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灯台

灯台

愛の讃歌 3

  死の灰






 ○この頃、よく雨が降っている。雨のあがったのをよろこんだ束の間、空にはまたむくむ
               メタル・ウェルキン
くと雲がただよっている。金属的蒼穹。いとわしき道具でつげられたゴスペルが、大地をひ
           ひび                               こお
びわれさせ、その罅欠のなかに水がおちていく。それはしずかに氷っていくかのようだ。そ

の直後、地震のような揺れが観測され、おおきな戸惑いのなかへと突き進んでいく宿命を背

負わされる。そう、何も知らぬこの平和なまちで。


 ○りゅうりょうたる喇叭や、勇壮たる軍歌をきかない学校という避難所に、はなむけのよ
  レクイエム
うな鎮魂歌がながれている。演奏者は泣きくずれながら、誰かをうしなった悲しみにうちひ
               ふる
しがれていた。ぶるぶると慄えた子供たちをしっかと抱き締める両親をしらずに、どこかで

大地のえくぼができていく。そしてノイズまじりのレディオがこの戦争を告げ、あたらしい

伝染病のように僕等を連れ去っていく。


 ○戦争を煽った、すぐに詭弁をもちい、またすぐに遺憾ですとのべるうそつきの政治家宅

で、過激派の連中たちがそいつの顔の原型がなくなるまで殴り続けていた。もう誰にも止め

られない計画が進行する。あのスウィッチを押したのは誰か。ひびわれた心があたらしい魑

魅魍魎や、亡霊をうむこの都市に、またあの惨劇がくりかえされようとしている。しかし止

める者は地球上にだれ一人としていない。


 ○ああ、わたしの故郷にはなんの関係もないのに。恋人にも、平和のための煉瓦をつみあ

げていく社会のネジ、底辺の蟻としてはたらいている人たちには、この国のことなど何一つ

知らないのに。新聞を読んだからといって、戦争に参加する義務なんてものはないのに。そ

の火だねが平和や無抵抗や非暴力をうったえたとしても、さいの投げられた歯止めのきかな

い科学の暴走。兵器という武力行使の侵略。


 ○それはもうわかっていたはずだったのに、わかき青年たちはまた国のために立ちあがり

、またすばらしい人生を台無しにする。なぜ格好なんてつける。なぜ、おまえらは嘘という
    でまかせ
名の大量生産を散布する。枯葉剤のように。おくびょう者め。わかっていたはずだ、おまえ

たちがつくりだした幻想が、暴力による統治が、その平和的解決策の背離が、防衛がすべて

暴走した。我田引水の結果がここにある。


 ○神風をふかせている空中対決の美談、旧ソビエトの報道規制、またユダヤ人さながらの

虐殺。宗教を利用した争い、研究者たちのうみだした細菌兵器、じぶんさえよければそれで

いいという未熟さがうみだした未曾有の危機。犠牲愛という名をかりて、だれかを殺すこと

を厭わない手前勝手な正義をまたつくりあげる。老人よ、戦争に帰りたくないといってく

れ。闘うこころの拠り所をなくすような争いにもう二度と、と!


