すみません、疲れてるんですよ、はあ

ああああダウンをゲット。チキンナゲットをバーベキューソースもう、なんとゆーか、辛気

臭くてぬかづけの胡瓜食べたいんですよ。食べたい!食べたい!食べたい!たくあん臭い口

臭してたいわけですよ。わからないかな、歯ァ全部抜いて総入れ歯にしたいわけなんです

よ。なんというか、ダルなんですよね。おお!ダル!ダル!ダルメシアンのダル!

 「不思議なダルね、あなたはサルね」

 何故か、ゆかり、きれいな声で歌った。ぼく、即興で歌詞を付け足す。葛城さんが、手拍

子を入れている。マスターはそれを面白そうに見ていた。

 「おおさる、こざる、なんというかータル」

 「たる!たる!たる!たるるーとはちがうたる」

 ・・・・ええーい、やめえい! なんじゃそのサイダー的脱力系の歌詞は、と師匠。

 いや、こういう時のこいつはこれでいいんだって、とマスターが師匠に諭してる。

 すかさず、僕。完全におかしくてソールドアウ!

 「違います、シュールギャグです」

 「どこらへんにシュールな要素があったんじゃい!」

 「ないところに、シュールさがちりばめられています」

 ――神はとらえられない。いま、僕の魂は下降している。でもわかっていた、それは、僕

の魂という車輪が、自走をやめ、何者かの力によって、いわゆる歯車によって走り出すと思

っているからだ。しかし、そういう他力本願さは棄て去らなくてはいけない。ヒーリングセ

ンターでリハビリテーションするがf uckinイエーもっとf uckin・・・。

 ふっと、今頃になって、山本さんが差し出した書類をまじまじと見た。

 「・・・あれ?・・ちょっと待って下さいよ」

 突然、僕は真っ赤になつて、噴き出した。

 「山本さん、これ、レコード会社の契約書じゃないですか」

 「あ、こいつ、気付きやがった・・犬辞めたのか?」

 「――人間です」

 周囲が、しらっとした。ゆかりは、少し慌てた。

 「いや、そんな眉間にしわ寄せて怒らなくても・・」

 無視した。

 「何、ふざけてるんですか、しかもこれ、・・」

 ざーっと読んでいると、基本給だとか、ボーナスだとかの記載があり、そこには、勤務地

東京だとか、指定の寮もしくはアパート応相談だとか書かれていた。

 「いや、あのね、師匠・・俺はこんなこと、全然頼んでないんですよ、わかりますか?」

 ぐにゃっと、紙を握りつぶした。ピックアップ針交流羽根の交流!

 ふっふっふ、と師匠。――甘い、ティラミスに蜂蜜かけるくらい甘い。さっと、もう一枚

取り出した。そして次に足下に転がっていた、段ボール箱を持ち上げた。・・おそらく、それ

は全部、同じ書類なのだろう。

 ・・・行動パターン読まれてるなあ。

 「負けました・・・」

 「やった勝った!」

 もちろん、そういうことじゃない――。そういうことじゃない、もちろん。もちろん、っ

てジャングルを歩きまわってるブラウン管のような虫の眼。

 「――とりあえず話くらい聞きますよ」

 「さすが話が早い。頭の回転が速い!」

 もちろん、褒めているわけじゃない。曖昧な欲望は、フェイドアウ!

 ――うんざりした偽善、コミュニケーション能力の低下を招く、咽喉というバイパスで俺

という車が崖に落ちる。消える、車。消える、俺という車。消/え/る

 「・・・実はさ、ほら、大分前に中学生バンドとか知らないか、ちょっと調べてくれよって言

ったら、お前、去年の学園祭でやったテープをくれただろ」

 「ああ、はい――あの、ゴミのことですよね?」

 ちくり、と刺してみるが、もちろん、手の内は読まれているのだろう。いつかお前にやっ

たよなサングラス、ああ・・あの片目の割れたやつですよね。霊的な調和、高次元意識の統合

。意識の覚醒。精神的概念の視覚化――ビジュアル・アート!

 ヘイ、ユウ・・めちゃくちゃな世界の俺というダムダム弾!

