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灯台

MY LIFE 27


  3


 ゆかりは、多分いまとそんなに変わらないんだ――少し幼い顔立ちをしていて、そこに、

未成熟な、曖昧模糊とした、渾沌の底しれない、どちらへとも傾くか知れないような不安定

さがある。好奇心をくすぐるような、まだ莟の醜さ、しかしそれゆえに期待する、うつくし

さ。・・その時は、まだお人形さんのような美しい顔立ちに、少し照れてもいたっけ・・・。
  、、、
 「ゆかりは、何処から転校してきたの?」

 名前を呼ぶたびに、気づまりや羞かみのようなものがあって、少しおかしい。たび重なる

と、それは、あるきまった形になって、もう、ズレたり、ぶれたりすることがないのだ。

 ・・・その時は、僕はゆかりが、沖縄とか北海道から来たんじゃないか、と思っていた。整っ

た顔立ちは、・・本当にその時思ったのだ。僕に結果法則的系統の概念を強いるものであり、

比例して結合し、発展する。構造は不安定だが、形態の構成としては的確だ。また、主張が

芸能人、ハーフ的影響をうけて接近する。

 ――難しいことを考えているが、ふつうに言えば、別に何でもないことなのさ。

 でも類推とか、ある連想的接近方法というのは、相手を知るための手段だ。また、物事を

整理しようとつとめるのは、相手の印象に照準を絞り、そこで付き合っていくための第一段

階だ。人は多面体だが、・・人は確実にある印象に沿って話している。

 ゆかりはもしかしたら芸能人になるかも知れないよなあ、とお馬鹿なことを考えたりする

。だってそうだろ?――顔がきれいなだけで、芸能人になる・・ようは、有名になれるなら、

不美人は整形するべき、という恐ろしいトンデモ論が成立してしまう。でも論理的には、正

しいのだ。芸能人には綺麗な女性が多い。ゆかりは美少女だ。だから世の中の不美人は整形

するべし。・・・所詮みんな美人が好き、だって秘書は美女だと社長の威厳がつく、という悲し

い社会的な心理学さえうかがえる。

 人には魅力がある。そして魅力とは、顔形や、スタイルの良さではない。

 「遠くからよ、」

 ・・・いまだったら、色んなこともわかるのだけれど、――その時、ゆかりは言い淀んでいた

。できるなら、その話はしたくない、というサインを送っていた。
      、、、
 だって、ゆかり・・かなり、無理して笑っていた。

 「・・・東京から転校してきたの」

 洞察力って何だろう、と思う。――ゆかりは、俯いていて、少し淋しそうだ。犬の頭をな

でながらベンチに座っているゆかりは、いまなら僕に、客観的になれ、距離感を考えろ、と

促すかも知れない。だって、みんな心を丸裸にして、全部ありのまま話して生きている、と

いうわけではないから。でもそんなことお構いなしに、無神経な僕はあたり構わず、

 「へえ!東京か・・遠いなあ、・・どこ住んでたの」

 「あ、うん――」

 いまだったら、地雷踏んでるな、という直感も働くと思う。

 「・・・じゃあ、親父さんの転勤で、この町に来たのか」

 違う、という風に、ゆかりは首を振った。顔がどんどん見えなくなっていく。俯いて、僕

からその心を隠すようだ。・・

 でも、その時は、ゆかりのことがもっと知りたかったのだ。

 ・・・たまに、間の抜けた発言をしたことに気付いて、誰かに笑われたことを、むう、と心の

底で腸が煮えくり返っていることがある。一緒だ・・人は心を隠す、その内に忘れてなんでも

ないことのように思って暮らしてる。笑い飛ばして暮らしたい、人を信じて生きようと思う

から。――でも、いま思うと、そのことにも、色んな考え方があったりして不思議だ。

 「ねえ、竜也、」

 「うん?」

 何だか、ゆかりから、ピリピリする緊張感のようなものを感じた。そして次の瞬間、これ

はナイフだと気付く。・・そして僕は、取り返しのつかないことをしてしまった、と気付くの

だ。少しずつ、少しずつ、ゆかりの心が不安や悲しみに汚されて・・・い――く・・。

 おっぱいはデカけりゃいいってもんじゃナーイこと、肝に命じてオイテクサーイ!
 