 ○平和だとうそぶいていられた季節があっという間にこわれはじめて、ぼくのてのひらは

いつのまにか泥や塵や血ですっかりよごれてしまったようだ。眼の前で、こんなことを止め

ろといった善良な市民を、機関銃で射殺したのは日本兵。君が代をうたっているやつ。きず

つきやすくてよわい国民たちは徒党を組み、反国家体制をつくりあげたけれど、それすらも

消防車や救急車をのぞむ防空壕の国民を無視する。切り捨てよ、ということか。


 ○医者の顔はすっかり年老いてしまっていた。あれほどぶくぶく太って、たぬきみたい

で、さけをのんで赤ら顔になるピエロ。でも知っている夜遅くの急な診察にもこころよく応

じる、あの医師。そんな彼が好きだったのに、がりがりに痩せて、酒の壜をつぎつぎにこわ

しながら、唇をかみしめたあの先生はだれ? なんのために治療するのだろう、くだらん争

いに巻き込まれて、根本的な解決策はひとつとしてうみだせない。


 ○国会議事堂の門のまえで、おかかえ運転手が緊急停車した。ちいさな子供がとびだし

て、ききっ、とブレーキを踏む。その瞬間、伊藤博文以来の衝撃がこのくにの中枢をまひさ

せる。さながらダイナマイトをまきつけられたような少年は、今朝錠剤型の爆弾をのまされ

た。その破壊力は車の耐久力ではもちこたえられない。戦争需要をうけて兵器開発がさかん

になって盛り返す産業のなかでうまれたひとつの悪意。


 ○そのめいかいな代弁をまえに、みだりに自衛隊は軍隊へとその名その姿形をかえ、国は

すっかり殺伐としてしまった。天皇はまたひな人形になり、そして戦争を自慢する鼻もちな

らない連中たちに洗脳されたあやつり人形どもは、銃や、戦闘機でつぎつぎとあたらしい勲

章を手に入れていった。おんな子供をころしても平気なロボットをつくりつづけるシステム

に、批評家という自浄機能は働かない。


 ○ビルディングという名のきりんの首がまた斬りおとされ、けっぺき症のようなアーティ

ストはこのんでそれをテーマにもちいた。新生ゲルニカ。ブランコのなま首がきいこきいこ

漕いでいたが、すべり台で胴体がくらげしていたが、北極の断面図のようなさいころで、破

壊はいつもこかげ、夕陽にむかってながくのびていく。魔のひと時をさまよいながら、冷凍

保存されたオーロラの内部をおしえて・・・・・・

                                        アイスピック
 ○軍事一辺倒のくらい時代には、雪がうつくしく見える。除雪機や、砕氷錐なんてものが

なくても、しろの叙情はたわんでいた雪をおろすのだ。ふぶいているせいかもしれない。視

界難航のパズル・ゲームがうさぎの足跡や、クリスマス・ツリーや、カラーセロファンをみ

せてくれなくても、そこにあくまのような軍神はあらわれ、軍隊手帳や、軍服や、なつかし

い出征や、私的制裁にみちた駐屯や、レ イプが横行する。


 ○化学兵器ガスが、呼吸器障害や、癌の恐怖をうみだすように、防毒マスクをつけなが

ら、その仮面は人格さえも付け替えていくかのようだ。戦場にあらわれた天使という名の慰

安婦も、A V女優や、ありし日ののろわれた風習の筆おろし。戦争幻想。しろいきつねの
            いりゅーじょん
世界へとまよいこんだ幻影はきっと、いばらや、どろや、永久凍土のことを教えてくれる。
                                 そとば
サーモグラフィーにさえうつらない、雪だるまという名の卒塔婆を。

                                           わけ
 ○餌にくらいつく魚をもし前頭葉というのならば、人間が戦争をするその理由も、自殺を

するわけさえも、たとえば強迫観念で説明できてしまえるのだろうか。まだ新製品さながら

である開封したばかりの生物の脳は、なるほど、共食いや、近 親相姦や、同性愛のそれさえ

も説明してしまえる。歴史のまだあさい自然淘汰、弱肉強食、適者生存のプロセスはまだな

ければならない革命を進化に及ぼしてはいない!

                                カケサ
 ○もちろんそれもひとつの可能性、一閃ノ光芒ノ如ク駈去ル流星 ソレ ハ 電光掲示板
                                   カイチュウデントウ
。ココハイマヤ手探リデ洞窟ノナカヲ進ムノニ等シイ。ワタシハ懐中電燈デアル。皺立ッタ