 「いやいや、ゴミだなんて、あれはまさしく金の卵! 捨てる神あれば拾う神あり!」

 「というか、職権濫用もはなはだしい・・ですよ、本当に。中学生バンドなんかそもそも存

在していないから、とりあえず、俺はこういうことをやってる、という捏造・・」

 「いやまあ、捏造なんていうと具合が悪い。違う、あれは見せ方、プロデュース!」

 「言い方変えりゃあイメージ変わると本気で思ってるんですか。捏造ですよ、捏造」

 「わかった、俺は捏造した――記事は採用された。そしてその記事を見て、お前に興味を

持った奴がいた。世の中変な奴がいる。俺もそう思う。でも見てる奴は見てる。で、レコー

ド会社経由で打診されて、デモテープ・・」

 「だからあれはデモテープとかいうじゃなくて、音楽的資料なんですよ、捏造の」

 「わかった!わかりましたよ、先生――神崎先生の言うとおり、あれは捏造でした。すみ

ません。ロッキンオンならぬパクリオン、でした。気狂いピエロです、すみませんすみませ

ん、やりやがったな、はい、やっちまいやした・・・これでいいか?」

 「いいですよ、もちろんハンバーガー喰いすぎ」

 「わかったよ、世界中ポテト喰いすぎ」

 ――苦渋にみちて生きていくために八当たりが必要だ、はなもげら、おまえコーラ飲み過

ぎ。yeah ファイナルアンサー。フェイダウ、フェイダウ、フェイダウ・・とりたてて意

味はないぜ。別に、お前に理解してもらう必要なんてないぜ。死ね。

 「それで、さらにその音楽的資料と呼ばれるものを、デモテープとして、聴かせた――そ

れで、相手方が早急に、契約したがってる。お前の才能が欲しい、と言ってる。俺はたまた

まそいつの師匠だから、よしわかった、口説いてきてやる、と大口叩いた」

 「このバカ師匠!」

 イメージ変えても、結論それである。

 「おお、バカ師匠、よくわかった。このバカ弟子!」

 ――まあ、ちょっと、落ちつけよ、とマスター。あなたもよ、竜也、とゆかり。わかって

る、デエエエエッド、f uckinイエーもっとf uckin・・・。

 「・・・いやまあ、強制しようとはしてないんだ」

 「いや、してたでしょ、あなた、さっき!」

 と、葛城さん、ナイスツッコミ。

 「そうですね、はい、してました――なんだなんだ、俺の味方してくれる奴誰もいねえの

か。ひどい店だ。潰れちまえ」

 「いまは閉店してるから、店じゃねえよ」とマスター。

 「――でも真面目に、竜也、いち度考えてみてもいいんじゃないか。給料だって、相当も

らえるから、バイトしなくていいし、お前の嫌いな学校にも行かなくていい」

 「あのね、師匠・・そういうのは、ちょっと違うんですよ――確かにね、いい話だ。俺は学

校が嫌いです。でも、学校が嫌いだからって、学校を否定してるわけじゃないし、まして、

学生の本分と子供時代という経験を、俺は俺なりに、得がたい貴重さとして思ってるんです

よ。・・誰にだって悩みはある、それを、急転直下別の考えで切り替え、明日からおまえはア

ーティストになれ。・・・無理ですよ、大体家族にだって・・・・・・」

 「家族にはもう、了解をとらせてもらった」

 なぬ、と、ちょっと絶句した。どうやって・・・?

 「まあ、最初はもちろん、やんわり断られた。でも、家族だってお前が特別だってことは

、よく知ってるってことさ。まずお兄さん、次にお母さん、最後にお父さんだけど、夜のバ

ーへ連れ出して一緒にお酒飲ませてもらったけど、いやあ、弟子の父親と酔いつぶれるなん

て貴重な体験二度とないだろう!」

 「はあ・・・」

 なんだかもう、段々疲れてきた。人生がまったく、何者かの手によって、無理矢理つくり

かえられているような錯覚に陥った。手をのばせばとどくであろうほどの高さの幹に、凧が

絡みついている。あるいはそこに、蝉が、いる。螺旋階段爬虫類を瑣末とす、か・・荒涼とし

た、無思慮のなかへ。ハロー、ハロー!――ずっと先の方へと、行くために・・・・

 「わかりました・・」

 「って、竜也! ちょっと待って、人生の選択よ、そんなあっさり決め――」

 「いや、別の輝きを探すために、ノブを開ける、入口と同じ出口を、さ」

 あるいは、帽子 家に忘 れ、猫 は カバンの中。

 ゆるやか に 流れてゆく 時の河――

 「・・・じゃあ、中学校卒業したら、電話いれるんで・・」

 「じゃあ、ひとつ、その方向で頼む」

 「はい、了解しました」

 ひどく、義務的かつ事務的な堕落する会話。・・俺達頭おかしいんじゃないの、そうさ、お

前等全員狂ってんのさ。パンクしてファンキーしてラップなんて出来るか糞豚野郎!

 ヘイ、ユウ・・! べつにお前の名前が知りたいわけじゃない。

 とどまることを知らないステップGO、そしてNEXT。――


  × × ×


 「でも神崎君は、明日どうするの・・・?」

 あ、それは、とゆかりが慌てたように遮ったが、葛城さんはそんな制止をものともせず、

新鮮な、、過去の時代の霧を通して刺すような光いきなり射る、光学的河口

   ――ねえ、カナリヤは歌ったよ、百億年の光を・・

     『きらめくメスさ』――こうして曲がった枝の上に座っていると、

 「・・誕生日でしょ?」

ない 我々はこのようにあなたの新しく巻き起こる印象を覚えて、

 おまえはまだこれから辿ってゆきたい、酒? 油? 
                                   マスト
  聖なる呪文が私の精神にあるとレイアウト:マリーナに並ぶ果汁

 「(空と海とが混じる――)」

      『一切を問うことなしに、冬去れば春来るとは言えぬ』

    ・・・(ねえ、あなたは何を見て、――眼を瞑るというの?)