 ・・・いや、僕はその時、こいつ発育いいよなあ、という読者サービスしていたのである。あ

りがとう神崎先生!任せろ!・・こんなシリアスな場面で、何故・・・。
 、、、、
 それはね、悲しみが永遠には続かないことを、証明したいからなんだよ。

 「私の場合は、お父さんが亡くなって・・ね・・・」

 あ、こいつ泣くな、と思った瞬間に、もう、うっ、と嗚咽が始まっていて、ぽろぽろ、ぽ

ろぽろ、天使のような顔をして、泣くのだ。――その時、どうしてこんな初対面みたいな奴

に、こいつは心を許して泣くのかな、と思っていた。そして一体この涙は、どういう心の悲

鳴なのかな、と考えていた。

 ・・・大分感情がスパークしているらしく、・・・でも、子供の時ってそうだ――ごめんね、ご

めんね、と僕にうわ言のように繰り返してる。ゆかりは顔を上げられず、石臼みたいに、ど

んどん重くなっていく。

 ふつうの話題なのに、こんなに取り乱して、ということらしい。

 「いいから、話せ・・話したら、楽になるから」

 その時の僕は、ゆかりにそんなことを言ったのだ。

 慰めてやるとか、話を聞くとかいうことじゃなく、単純に、心の中の重いものを、僕はぼ

んやりと考えていた。それは臭いものに蓋をするやつだ、と直感した。

 すると、ゆかりは顔を上げる。小動物特有の弱弱しい瞳をして。・・

 「私のお父さん・・・トラックの運転手で・・」

 しゃくりあげて、聞こえづらいが多分そう言っていたんだと思う。

 「もともとアブナイ(仕事だから、)・・・いつも(朝には、)仕事に行く前、ちゃんと寝る

んだぞ、って・・・」

 かっこ、は、僕のイメージだけれど、たぶん、ゆかりの父親は、長距離ドライバーで、寝

ずの番で、東京から他県へと荷物を運ぶ仕事をしていたのだろう。自宅に電話をかけて、ゆ

かりに代わってくれ、おやすみ、とかいう類のことをしない人だったのだろう。

 たぶん、朴訥な人で、・・自分の気持ちを、うまくは伝えられない人だったのかなあ・・・。

 なんだか、そんなことを考えている内に、いたたまれなくなって・・・ゆかりの言葉を遮って

、ぎゅうっと抱きしめていた。

 多分ゆかりも、驚いたと思う。――でも、なんというか、このまま放っておいたら、こい

つは自分を責め始めるんじゃないか、という気がしたのだ。多分、・・多分、ゆかりは父親と

の間に何かわだかまりがあったのだろう。思春期だ、それはもちろん父親のことを嫌いにな

る時期だ。・・・そういうのって、本当はひとつひとつ、まったく別のことなんだけれど、人間

って不幸なことに対して、自分の都合の悪いことを引き寄せるような所がある。

 でも多分、それは、人の思い上がりなんだ。――人間は万能じゃないし、あらゆることに

、満足の行くような結果を求められるわけじゃない。・・

 ――だからこそ、だからこそだ。

 僕はその時のことを、子供の時の友情の象徴的なシーンのように、感じている自分がいる

。・・・そこにいたのは、子供時代を過ごした、・・本当に仲のいい友達だったのだ。そしてその

子に向かって、人は間違うもの、人は愚かで過ちを犯すもの、それでも、それに対して後悔

するな、後悔するくらいなら、好きなだけ泣けよって言っていたような気がするのだ。よく

わからない。・・そうだ、人は自分で思う以上によくわからないことを、思って、しかしそれ

が正しいと思って、記憶にとどめようとしている。

 ゆかりは、激しく混乱して、・・・たぶん、色んな価値基準を見失って、いま、たぶん、すご

く辛いんだ。僕が話しているのに聞き耳を立てるような根暗なことをしたのも、・・その、頭

でっかちの自分がいるせいなんだろう、と思った。