雪ノ谷間デアル。雪ノウエヲ滑走スルスキー板。蛍光塗料ノヨウナ淡イ光。蜜蜂ノヨウナ。

カスタード・クリームノヨウナ。ポエティック・カラー。太陽ガトケテイクヨウナ、蟹ガ爆

発スルヨウナ変幻自在ノ色ノ旅。

                        プロフェッサー
 ○もちろんそれも一つの可能性。しかし大学教授のはなしにだれも耳を傾けようとはしな

かった。明暗をつかさどる判断のために、クラゲのへこみのような光をかんじる目玉。餌を

とるためには、蚯蚓も口と尻だけではいられない。そのために眼や鼻という感覚器官がはじ

まり、情報整理、知覚をソウゴウ的に判断する脳がうまれた。大脳皮質が思考の中枢、ふく

ざつな活動をするためと結び付けたわれわれ。


 ○もちろんそれも一つの可能性。感情・情緒・理性などひとの精神活動において重要なや

くわりをはたし、アルツハイマー病の診断に有効ではないかと期待されているポジトロン断

層法よろしく、脳の活動とのあいだにうかんでくる密接な関係。しかし同時に、人間は運動

能力が退化し、全身の体毛がなくなっていったそのわけは。そしてまた、潜在能力を発揮で

きないのは、そのあまりにもふくざつすぎる回路ゆえ。

                                                   
 ○窓ガラスのむこうがわで、よるのサイレンがたからかになりひびいている。もう火の見
やぐら
櫓はない。象と鹿とがあわせてなく秋のけはいはまだのうこうであるのに、水滴はいくつも
                                      きょうおん
つららへとかわり、井戸の反響、かぜの音という順番で、くうこくの跫音へとかわっていく

。まるで精子が卵巣のなかへとおよいでいくように、食物連鎖や、せいめいの循環というも
                           もみじ
のをつれて、かわの冷気が身をつつむあかい紅葉のいち枚。


 ○報道カメラマンは怯えまどう人びとの顔を撮る。ゆるしを乞うようにひざまずいた人び

とを撮る。またなぐさめを言いつのる人びとを撮る。そんなくるいそうな瀬戸際で、ほんと
                                        まぶた
うの芸術のさみしさ、あさましさに気付いている。ゆらめく光のおび。眼瞼がいやに重くの
                         しび
しかかり、手も小指から切なく緩んだような痳れがひろがり、足もいまでは折れそうな棒。

それは無感覚のうちに繰返される、まばたきだ。


 ○あんなにノストラダムスの予言から学ぼうとしたくせに。ニュースがいつも別の顔をも

っていると、表と裏のにまい舌や、ずるずると引き摺っていた影、雪化粧したこうえんを知
                                           かお        く
っていたくせに。また廃墟や焼け野原に目を向け、ゆめくい動物のような表情で、西瓜啖ふ
              ぷかぷか・たいむ
ように、ろまんてぃっくな喫煙時間。だれもがまことしやかにながれる人類滅亡説を、悪魔

祈?や、幽霊譚や都市伝説のようにものの見事に信じた。

                                                ヌケガラ
 ○もちろんそれもひとつの可能性、色褪セタ教科書ノペイジノ落書キハ、黒焦ゲノ脱殻。

スルリ ホノカニ蒼ミ出ス チギレタ糸屑ヲ ホワイト・マフラーニカエナガラ 拡ガルホ
                                   ガイトウ
ド色付イテイク孔雀。美ヘノ信奉ヘト向カウ 天ノ羽衣。星ノ街燈ヲ頼リニ、粘リト酸ッパ

イ汗ヲ砕キナガラ、フェイク・ファーノ自転車。慌タダシク日々ガ過 ギ ソノ時ハサシタ

ル感慨モナク胃ノ中ガカット熱クナリ、次ノ瞬間ニハ氷ヲ呑ンダミタイニ冷タク。


 ○もちろんそれもひとつの可能性、張リ裂ケソウナコ コ ロ ヲ 街路樹ハ知ッテイタ!