  (気が乗らないことから回復)より大きい過剰に好き? 彼は自分が死ぬように好き。

           周りの鮮やかな緑の世界いくつもの水溜まりできた

 ――『ねえ、竜也・・』
  
   『明日は、わたしとデートしてくれない?・・違う、ううん、

    明日だけでいいの――明日だけ・・・』


      つながってる・・伏線が置かれている、無数の鉱脈がある、人の意識の中に

    そのきらびやかなおもちゃ、、有為転変の製靴、まるまった背中、穢い鼻

      (隠れ家に、)部屋があるビルがある

         実施タバコとげとげしい小さなハエが来るサボテンが尖がる

オールドバッファロー、その残忍な停止。一時停止。巻き戻し。衛生放送的一致

    (負担するたびごとに、) 地獄の門・・ぽっかりと青空の雲という穴

 ――『誰! わたし、――そんな人知りません。

    なに、この人、アブナい人ね、110番しなきゃ、

    消防車呼ばなきゃ! そしてわたし、これから犯されてしまう』


    それらの点滅宝石がキャストのように――輪舞、散り去った場所は

 家並みが途切れた朝の光が訪れる教会・・石の坂、果てしなく空が広がり始める

     彼女の短い、明るい歴史の中では、犬を連れて散歩する

       私の国の年代記の主張、美術館のあまたの絵、豊穣な疫病、浮浪

私は知らない汝――オペラ、交響曲、悲劇、

                しかし、誰、沈黙の中で、、

              と道路。(は、)クレゾール、消毒、海の車一台燃える

 ――『どんな女だって口先で言うわ。映画と同じ。その場限りよ。

    そしてすぐ忘れるの、自分の言葉に責任を持てずに。

    誰が正しいは言わない。ただ、わたし、

    本当にあなたのことが好きなの』


私はあなたの名を読んでいない。

(な、)思想で保存 、あなたの人生“あなた”を保存 二人称単数ライブ、

                         ああ、かもしれないその心は、

の、 無において深い影の摩耗。

       美しさの広がりのベール、(見霽かすことはもう――)

                       海に歌って走った。 しかし、

 慈しみ、という言葉が思い浮かぶ。僕は彼女にとても優しくしてあげたかった。いつのま

にか、あなたにやさしい気持ちになる。愛に堕ちた蝶なら、孤独は街の広場のようにあるで

しょう。見えるものは蜘蛛の巣なら消える群衆はイエスが去ったこの街の世界の破綻

 「・・・(だから、あんなことを、俺に言ったのか)」

                        紫色の、金の。花飾りを吊るして

               と。満ちた苦しみサイレント

彼らの光線に愛の視線を? その高い、――陶酔をか

 僕等はもう気付いている。世界は滅びてしまうのだ、滅びゆく前に僕等は呪文のように繰

り返すのだろう、偽りの愛の言葉を、虚しいだけの性的な試みを、妖しげな夜を前にして楽

しい晩餐を贈るのだろう。どれもこれも虚飾、哀しいだけのこの世界で雪はただ積もってゆ

く、降り続いてゆく。――証券取引所、原油高騰、格差社会、情報社会

そのような真摯な眼差しでは、深い、魂、明るい目――「崩壊をか・・」

     System 君はコーヒーという香水の中でうまれた解放欲望

私の心にあなたというの強大な飢餓が滞在している

        、その効力を証明する。 - 静かな興味のためには

嘘を煽られる、 (途中はふたたび ジャズの演奏、)

 ――『どっちが最低なのよ』

    ときは夏の彼女(おまえに誹られていた、信仰のみすぼらしい時刻、)

                      夏の息が彼女の頬をふくらまえせる

 成長と危機があって正午は絶え間なく急ぎ足の鐘という鳥の巣の中

             と。彼女のウェーブのかかった髪を投げ

 ――『・・・竜也には人の気持ちっていうものが、

    どうしてわからないの。どうして、あなたは、

    ほんの少しでも、たとえば“My life”の読者みたいに、

    東京でマスターに“さびしいだろ”って言った、

    あの砂浜みたいに、

    どうしてそんな風にあたしのことを想ってくれないの。

    あたしは一体何なの。あたしはあなたにそんなことひとつ、

    望んではいけないの』


 ・・・君を許すほどに、こぼしたるミルクが広がる。待ち受けるは冬、長い、果てしなく長

い、想像に絶する程の長さの冬――さびしさが、僕には隠せない。嘘をつくのに嘘をついて

いないと心まで騙してしまう階段は“霧”

  がある                     彼女の耳に不和、天国の賭け

                 、暗い夜を下げると、それはまだ

     明るく光ります。 追求する 、見知らぬ人の寒さのすみか-

         メモリの色あせた錠剤、に

ミュート象牙、喪失感液状化時刻案内影地上に非ずロンドンの霧

  がある   霧            苦悩のすべてのノートに。

                と何の痕跡を残していない。――

そして、すべてがそっぽを向く私の涙で盲目に。

しかし、時には派手な一日が渡され、   霧  ある    がある 霧

 「(彼女は座って、彼女は穏やかな折り――)」

   言えないことが  増えていく    霧  が ある 聞いた 音   霙

      ・・・ 石の冷たさ やさしさを  凍らせる ここにある 歴史 という 霧。
  
 『やっぱり、ゆかりちゃんが大切か――』 

 想像力の目 ・・  つめたい固さ さ すっぱいエクスタスィ

       遠い距離 よ  ・・・ 何か あなた が 遠く感じられる

            海のように 取り囲むシステムを含んだ空の。深淵は

 がある     霧               視力への、 そして、物質への壁

 (ねえ希美衣さん・・どうして僕は、どうして歴史は、こんな風に、浮気や不倫を悪いもの

として見ているんだろう。セクスも。――だって、それは文化的感情に過ぎない。一次二次

三次と姿がどんどん変えられていけば、人間だって、そうさ、人間だって、紐解かれてしま

うはずだ、科学の分解ー縮小ーいわば最小単位へと向かう紆余曲折的細分化)

                苦しみによって引き裂かれ外側に吐き気を、、

 (あてどない――警備地区。貿易の城。さもなければ教会の前・・・僕はやっぱり、迷うんだ

。洞窟なんだ。記念碑的なイラスト的色彩の勝利なんだ。啄木鳥なんだ。穴なんだ。肩をす

ぼめて顔を濡らす、水を見る、くらやみの膨張なんだ)