 自分は何でもわかっている、そして自分は悲しんでいる・・立ち直れないでいる。でも自分

はいい。自分は悲しんでいるのだ、そしてその間、悲しみの理由が続き、誰かのことを忘れ

ないでいられる。けれど、そういうことが、続いている間、幸せになれない――。
 
 ・・・そしてその為に、僕は腕があるのだと思った。抱き締める、という行為があるのだと思

った。たぶん、ゆかりの感情に同調して・・シンクロして、僕はゆかりの中にいて、ゆかりの

ポジティヴな部分を引き出そうとしているのだ。抱き締める、という行為は、眼を瞑るとい

う行為だ。――そして、それは子供時代の、ふしぎな柔らかさだと思う。動物、犬や猫を抱

き締めてみたくなる、安らぎを得たい、と思う、あの気持ちだ。

 ゆかりは泣いている・・泣きやまない。それでもよかった・・傍にいてやろう。多分、何かし

ようとしているわけではないのだ。もっと、原始的な感情だと思う。岩を潮風が洗うような

、本当に象徴的な行為だと思う。そして僕は思う・・・思った――

 ゆかりにはもう、泣いて欲しくないな、と思ったのは。でもそれも、狂ったように泣き続

けるゆかりを、見てしまったからだと思うけれど・・


  × × ×


 強がっている、実はそんなにこういうことに慣れていない女の子が、こんな時、――

 「ごめん、急に泣いて」というのは、本当にテレビドラマ的だと思う。

 ・・・人を困らせることが得意な女の子だったら、たどたどしい言葉で、ニヤニヤしたり、ソ

ッポ向いたり、時々は悪霊に憑り依かれてしまい、――もっと抱っこ、ばぶぅ、うあーん・・

と、やったりして、心底殴りたくなったり・・・

 ウッーウッーウマウマ、とかね(笑)

 人前で泣いたことがないから、地が出たり、いつも違うことをやってみたりする、色んな

パターンがあるんだろうけど、・・こっちだって同じだ、アフターケアなんかしたことがない

。何か白い花を摘み取らうとしているような、そんな感じかな。
 、、、、
 どうして、説明的なのかって、照れているからさ。

 「別にいいよ、そんなこと・・」

 ――いいから、話せ・・話したら、楽になるから。

 あの台詞、考えてみれば、痛恨なくらい臭かったな、と今頃気づいて、しかもその後に、

何を思ったのかハグまでしてしまったな、ハズイ、小学生的痛恨のはずかしさ。・・

 ハズカス村の村長さんのご登場です!
 、、、、
 やらしお。この人、何を考えてるんだ。やらしお。

 ハズイ、はずかしい。アラー、はずかしいお婿にいけない。お母様、すみません、拙者は

、やだ!やだ、やだ、やだ、てか、ヤーダの神様、ヤフーでラリタ――

 ・・・ちょっと待てよ、神崎竜也!おまえいま、何歳なんだ、なんだ、その展開、商業誌マン

ガで見られる、ベタな話をいきなりするじゃないか。いまからツンデレを書くつもりなのか

。おい・・・ゆかり、めそめそすんな!・・らめぇ、あ、あっ、そこいい・・(以下あだるとびでお

へ続く)泣くな!笑え!・・泣きやまないとキスするぞ(笑)
    、、、
 ――ゆかり、汚れちまった悲しみに(笑)

 「・・・そのさ、スッキリしたならよかったよ」

 なぬ、スッキーリ! 好きだよ!嫌いだよ!どっちだよ!スッキーリ!(笑)

 スイーツ(笑)――スイーツって何かって?それは君・・僕の口からは言えないよ。たとえ

るならガンダム好きなのを隠して女の子と付き合ってしまった人が、たとえば女の子にぶた

れて、『殴ったね…2度もぶった…親父にもぶたれたことないのにっ!』――
               しば
 ・・・いやあのお、一度しか叩いてないんですけど(笑)