フト足下ヲ見ルト、雪ノ結晶ノ形ヲシタガラスノバッジガ落チテイル。ソレハイルカノ

形ヲトル思念体、発光体、浮遊物。白砂糖ト化シテシマッタ砂場ノ公園ヲ捜索スレバ、キッ
                                      パレット
トガラスノ肉体モ、ダイヤモ、クリスタルモ、ソノ遊動円木。ワタシノ瞳ハ微妙ニ色ヲ変エ

テイク、集団心理・操縦桿・ソシテ美化修飾ノムゴタラシイ場面ヲノセテ。


 ○だれもが、この戦争にもどれない夢を託している。はげしい爆撃も、みみを劈く戦闘機

も、そしてどんなシュールな設定も呑み込めるほどに、静まりかえった音のない夜も、おも

い描くのはいつも平和だった時間。間延びして、なにかしら忙しくて、いまとは比べようが

ないほどたのしかった時間。すきな物を食べられて、勉強もできて、友だちと遊べて、あれ

ほどフツウをいやがっていたことが滑稽におもえるほどに。


 ○立ちこむ強烈な死のにおいは、あおざめるようなテレビ画面から。スピーカーからきこ
     ディアドロップ       ごみ                     でこぼこ
えてくる涙の雫から。ひとが芥溜のようにころがって、大地は凸凹になって、もう舗装をく
                                ほうたい
りかえす道路をひにくることばも出てこない。血染めの繃帯も、ネットも、深紅ですこしく

ろみがかったざくろのわれたような兵士も、死の灰であふれたこの平和ぼけした国のあたら

しい真実。悪貨は良貨を駆逐。悪人もまた善人を・・・・・・


 ○やみ市に押し寄せる人たちもあらわれて、ボランティア組織がうまれて、ゆうふくな人

はへいきで貧しいひとを裏切って。芸術をつぎの世代に遺そうとするひと達はそれこそ、命

がけで。ひざしの加減で虹色に変化する雪の表情は、ピュアな童心へとぼくらを帰らせてく

れる。しかしそこでは生物の動きがいつも最小限におさえられていて。緊急事態だからこそ

誰もが手を取り合おうとして、でも時にはひとの醜い姿も・・・・・・

                       いき
 ○死体は風船のように、硝子にその呼吸をふきこむように、水死体のようにぶくぶくと膨
                                            ライフ・ジャケット
張する。皮膚は腐爛し、ぶむぶむと蠅がたかり、死臭がねっとりとただよい、救命胴衣のよ

うなしろい蛆もぞわぞわとどろいてくる。あちらこちらに蟻の軍勢がおしよせてきて、おぞ

ましくもあでやかな官能に気がふれそうになる。そこに鴉や犬が肉片をくいちぎり、ぼろぼ

ろと皮膚はたねのように地面へとくずれおちていった。酵素の分解。

                            ジダ
 ○もちろんそれもひとつの可能性、冷タイ風ニ耳朶ヲナブラレテ、ピアスガ刺サッテイル

カノヨウナ尖鋭、ソンナフレーム・アウトヲ。ソンナズーム・アウトデ、ワタシハドンドン

意識ガ離レテイク。魂ノ緒ガ星ノ記憶ノヨウニ、ドンドン、アワヤカナモノニ思エテクル。
           セイメイ
シカシワタシトテ、生命ヲ愛シタイ。不意ニ除雪車ノ映像ガヨギッタ。脇ニヨケラレタ雪ノ

塊ガドンドン溶ケダシテイク。


 ○もちろんそれもひとつの可能性、ソレハ工事用スコップデナクテモ砕ケタノダ、モウ柔
           みじん
ラカイノダ、ダカラ微塵モ美シクナイ。ソレハ磁石デ貼リ付イタ、ブラック・ボードノプレ

ート。イズレシャーベット状ニナリ、シャクシャク、ト小気味ノヨイ音ヲタテテ歩イテイケ
                         ツヤ
ルアスファルト。ツヤヤカナ、テカテカトシタ光沢ヲハナツ骨ヲノラ犬ガクワエテイク。ア