     散らばって壊れた星座、、  白内障 莟のパルス、廃棄物の天体、宇宙人の夢

 がある   霧            天の凍った砂漠で。
       、、、、、、、、、、、、、、
    ――珈琲専門店ダンスダンスダンスで。ストローでコーラを飲む、一気に飲めない

あの感覚。。南京錠とシリンダー錠を説明するように、それはややリアルさに欠けた表現だ

った。つまり映像的ではないのだ。でも毎日が戦争さ。頭の中でミサイルが飛んでいるし、

バズーカー砲が乱れ飛んでいる。地雷を踏みまくるし、拳銃でいっそ頭を撃ちたいと思う時

だってあったさ。ねえ・・あった――さ・・。
 

  × × ×


 なんだか、嫌なことを聞いてしまったな、いや、そうは言っても、それで不機嫌になると

いうわけではなく、曲げようとすれば折れ、無理に開こうとすれば永遠にその扉の向こう側

には行けない、というような焦燥感を僕は味わっているのだ。だから、今度のことで、希美

衣さんはむしろ当然すぎることをしたのだ、恐ろしい火の手があがれば一目散にさっと駆け

出す、――人は薄情なものだ、でもその薄情のなかにも、まじめなことや、冗談のようなこ

とがある。そして人間の中にはその薄情ーエゴというやつを、ある奉仕のように、お互いを

憐れむような概念として理解する者もいる。

 ――希美衣さんは少しもこれを、悔やむ必要はない。そのはずだ、かつては利益を度外視

して出来たことも、状況が変わった、雨の日に傘は貸せない、銀行も心がわりする。真に虚

心坦懐に事をはかるというようなことは、実際問題として期待するべきことではない。身か

ら出た錆とはいえ、図らざる災難に巻き込まれたとはいえ・・・上にも下にも横にも中央にも、

人はいる、逃げ場所はある――そうは知っていても、およそ真実である、虚妄である・・今度

のことで縁を断ち切っていいなら、それは固執するということがない、“超越している”と

いう見方ができる。たとえそれが世間一般で、薄情ではなく、怜悧と言われることであろう

とも。歴史の一齣ばかり見て、摩擦を少なくするのは、平等さに欠くことだ。だが、自分に

とって利益のあることばかり考えるような心の浅い人間ではない。

 そのはずだ、だから、僕はこうやってゆかりではなく、葛城さんから、何か怜悧過ぎる、

はっきり承知しているからこそ無視される、親しみにくい、人の都合のよさに僕は何か孤立

してしまう。心遣いだとは知りつつも、人の心模様は、波打ち際と冬の白い吐息のうちに、

予期せぬ半身を得ることでもしたように。

 ほとんど絶え間なしに、珈琲専門店ダンスダンスダンスの中で、喋り声がきこえる。それ

はマスターだったし、山本さんー師匠だった。確かにそれはいつもとは違う、明るいさざ波

のように広がっていたのだが、今日の僕は、あるいはいまの僕は、それが不思議な夢のよう

に思われてならなかった。生活というところに中心をおけばそのような箇所から見ること

も、あるだろう。風邪をひいている時の朝方は、いろいろな小鳥たちの鳴き声が心底うらや

ましくなる。でも存外、健康な時には日常というものに呑み込まれて、その“青い鳥”に気

付かないものだ。そしてそれらは、“聖浄”であるという見方をしてしまう。故にわれわれ

は下劣で、卑賎で、罪ない避難民すら嘲笑う運命の神のごときなのだ。短期間のうちに支配

者がうまれ、システムは[支配と隷属]というプログラムを起動する。参加者と非参加者と。

 ・・・ただ見るための、純粋な絵画のように、時は流れていた。

 それはまるで不正義がある秩序がある王国と、正義がある無秩序の王国のように――僕は

、古代と現代というものの見方を推し進めながら、すべての階級を通じて、ああ、階級の歴

史という取って付けられたような決まり文句のキャッチフレーズが導き出す、革命と、制度

と・・いま、一個人の良心とは何だろう。何を例として見習い、あるべき姿を見出すべきなの

だろう。・・・有害なもの、嫉妬による中傷、さながら投石機ーピッチングマシーンよ、千年万

年も、僕等からついて離れることはない、冷厳に永遠に反復される現象よ――。

 とげとげしくはなるとしても、善意の、あるいは同情の、状況においては無頓着、しかし

ゆかりの見方においては、ほとんど、美しい、こういう貴重な瞬間に、何か突飛なばかげた

行動でもとるべき僕が必要なはずなのに、いまはそれを、実行できない。抵抗することは、

正しい答えを間違っていると素直に言えた時に、平気で耳をふさいだ、お前のことだ。お前

の誤りはけして去らない。飛翔するということがない。意志は石となった。お前の中の事情

がこのような状況的場面を産んでいる。

 予測は、敬虔な宗教的感情を釣り合わせるのに似ている。人はそれが読めないと思ってい

るが、よく見れば、くっきりと輪郭が見え、それはだいぶ昔に必要であったはずの、あるい

は身につけたもの、その時の自分が微かに思い描いていたものに似ていたりする。そして必