 スイーツ(笑)――しかし神崎竜也、もう、慎みたまえ、君はいま、大天才詩人塚元寛一

の前にいるのだぞ(笑)・・ネタです、すみません、――スイーツ(笑)

 しかしそんな大ジッキョウ的プレイ、スイーツ(笑)・・になっているとも知らずに、ゆか

りはとばしまくり、平静さを装う、アウッ、アウチ!・・スイーツ(笑)

 てか、あんたどんだけスイーツって言うんだ!読者よ!・・好きなのだ。

 「・・その・・・ね」

 出た焦らしプレイ!出た!焦らしプレイ!出た!出た!焦らしプレイ!

 カモミールフレイバー!特に意味はない、スイーツ(笑)

 「いやその前に、ゆかり、」

 「はい?」

 「忘れてくれ」

 スイーツ(笑)――というか、いい加減話戻して下さいよ、神崎教授、違う話になっちゃ

うから。参ったな、ワインってこと?・・それとも、君の瞳に乾杯ってこと?
        、、 、、、
 ・・・・・・・・・でも、ゆかり、歳を取るっていいもんだ。

 その時、僕はそういうことが、とても苦手だったんだ。自分が誰かを慰めていて、何二枚

目キャラやってるの、本当のお前はそんなんじゃない、ピエロなんだ、・・ただ、かっこつけ

てるだけなんだ、そう思ってた。でも――歳を取ると、笑ってしまう。
 、、、
 自分で、自分の馬鹿馬鹿しさに。

 だって平成軽薄体諸君・・漫才ばっか見て毛は毛は笑ってるアデランス諸君、本当の僕らっ

て何か違うんじゃないか、もっと自分は善良なんだ、良識ある大人、尊敬できる人間になり

たいって、そう思ってた。愚痴をこぼすまい。・・ああ、嘘はつくまい。もう悪いことはしな

いようにしよう。そう思ってた、スイーツ(笑)

 ・・・・・・・・・いま、まじめに、ゆかりのこと、押し倒したかったって考えてる。キスしたかっ

た、と思う。そして英語でブルーと書けば用足りるのに、

 He's always looking at you. He must love you.

 なんて、英語で書けば恥ずかしさが少なくなるとばかりに書く。婉曲的表現。さもなけれ

ば、恋のラブコメ。愛と恐れと不安のメリイゴウラウンド。スイーツ(笑)
 
 ・・・でも、本当に、君のことを大事に想っていたんだと・・いまは思うよ――。

 「竜也、ありがとうね」
  、、、、
 「やらしお」

 「は?」

 「・・・いやごめん、たまに、俺の中で悪魔が囁くんだ――ユカリーナ、さあこれから悪の大

魔王を倒しに行こう。もちろんさ!クリティカルラブタブアターック!」

 ・・・もちろん、夕方の公園で叫ぶような台詞じゃない。

 ぷっ、とゆかりが笑い始めて、あはあは、痙攣し始めて、犬を抱っこして笑い転げている

。そんな笑い方、誇張的スイーツ(笑)に見られるけれど、・・よかった。

 「ァあ死ぬかと思った」

 「うん、」

 小学生なんてそんなもんだ、笑かすことに長けていた奴が、少しずつ、少しずつ社会の通

過儀礼、大人って醜いんだ、こいつらみんなバカなんだ、ただ面白く人生笑って過ごせりゃ

それでいいと思ってんだ、・・・そういう洗礼を経て、醒めた。疲れた――人生に・・

 でもその時はまだ、汚れてなかった。スイーツ(笑)バナナの皮で滑ったりできる、つま

んないダジャレ言えたりする。――だって、根暗じゃない。女の子に義理チョコくれよ、と

言える。犯すぞアマあ、と言いながら、秀一相手にかくかく腰振ったりする。

 スイーツ(笑)・・でも、もうやめよう、だってゆかりが、名言を吐くから。

 はい、みんな、注目!