チラコチラデソンナ死屍累々タル地獄絵図ガエガカレタ。


 ○艶笑をもたらしたファイアレッドのかぜが、花火の夜みたいにやさしくながれて、おか

しくもないのに、ただ無我夢中で、そうしなければ狂ってしまうことを知っていた僕は、腹
                                             ケ ロ イ ド
をかかえてわらい転げた。ひきつってしまった僕の瞼からこぼれる液体は、繊維性腫瘍をい

やすこともできない。もう疎開派日記も書かないし、もう一体だれが悪くて、だれが正しい

のか正直に言って僕にはわからなくなっていた。すべては前頭葉によるもの。



 ○そうやって屁理屈をこねている間だけはふしぎと気が晴れた。苦しかったのだとおもう

、あれほど平和・平等をスローガンのようにたかだかと掲げていたぼくが、いまになって、

どちらの味方にもつけないことを知って、すっかり落ち込んでいたから。ものごとの発生を
                                                 まなこ
記憶できる回路そのものが、時間感覚の発祥なら、神の偉大さは駆け込み寺をしる眼。なに

が慈悲で、いったいなにが感覚の因果なのかを挿入しながら。

                           とりこ
 ○僕はすっかり関係性の矛盾した顕在の俘虜者になっていた。というのも、それまでは起

こることがないであろうという楽観的観測のもと、いわば、発見や発掘として、また先人た

ちの失敗とあたらしい学習のためにという理性や、また伝統への賛美があった。おそろしい

ことを妨げること、防ごうとすることは、とても賢いことのように思えたのだ。けれど、今

身を持って知った。そう、フィクションの限界はここにある。


 ○五重の塔ががらがらとくずれていく場面や、姫路城が炎上する場面、そして国会議事堂

にいた政治家たちが地下へと潜伏しているというニュース。ああ、そんなものは首都をたっ

たいち撃で壊滅へと追い込んだ爆弾についての知識や、そのテロリズムや、またそのかなし
                                                    
い血にまみれた、まったく無関係のひと達について語っていない。そう、僕はあまりにも迂
ろか
愚であった。僕が守らなければいけないのは、弱い方の人間であったのに。


 ○なぜ高村光太郎が敗戦の責任を引き受けようとしたのか、そして戦争責任者たちが、ま

たあの将来有望なる若者が死んでいったのか。僕はようやく、そう、ようやく、理解した。

それは歴史のなかで何遍も、おそろしいほど何遍もくりかえされてきたこと! 歴史のなか

に僕はいない。歴史のいち頁に想いを馳せながらぼくは泣いた。僕もまたそれに含まれるの

だと思い、悲劇に彩どられるのだと思い、こころの帳が沈んだような気がした。


 ○操縦桿をにぎりながら死ぬよりも、モデルガンをこめかみにめりこませて死ぬ方がよか

った。じぶんが犠牲になると思うよりも、犬死にするとおもうよりも、その死が将来の日本
                         ヘルメット
のためになると思って死ぬ方がよかった。遮光面をしながら戦闘機や、最新の兵器をつくる

よりも、たったいち枚の愛する者の写真を握りしめたまま、むほん者として殺される方が、

きっと、その方が、正しいと思えるはず、な、の、に・・・・・・


 ○超能力を喪失したぼくらの前頭葉は、考えることから始まる未来をうかびあがらせてく

れるもののはずだった。偶然か必然かをのみくだそうとしながら、トマトジュースの色をし

たわき水の感情が、マリンスノウのように零りつもっていく。それが血も涙をこおった未来

をつくり、しゃれこうべの顔をした、栄養失調をおこした野菜泥棒の因果関係の把握。げん

そう的にたちのぼる理性へのあくなき食欲は、その時に死んだのだ。


 ○じしん過剰なほどに、対策をとって、誤作動をおこして、いつのまにか相手を支配しよ

うとする感情がはたらく。また、防衛本能がはたらいて、考え過ぎたあまりの暴挙にでる。

額面どおりにうけとれない婉曲語法が、ハンマーのくだきで、こまかい不幸なはなしをふり

まいた。ひと握りの草をひっこぬきながら、その美しさ以上のものをうみだそうとする嘘

や、あやしさや、いかがわしさが前頭葉の呪い!