ずそれは、遠い時代のことのように思えるのだ。まるで人を隠しやすい逢魔が時に、少女や

少年たちを、神々が攫って行ってしまったように。

 でも、だからといって、その予測が免罪符となって、あの時もそうだったからと開き直れ

るわけではない。むしろ後悔は憂えることのない境地へと、潜心し、熟考し、理に反すると

ころへ、悪徳のところ、たとえば直感力を奪おうとする注釈のところへと、ふたたびまた向

かうはずなのだ。――僕はその場を明るく繕う。無関心な空気、自分勝手に・・「あなたに

は、そういうことを言われる筋合いはない」とは言わず、人生を深く見るように、耳ある者

の常として、勇気をもって、その苦悩を垣間見る。努力的な姿勢をもって、その大勢のなか

へ、集団的なパーセンテージの一般論のところへ、精神をたえず、真理へと結ぶのだ。

 ああ、しかし昼どんなに幸福な者でも、夜の冥さのなかで、不幸のどん底に落ちないと、

・・・しかも、あてこすりではなく、ごくごく単純な理解、庶民的な感情だと思いはしないだろ

うか。その欺きを、嘲ること、より弱い者になることが、いまの僕の無口な夜をつくってい

た。たとえばひと目を引くけれど、深みがない、落ち着きがない、ぱっと見事にいきおいよ

くはじけるシャボン玉・・サイダーの泡の、恥ずかしさと痛さと怒り。でも、いくら黙ってい

てもだれかが、はっきり責任をもって、――たとえ年がら年中行ったり来たりを繰り返すと

しても、ある心の中の良心、方針や、保障というものの中で、人はエレベストの頂上で穏や

かな死にも似た生の幸福を味わおうとする、と言えないだろうか。

 たぶん、僕は禍いを幸いであると見なそうとして、すべての流れのうちに、静止があり、

きびしい冬の訪れのような堰き止めるという現象があり、もっとも我慢ならないことに、そ

の現象がたえず流れをやめないということで、そこにしか、しがみつけない、そこにしかそ

の流れがない、という視野狭窄がうまれている。辛辣な毒舌はそのためだ。賢者の諸々の偏

見から脱する“解”が必要だ。まことに邪気がない、うなだれた狂信家、あまりひびきのい

い言葉ではないが、ドンキーホーテよ、自己の教えを、落葉のなかから袈裟の衣をうみだす

。人は見出すことなしに、ここまでが正しい、という定規を、ものの見方を持つことはでき

ない。いかに深遠に見える哲学もすべて空語である、というのはこのためだ。

 でも、・・・どうして繕うんだろう、こっぴどくやられるよりも、心を深くえぐられたからか

。傷ついたからか? 僕が――それとも、希美衣さんが・・。

 何の甲斐もないことだ、憂鬱からは虚無しか生まれない。だが、世界を厭いた者にとって

は、あくびをする者すら、医者となる。治療となる。

 必然性は可能性の否定的媒介を通じて、途中で方向がわからなくなってしまうが、所詮、

疲労だの、気まぐれだので、あらゆる風に自己というものは、自分自身にもてあそばれる。

そしてそれは多く、老いぼれたちがよく知っていると思っている、つまり勘違いしてるもの

だ。違う、これは動物的本能への回帰である。

 歩きつづけるより外はない。賢さよ、すべてのものの数よ、わかっているはずだ、人は、

苦境によってゆがめられ、悩みさえ、愚劣なふるまいや、いたずらなふりの中で、殺されて

しまうということが。でも考えてしまう。しかし、それでも、考えてしまう。見るあてない

“恋人”や・・・彼女が望む、結婚や、子供・・それも普通の人生、おそらく僕を中心とした、女

は一歩下がれという亭主関白を認めた、そういう女の幸せを、僕は与えられる立場で、選ぶ

ことができる境遇で、しかもそこに親友の秀一や、いつも優しくしてくれる、裏表のない、

それどころか、本当の息子だったらよかったのになあと、僕の度重なる暴力事件や、ひとり

歩きする噂を知ってなお、寛大な態度、相好を崩そうとしない、すごく理解のある大人であ

る秀一の両親というプラス要素、雑誌の付録についてくる限定品があって、――どうしてそ

れに肯けないことがあるだろう・・どうして自分は、こんな風に、可愛い後輩的役柄の“ゆか

りの誕生日”に彼女が知らないふりをし、明日デートしたい、といわねばならないのかにつ

いて、名前を呼ばれた夢の錯覚、未知の人間の眼のように。依然として好意的に耳にひびき

、また、その生まれつき盲人のような、声というものの、さらに心の声というものの深みを

呼び覚ますように感じられた。いつのまにか、焦点が合っている。まことにわかりきったこ

とでありながら、ともすれば僕に忘れられている。

 どうして、僕は、人間というのはこういう奴!・・こういう嘘をつく奴――と、自分を詰り

たくてしょうがないのだろう。希美衣さんを冷たくあしらわねばならない、彼女には、もし

かしたら、僕しかいないかも知れないのに。「重い」という言葉は、たやすく、だらだらし

て、僕からやる気というものを奪っていくのだろう。違う、人は誰しもが同じ魂の量しか持