 「お父さんの葬式で泣いておくんだったな」

 スイーツ(笑)・・達人だ、ゆかり。青すぎるよ、ゆかり・・・!

 ・・・でも、茶化せるからいいよね。お前、馬鹿だったって認められるのがいいよね。秋元康

の処女詩集、痛かった。スイーツ(笑)

 銀色夏生はあり。・・男性と、女性という性別もたぶんにあるけれど・・・

 すべて恋愛話に結び付けようとする面倒くささ、気持ち悪さ・・

 ――恋愛詩にだって掟があるし、不文律があるんですよ。やっちゃいけないこと、書いち

ゃいけないことが、あるわけなんですよ。それ犯したら、スイーツ(笑)

 そりゃあ、中国人に、塚元さんはピュアだから、って言われちゃうよ。

 スイーツ(笑)・・・屈折的恋愛詩の神様。

 「我慢するよ、」

 「え?」

 ・・・お父さん、ずっと、ゆかりのことを見てるぜ、なんていうベタな台詞。


  × × ×


 でも、きっと必要だ、胡散臭くて、愛しいんだ、ゆかり、お前・・「帰るね、また明日」と

言ったけど、――その後、たぶん一人で泣くんだろうな、ということが、僕にはわかってい

た。そしてそれは、もう、茶化して笑わせられるようなことじゃない・・・

 ――君は誤解してる、・・全部いい思い出にできるわけじゃない。

 笑うたびに、人の心の疾しさや、苦しさ、その時に思っていた、自分を消していく。忘れ

ていく。心の中に、初恋の話をする男がいる。でも、その子は、少しずつ大人になっていく

んだ。男友達のようなスタンスを作って、自分をたくさん偽って・・・。

 そして君は泣く、・・笑っても笑っても・・・笑い飛ばすことのできない本当の悲しみに。

 作り笑いや、愛想笑いを覚える――だって、もしかしたら、その夜、君の少女時代という

のが、終わった日かも知れないから。

 
  × × ×


 次の日、公園でのことが学校での噂話になっていた。

どうやら、目撃者がいたらしく、一部始終が見事にエンドレスリピートされ、というか、作

られ、・・気がつくと、超二枚目気障男になっていた。

 「お前、泣けよ・・・俺に胸をあずけてくれ」

 「キャアア♪ 歯が浮く、そうなのね、そうよ、あたしの恋のため!」

 ・・・秀一だった。どうやら、あの後帰らず、木の陰で僕の奮闘を見守っていたらしい。

 「なあ、秀一、・・便所行くか」

 「やめて、竜也!(ゆかりの声真似付)

 ――しかし、ゆかりと言えば、そんな話、まるで無視していた。・・大人だよなあ、と思う

。僕はその後、秀一を砂場に大きな穴を掘って、おりゃと背中押して落として、頭の上から

砂をかぶせ、底深くに埋めようとした。スイーツ(笑)

 ・・でも事態はその次の日、急展開して、そのネタが悪いことに、女子生徒の反感、もしく

は虐めるネタになって、さすがの秀一もゆかりに謝ったりする一幕があった。もちろん、ゆ

かりも知っていた。秀一が茶化していたのは、僕であって、ゆかりではないということを。

 でも、そこで彼女はちゃんと繰り出した!

 ガタンと席から立ち上がり、猛烈な勢いで、何よ、という女の子、のちに・・ゆかりの親友

になる川本絵里に、にこりと笑ってもの言わず、ストレートパンチ!