 ○もちろんそれもひとつの可能性。ただ、現在の行動によって生じる未来における結果の

認知や、よりよい行動の選択性、また許容されがたい社会的応用の無効化と抑圧、もの事の

類似点や相違点の判断に関する能力について、なにかおおきな、たとえば、想像力の欠如し

た、思いやりという思考回路のショートされた屁理屈よりは、ずっと、もうちょっとマシな
                                 わけ
ものであるように思えたのだ。人が間違いをおかすその理由。


 ○情報化社会をほめたたえるような風潮をもちながら、そのじつ、人格だの、誠実さだの

といったわけのわからないものをお前は持ち出したじゃないか。こまったらカタカナや、外

国の理屈をひっぱりこんできて、その実、自分でもさっぱりそのこともわからんくせに、な

んとなく正しいことのように思って使ったじゃないか。攻めてくるのではないか、と軍事補

強して、相互作用はどんどん暴走気味にエスカレート。


 ○それが誇大妄想や、あのありもせぬ被害妄想や、全身が一気にもえつきてしまうような

強迫観念をうみだした。そして専制攻撃という魔の手のときには、もうわかれ道はなくて、

どいつもこいつも貧弱なやせぽっちのひょろひょろで、笛みたいで、蚊の鳴くようなこえ

で、電線のうえにさも薔薇がおちているとほざいた。階級章になんの価値もないとしりなが

ら、勲章や、撃墜マークや、狂気をいつもほしがっている現代人。


 ○死の灰だ! きみどり色のように思っていたやまが燃えて、また戦闘機が太陽におおい

かぶさって雷鳴をとどろかせ、ふるえた群衆のこえはもう聞こえない。もう立ち止まってい

るのか、それとも既に事切れてしまっているのかわからない。スタートなのか、ゴールなの

かも。ただ、ふかい雪に足がはまって、とうとう僕は歩けなくなる。長靴が脱げて凍えた爪

先にじんじんとした痛みがひろがり、君は泣きじゃくるばかり!


 ○ねぇいいよ、ゆるやかな勾配のみちで。もう呼吸をしているのか、エンジンなのかもじ

ぶんではよくわからない。行き先もすっかり見失ってしまったし、視界もどんどん狭くなっ

ている。だから、もういい、なにも心配しなくていい。僕はきみの為にここに残るよ。ねぇ

ずっと考えていたんだ、どこからぼくらはうまれてきて、そしてどこで死んでいくのかっ

て。ねぇいまはちょっとだけ、きみに笑って欲しいよ。


 ○戦闘機に寄り添ったり、階級や、勲章をほしがったり、ちょっと格好よくおもえたもの

が、いまはそのうら側がわかって、誰かが死んだり、殺したりするようなことによろこびを

見出すのはまちがっているって。ねぇずっと君のことを考えてたよ、よるの蝙蝠みたいにあ

やしいせなかをひろげて、君がほんとうに望んでいることは何かって。そしてその謎をとき

あかした時に、僕はじぶんのほんとうの気持ちがわかったんだ。


 ○きみがあの街で死んでしまうとしたら、もう生きる意味なんてない。いや、花瓶にささ
         くらし
れる花のない生活に、きっと、いまよりずっと、そう、どんなに不幸な瞬間でもずっとまし

じゃないかとおもえる。戦争がはじまってから、ずっとね、ぼくは考えていたんだ。どうし
                    おもちゃ
て血が流されるんだろう、どうして玩具のように人のネジはふりきれてしまうんだろうって