てないのだ。何故なら、ゴールが一緒であるというものには必ず、スタートが一緒であると

いう真理があるからだ。確かに、彼女の知恵は、ここにきて、完全に確定的な説明を得てい

る。そしてそれは「深い」――夜の思想だ。希美衣さんは、お前を愛するからだ。愛するか

ら、なりふり構わないという態度をとっている。愛するということは多く愚かなことだ。愛

するあまりに盲目となり、対照法がなく、たかだか選択制のゲームに過ぎないということを

忘れる。あらゆる肉体には欲望が宿る。慎重に思慮すれば、人は蜜を欲しがり、人は餌を振

りまいているということに気付くはずだ。

 そうだ、キャッチセールス達! ・・今日も我々は、餌をつけて、かくれた釣り針でもって

、じたばたをするお前を釣り上げたのだ。虎か雄牛のようなふりしたお前を。

 希美衣さんは、いつだって理性的なんだな、と僕は思った。・・本当はすごく打算的な人だ

な、でもその打算の意地悪い見方のなかに、浪費者のような、まったく人間を取り囲む種々

の欲望の成就がある。真相は静かに去る。隠者の洞窟へと、去る――

 僕は都合の悪い、こういう答えが人を成長させると思っている。その言い含めるような響

きの中に、救済があり、自戒があり、たとえば氷のように冷徹な、死をもってしか、人は変

わることができない、という鷲蛇を食べるような見方が・・確かに頭がいいけれど、僕のそれ

は。人が僕の話を聞かず、日々を散漫に暮らすことへの不平がある。“my life”は、ひけら

かしかも知れない。それは僕の尖った、凍てついた、超越者の直接生ずることのない誤りで

あるかも知れない。意識し反省してゆくことが、徹底的に自覚してゆく過程が全知者と無知

者との中間者をうみ、それは心がけを承知するところの、探究心であり、懐疑から発足する

愛だ。ちゃんと客観的に身の丈ではかって、本能レベルで感じて、そう言っているが、人は

常に絶え間なく外敵影響を受け続けている。そこで、自己防衛ができればいいのだが、多く

は、僕をして離れさせる。その幸福というものをもはや、僕は追い求めてはいないのだ。そ

の幸福は、とうに枯れている花のように、種になるどころか、発酵して臭くなった。自己を

形成してゆく・・・確かに、僕にとっての醜さは、僕が夢み、考えた時に、生まれたものだ。人

は成長する樹ならば、人は環境によって左右されている、不確定な、道なき道と言えるので

はないか。ああそれがどうだ、なにをこんな瑣末なこと、ちょうど、自分がたくさんの好き

になった女性たちにふられたように、縁がなかった、たぶんレッテルを貼られ、たぶん、好

きになった相手に「怖い・・」「そんなこと、嘘でも言わないで欲しい・・」と思われたかも知

れない、と思いながら、希美衣さんが、長い間、僕のことを本当に好いてくれていたことを

知っていて、しかも、そういう全部が全部、僕という扱いづらい人間に向けられていたこと

を知って、今度は希美衣さんらしくないことまでやらせ、嘘ではないけれど、内緒や秘密が

このようにして生まれたことが、一気に、ぐんと胸にきた。痛く、そしてせつない。訴えか

ける相手・・たえず、しきりに求めていたものから拒否され、拒絶されていた僕に、彼女がい

たわっていた理由、常に僕に目を配っていた理由、そしてもっとも高くて、もっとも深く、

その美しい人の心はなんと僕の胸をうるませたことだろう。

 ――手首がやけに太い、いつしか胸が張り始め、たのもしげに僕が見えるということが、

男性ホルモンや、たかだか印象というだけで、本当の僕ではない。かといって、こんな風に

思い煩ってみても、似つかわしくない、と冷たくあしらわれ、ちっとも理解されないとい

うことに僕は僕で深く傷ついたりもする、僕が、その欠点となり得ぬ徳を、人の心の正しさ

を、至上の勇気を、さもなければ孤独との衝突へと急ぐだけの、彼女の選んだ、今回のよう

なことが、どんな風に別の海へ広げているかを知った。

 ・・・そうだ、彼女は一歩間違えば、僕から否定される。それどころか、その失態をあげつら

われ、ひじょうに醜い豚よ、と僕に罵られる。僕は他人を誤解しない。僕は自分に厳しく接

するように、他人にも同じ眼を向ける。誰でも理論や博識を利かせたがる。誰でも党派に属

したがる。誰でも以前のようであればいいと思いたがる――でも、不協和音があらわれる。

それは予言的精神だ。彼女は、顔や声や、これまでしてきたことを通して、僕を、白い眼で

見る、――ああ、火刑場や拷問台さながらに、主観という一個の抽象物を見出すことで、彼

女はとうとうその選択に辿り着いた。君は矛盾という同一性をを見た。ああそれがいくらこ

の精神に幻影の蝶を蛾のように見せて落ちかかろうとも、ふしぎな影のように何ともつかぬ

不安、腑に落ちない疑問の鍵となって、まるでガラスように冷たく氷りつくとしても、僕は

離れ小島で、自分を客観的に見つめ、さらには主観的に、自分を映じようと、やはり強くな