 電光石火、急激沸騰大火山爆発・・スイーツ(笑)


  4


 ゆかりは中々やって来ない。その内に・・ぼんやりとして、もしかしたら希美衣さんとのデ

ートや、久し振りの公園・・懐かしさの揺りかごで、つかの間、僕は眠りに落ちた。・・・色んな

ことを思い出していた。たくさんの思い出の部屋があって、ひとつひとつドアがあって、そ

の中へと入るたびに、僕は僕の中に潜んでいる、無限の可能性、自由へのあこがれ、という

のを学んだ。学びながら、きっと君が好きなんだ、すごくすごく好きなんだ。

 ・・・呼んでいる、誰かの名前(を、)

 目覚めると、隣に息をしている気配があって・・優しく、誰か頭を撫でてくれている。子供

の時の記憶のように、目を開けているよりも、瞑っている方が多かった。常に過去の扉は開

いていて、その為に、理解は常に制限されている。記憶が乏しいのはその為だ――

 そして僕は、そんな時、いつも暖かい手のことを考えるのだ。そこにいると、誰かが、僕

のことを守ってくれる。母性愛。・・母親の手は、民衆を導く自由の女神、ウジェーヌ・ドラ

クロワよりも確かに、より、偽らざる実感として、子供への無限の愛情に支えられている。

 ・・・神の愛って何なんだろう――僕はわからなくなっていた、この霧の深い世界で。物質が

神のように振舞う、札束がおもしろいように乱れ飛ぶ、経済大国で。

 ・・ねえ、花田、僕は怯えていたんだよ、たぶん、・・・人が簡単に死ぬということを、目の前

にして。そしてそれを大人達が、・・いとも容易く、赤子の手をひねるようにやってしまうと

いうことが。子供たちは学んだ。こぞって、大人たちの真似をした。平気で他人に嫉妬し、

醜い心は平気で、人を傷つける道を選んだ。・・

 好きじゃなかった、好きじゃなかったよ、僕の魂は、すごく傷ついた・・・

 神のいないこの世界で、人が欲望を信じる理由は何だろう。ねえ、あたたかい手よ、「

何?」・・人は神になる。神になるということを、解脱といわず、道というなら、そこに無限

の発展性がある。怯えないで、あたたかい手・・・すこし、疲れただけなの――

 もう少し・・眠っていてもいい・・・「うん、」――

 人生を見たよ、ダイジェスト版で・・退屈な日常が、面白くない、下らない毎日が、ほんの

少し後のように思える、今この瞬間に、収斂してる。「うん、」・・・人を好きになったよ、た

くさんの人。たくさん、失望したんだ。絶望したこともある・・だって僕は、何処へも行けな

い。でも本能は常に、こことは違う場所を求めている。それが未来、男と女がいる理由で、

子供がうまれてくるという暗示だ。わかるだろ、・・毎日はそのためにあるんだ、だからこそ

、とても時間がかかるんだ――「うん、」・・

 もっと優しく撫でて・・・すごく大切にして・・・・「うん、」――

 人の心なんてすぐにわかるの、好意にも悪意にも敏感で・・時折は、誰かの声が頭の中に聞

こえるの。・・テレパシーと精神病の違い・・狂ってると認めるか、認めないか、だ。僕は認め

てる、人の心が狂ってるのは、本当にストレスが多いからなんだ。病まずにはいられない。

苦しまずにはいられない。・・人の欲望の悲しさよ――「うん、」・・

 でも、・・それでも信じていい・・・人生は愛のためにある。・・愛こそすべてだ――

 ずっと前に、恋をしていた男の子がいるんだ・・男の子って言っても、女の子なんだ、・・・ず

っと自分の気持ちを隠さなきゃいけなかった、我慢強い・・本当に、尊敬できる――女の子な

んだ。優しくて、・・優しくて、ふしぎな女の子なんだ。――「うん、」・・

 その子が・・・僕のことを好きだって・・言った時に、その子のことを――すごく傷つけてしま

った。頭ではわかって・・る――認めなくちゃいけない。尊重しなくちゃって思いながら、き

っと、また、あの子が泣いてしまう。・・「うん、」・・・

 すごく思慮深い子なんだ、・・物事をひとつひとつ考えて・・・色んなことに、とても、丁寧な