ぐられたような気がしながら、色んなことを推し進めていかなくてはいけない。そうだ、希

美衣さんは、まったく新しい創造をした。

 ――彼女は僕が明日デートをしない、ということを知っている。それどころか、ゆかりか

、あるいは周囲の人間からゆかりの誕生日であることを、教えられる、と知っていて、わざ

とそう言った。そしてそこで僕はゆかりと希美衣さんとの天秤をかけるのだが、実はこの瞬

間に、希美衣さんのトリックがあり、希美衣さんは、僕が断れないような物の言い方をした

。それは僕がおそろしく義理がたく、友人や知人に、甘いということを知り尽くしているか

らこそ、――あのような台詞が言えた。そしてその時、僕が今回のことを断れば、いままで

のように接する、やはりいままでのように友人関係が続くということを、示していたのだ。

彼女はおそらく、度重なるごとに、今回のことを持ち出すだろう。いつそんな悪知恵を思い

ついたのかは知れないが、――僕は彼女とデートしなくてはいけない。そうすることで、彼

女はもう同じ位置に立つことは出来ない、ということを自分自身で認めることになる。何し

ろ、彼女を嘘をついた・・・秘密や内緒をもったことによって、彼女自身が、僕に近付くことは

できないということを、まわりくどく、彼女は説明した。だからもう、僕のことを、いつも

のような、あの明るい馴れ馴れしい英語で、僕の名を呼ぶことができない。その代わり、希

美衣さんは、僕とゆかりとの間に波風を立て、・・おそらく、ゆかりには、今度のことでよほ

ど恐ろしい絶望や情熱を見せつけることだろう。――この一見単純にしか見えない、やりと

りの中に、希美衣さんがひそませた毒薬がある。

 ――僕はそれに、気付きながら、疑惑や苦悩を、・・それはそのはずだ、だって、希美衣さ

んがそこまでするとは思いたくない・・・でも、僕はそれをありのまま語ることはできず、うま

く、他人の眼から隠そうとした。そしてこの瞬間、僕の共犯は成立したのだ。


  × × ×


 それまで何となくざわついていた珈琲専門店ダンスダンスダンスが、針を落としても響き

そうなほど静まり返っている。感覚の間に外的な不自然な連関がある。気配さえ感じられな

い。みんな声を発することを忘れたかのように動かない、扉が――鷲の頭が彫ってある・・・固

く閉まっていて、僕は鷹揚に目を丸くして、急激な速度で、痩せ始める。すると、目に見え

ぬくらい静かに、静かに、僕は悲しみの表情に変わってゆく。それは感覚の多用のうちに広

げられ、丁度雨上りの庭土のように、僕の目は、僕の耳は、僕の鼻は、僕の口は、どんどん

輪郭をうしなってゆく。もう無機物のような眼を大きく見ひらいて、遠くの扉が開くように

思えてくる。美の欠如、希望の欠如・・

 ・・・消えたランプは一切の不協和のなかで、ガスのように、もっとも軽いか?

 [それは、湿った冷たい腕です](それほど、灰色だった・・)

 何かの音楽が流れているはずなのだが、僕は憂鬱な、黒色の中を歩いている。崩れて落ち

る、不在。喪服を着た、しずかな足取りで進む俯き加減の男。この宿命のような暗さは、他

の誰も知り得ない。胸えぐられるような渇き・・

 ――まだそれが僕を充たす、“消費者”とか“世界”と書いてある、表紙。

 その時、自分におよそ、縁遠かった遊戯の丸い輪があらわれる。魔法陣のように、突如

としてイメージの中に現れる。折から、交霊学とか霊界通信という言葉がちらほら聞こえて

くる。服が燃えているー露はおびただしい。アナを掘っているー狭い、充足した空間をもし

棺桶と呼ぶならー見つからない霧氷の花ー見つからない地平線の花・・・。

 無味乾燥な夜の息吹は動かぬ薪の山を建築する――衆人環視の中で、尻に力がこもり、ぐ

いと下がっては上がってくる。何百年もの前の記憶を、梃子にしていた。

 「生命は早く天へ・・・」(人差し指と親指の間に、ずんぐりしたペンがある。)

 ・・・ねえ、モーターボートってね、網にすぐ絡まるんですよ。

 讃美歌集でもひらいたように、金色の十字架、銀色の月光、そして白磁器の、流麗な

曲線が肉感的に浮かびあがる、清冽な、おそろしく精巧なビスクドール・・。

 「見て・・あたしを――」

 執拗に主張する、誘惑の威力。・・黒い水に凍えている、白鳥と、でたらめに奈落への欲求

を募らせる湖に浮かぶ――幾筋かの道。壁が取り巻いては下がり、よじ登れそうもない孤独

がどんより鈍く、泡をうみ、それはやわらかいあてどもない空へと放つ、無形の眠りだろう

か。蛙のオリーヴ色の卵を思い出す。月光のある湖は、トウモロコシの毛が茨のように蔓延

っている。ひと夜、ひと夜が・・谷間・・・逆さづりにされ、どれほどの夜のずっと低いあたりに

、銃のように馴染んでいる、ごわごわした長靴。長靴が・・やがて死ぬ――。

 自己を識る者・・自己を絞首する者・・・。

 「水から浮かんだ魚のように、じたばたしている・・」(白く立つ、悲しい場所・・・。)

 まるで誰かの夢の中からそのまま抜け出てきた人のように、朝に踏みならされる前に、あ

るいはこのイメージの消える前に、僕は走った。すばやくそれを取り去った。ランプのよう

に頼りない夜に揺れる連続モーション、山の暗い輪郭・・川の流れる強さ――。

 その躊躇と恥じらいが入り混じった様子で、すでに、色をうしなった、乾燥の焔が、いま

だ破壊されずに、うつろな領域でブレーキをかける。わずかな光を求めて、いま、僕は小さ

な火を起こそうとしている。四本の指を断ち切ってしまおう、ことに影を、赤く色づけるた

めに。空気の肌を、より痛く、気狂いにならない程度に、鎌の刃の悠長な仕事をさせよう。

裂けては冷たい藁、離れれば、つめたい、火の消えた暖炉。

 腰を柔かく左右に振って、遠景のまわりに止まり、目の上で・・・《光》――。

 そう、・・・扉をあけると、マスターが何となく淋しそうに、静止している――。

 家具、寝台、床・・そうだ、さっき、――そうだ、どうして僕はそのことを、きちんと記憶

にとどめなかったのだろう。マスターの家に僕等はいる。笛の口と自分の咽喉が薔薇色の領

域で接着している。人と物質との微妙な関係が、折れ線グラフのように突き刺さる、斜線の

光線。瞳という宙づりの太陽。太陽に照らされるものは影の彩り。そして昼の威張った顔。

太陽が届かないホワイト・ペインティング。

 《光》が、・・射し込んで来る。未成熟ゆえにあからさまな膨らみのない、《光》・・。

 その底から、どことなく透きとおって見えて来る悲しみの色・・・。

 「ま、マスター」

 ――きしる桟橋に砕け散る、波頭。たかい弧をえがいている、鳶。・・平面的な、のっぺり

とした昼の空。蜘蛛が象の耳のような樹の幹へ叩きつけられる。一度・・・二度、回数を重ねる

ごとに腐った臭いがする。棘でぷつぷつと穴があいていく。目玉のように赤黒く燃えている

、高温の醸造所。・・夏の血、果物の血、ざらざらの厚い膜のグレースケールにいくつもの星

がちらばる黄色い、オレンジ色の血。

 以前にも増して、嶮しく眉間に皺が寄り、吃り、壁を叩いているような、いや、あきらめ

て尻もちつくような、僕を、マスターは心をこめた眼差しで、上から見下ろしている。

 「竜也・・ちゃんと飯を食ったか?」

 諸現象が系列を形作り、・・《光》――。

 「はい、――いただきましたよ」

 「おい、これ飲めよ」

 「ビールですか、いま・・あんまり酔いたくない気分なんですよね」

 「堅いこと言うなよ」

 自分をも不快にさせる程の反響を持った声で、

 呼んでみた・・《光》――。

 背骨が、二つに折れる程曲がると、ある波の上だ、

 石の原が無骨な蛇のように、見渡す限り邪悪に広がっている。


  2


 僕はその時、ゆかりとのことを思い出していた。・・・ねえ、ゆかり、君を祝福したい。僕は

その日、録画ボタンを押しっぱなしにしていたように、その時のことをよく覚えている。と

言っても、その日、学校があって――たとえば、トイレの回数、その日どんなことを考えて

いたかとか、――ようは、文章は暗い光・・。
 
 何処が『はじまり』で、何処が『終り』なのであろう・・・。

 沖に小鳥がとまったように、じっとしている船。魔法の力は消えたのだ。-それはもう生

物ではないところの静物画ではない。数滴のクロロフォムを垂らす、・・眼差しは沈み込み、

「俺と顔を合わせる意味がわからない。」「俺は人殺し!」「俺は不愉快!あの道を通らな

い」――ますますはっきりと映像が浮き出してくる暗室・・

  ●バーゲン会場●(夕方

   「すてきな、くず箱ね」

  「マンションも、三面鏡も、洋服ダンスも」

    「すてきな、くず箱ね」
 
 思いもかけぬ感情のはたらきが、時間を包むように花の匂いへとかわり、ふと記憶を掠め

て消える。すこし微温いようだといって、湯の栓を捻った。それから、湯の量が少ないとい

って水の栓も開けた。

   葡萄酒を傾けるような」日常の気易さ」

 なん度刷りかの綺麗なポスター。・・・なん度刷りかの綺麗なポスター。・・・・

 僕は珈琲専門店ダンスダンスダンスを目指して歩いている。マスターと知りあってから、

僕はそこから、なにか簡単な鎮痛剤のような物をもらっていた。芸者達で博識な“神様”

 もちろん、運命の恐るべき宣告!・・知っていたさ、知っていたとも、いかに完全に見えて

いたっ ていつかはだめになる。駄目ー凶暴な盲目ー生活に落ちかかる、ぼろぼろの粉。

 「ねたみぶかい、時よ」

 と知る冬の僕は、あらゆるテクノロジーの終わりを実感している。

 《いくつもの応答がありません》(心配しないで、ね・・・)

 二、三の質問をしてみれば、飛ぶ、・・でも、流れを止めておくれ。うなり声をあげていた

、もの言わぬ岩たち。永遠という虚無たち。過去というくらい深淵たち。俺は・・殺虫剤住宅

ローン支払い絶望的なゴキブリ睡眠。――ほんとうに、おまえ(は、)―――

   珍しい樹木や、美味しい果実、今宵おまえは何を語るのか
 ――死骸に寄り添っている、目は率直。

 On foot make walk 

 [walk]・・足を使って前進する、歩く、匍匐前進する、のしのしと相撲力士のように歩く、

道化師のようにおどけて歩く、歩く、風船、凧、いまはやさしい魅力をおびた昏れかけた町

の太陽のように歩く――ふと、子供にかえったりして・・・

 
  ≪さよなら≫ってすごくきれいな《ことば》なんだってね・・・


 カノンはインテンスブラックなんだ。――夜は階段を降りてゆくとき、最後に彼に出会っ

た。「忘れないよ――忘れさせないよ・・」

 素晴らしい仕事をあきらめ、――半分暗闇の中でのダンジョン的作業。スープからは湯気

が出ている。テレビは嫌なニュースがオンになる。忘我の霧で溢れさせよ、[すべては、わた

しのなかにあり、すべてはあなたのなかにある]

 
  いつくしみ合う、憐れみは、

   とまどう、

    ひとりぼっちの君さ・・





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