の。笑っちゃいそうなくらい、いい奴で、その子のこと、僕は――ずっと、好きだったんだ

。でも、その子が泣いてるのを見たから、その時、たぶん、僕はその子の父親役、兄貴役を

し始めたんだと思う。馬鹿な・・んだ――お互いがすごく似てることを、いまさら、気付く。

今日、その子の・・誕生日なんだ・・・ねえ、――「うん、」・・

 でも、すごく好いてくれる人がいて、・・・今日はその人とデート・・女の子なの、生まれた時

からずっと――ね・・でも、好きになれなかった・・・傷つけたと思う、傷つけた、・・そういう僕

が嫌いだ、でも、もっと嫌いなのは、嘘をつくこと――「うん、」・・

 そして、あの子も、すごく傷付いたと思う・・・いつも、傷つけてしまうの・・でも、傷つける

ことに、終わりがないことを、認めて僕等は暮らしてる――愛は、やさしさじゃない・・愛は

常に自分が正しいと思うことの道を照らす理性だと思うの・・・「うん、」――

 あの子に・・愛してるって言おうかと思うんだ、――愛してる、つまらない気取った台詞、

わがままで、これからがちっとも見えない台詞・・・でも、素直に言いたいんだ。だって、もう

僕には、・・・・あの子を傷つける理由や、撥ね退ける理由がないから――「うん、」・・

 ねえ、キスして――馬鹿な台詞、愚かな台詞だけど・・キスして、あの子がそう言ったみた

いに、僕も言うよ・・・キスして、そして、僕を愛へと導いて・・

 やわらかな唇の感触、本当に大切な人にそうするように、奉仕する気持ちで・・そうするだ

けで、心が、肉体が死ぬことを少し止める・・・嘘じゃない、本当だよ、科学的にどうかは知ら

ないけど、僕の本能の声の方では、それが――正しい・・正しいということが、わかる・・・ねえ

、愛に終わりはないと、人を愛することに終わりはない、と、僕に信じさせてほしいんだ。

もっと手探りの言葉で――うつくしい、その、素裸の魂で・・「うん、」・・・
 、、、、
 愛してる・・ありがとう、と同じくらい、大切な――言葉だ・・ほら、もう照れてないで、隠

さないで、自分の気持ちに、素直に、・・・正直に・・「うん、」・・・・
 、、、、、 、、、
 泣かないで、ゆかり・・本当の、僕を見て――そして思う気持ちで、心を解き放って、それ

が鍵になる・・やさしい夢になる。・・抱き締めて、生きているのが、素晴らしいと思うために

。明日――違う誰かを、もっと、もっと好きになれるように・・
       、、、、、、、、
 ・・・・・・・・・寝ぼけていた僕も、いつしか、目覚めて、音楽を奏で始める。すべてが夢のよう

に、あの時みたいに、今度は地上へと太陽の光がやさしく包むように、月の光が、ふたりの

姿を石化させて、永遠の美を、記憶の一頁に・・焼きつける――

 なんだか、こわいくらい、熱い夢をみているみたいに・・心が壊れる、・・・僕の腕の中で、夢

のように、ひと時が過ぎる。でも、もう恐くないよ、裏切られること、傷つけられること、

そして、――君に、そうする日が来るかも知れないこと・・・

 いつのまにか、世界は昼より明るい夜で、・・何かへと生まれ変わる、いま、愛の形を手に

入れようとしている、午前零時、夜が一瞬身を引く、月の光が、二人だけを思い浮かべたよ

うに、夜が妖しく光りはじめる・・どちらから――ねえ、どちらからともなく・・

 ゆかりのすべてを手に入れたような気持ちになって・・でもそうじゃなくて、でも勘違いが

正しいかも知れないだろう、この、作られた世界で、何かを変えていこうとするなら、いま

、すべてを委ねてくれていることを信じるんだ。・・

 やがて、いつどんなタイミングで、力を抜けばいいのかわからなくなり――
 、、、、、、
 いつのまにか、激情は引いて、そうだ、劇場の幕は下りて、頼りない街燈の光が、あの頃

のように佇む――時間が屈折した場所で、僕は抱き締めた。そしてゆかりと、もう一度だけ

、キスを交わした。


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