。いやな時代をいくつもうたいながら、ぼくは過ごしたけど・・・・・・


 ○きっとね、僕等はそうすることでしか生きられないのかも知れない。鳥のように手足の

肉をそぎ落として、胴体をむやみやたらにぶくぶくふとらせて、バランスのとれないこんな

世界のなかで、かすれた君の声がね、ぼくの胸のうちを教えてくれる。もう無いものねだり

するよりも、だれかを恨んだり、憎んだりするよりも、いま、君だけを愛していられたらそ

れでいいような気がする。ねえ気付いたんだよ。


 ○ぼくもまた愚かな市民のひとりで、そう、ぼくもまた、あまりにも多くのひとを愛しす

ぎてしまった。もう自分勝手には生きられない。もちろん、ずうっとこうしているわけには

いかないだろう。でも、どんなに血がながれようとも、いまは君を一人きりにさせたくはな

い。さみしい想いをさせたくはない。君をけして泣かせたりはしない。いつか言ったね、僕

等はほんとうに幸せになれるって。


 ○お父さんやお母さんが死んで、きみのいとしい家族がなくなって、いまはもう僕ひとり

しかいない。指輪とか、籍をいれるとかはもうどうでもいいことだけど、こんなことになる

のならもっと早く、もっと早く。でも幸せになれるよ、きっと、しあわせになれる。僕等が

ねがうほんとうの世界にはきっと、滅んでも、滅びきれないものがちゃんとあって、それが

傍にあるかぎり、えいえんが胸のうちにひろがっていく。


 ○だから、もうなにもいらない。ここにはなにも届かない。だってここはうつくしいユー

トピアだから。世界の中心にあって、それがこころの扉のその向こう側にだけあって、そこ

には愛という名の泉がふきあがっているんだ。しずかでうつくしい音楽がながれていて、も

う僕等のかなしみはひろがらない。だからもうだれも愚かなことをしようとはしない。なに

もかも帰属している、きみという死の灰・・・・・・






  鏡 ~カーテンと月明かり~






わたし は かれ に むかって 微笑み

魔法 にかかった よう に

ドア を 開け


ゆるぎ ない 視線 で 
            シュガーコート
わたし を捉え る sugarcoat

硝子 の 靴 のよう に ふしぎ な 月の光


階段 を のぼると

街 の影 がこもっている部屋 の

配電盤 のよう な 窓 ・・・・・・

                    あか
窓から は 人影 のな い通り を耀るく

てらし だ す 彼 と

ガードレールと街燈


しろい塗料 を まぶしなが ら

一ぴきの蛾 は 忠実 に舞 う
             ショック アブソーバー
スロー・バラード の shock absorber


そして メロディアス な あの 声

目をあける と すべて を

わすれ て しま う


あの時 いっそ 彼の腕 のなか で

あの時 いっそ ・・・・・・

心に刻まれ た あの 声 を 信じられた ら


わたし は かれ に むかって 微笑む

そし て 窓辺 で は
                 シ ャ ン テ
いつ も あかるい照明 が たた え る

       うずくま  
あちらこちらに蹲る塊

冗談じゃない

待て いや 待ってくれ 

話せばわかる!


部屋の中に妙な影

くらやみの底
ひから
乾涸らびた胎児のまさぐりのような動き


茹だるような乳呑み児よ ? 

ああ その広い夜に君がなくした鍵について 

遊びつくした小鳥の啼き声が翳りをもとめている


まだ眠るには早い時刻なのに

ベッド・タウンめく部屋

まるで耳が貝殻になってしまったようだった

                    かあぺっと
どこまでもなめらかにひろがっていく敷物
          したたり
わかき汗の?ゆる滴
                かんがえ
朱に喘ぐけぶることなき蒼き理性の花


向こう側からやってくる電車のような風

けたたましい電話のベル

パンをちぎっているように聞こえるシャワーの音

    はこ           みくだもの
水晶の函へいれたはずの美果物
    はくび ばれいしょ
棕櫚の葉頸 馬鈴薯の根
                 しゅ
埴輪紅玉とよびたきビー玉の汁したたらす記憶のやさしさ


あちらこちらに蹲る塊

冗談じゃない

待て いや 待ってくれ 

話せばわかる!


月の光にあわせて

影は動く! しかし表情はうかがえない
               おしろい
そうなのだ こいつは 顔に白粉を塗りたくっている

しいたげ くり
虐の褐なる象牙の粉
      まっちぼう
折れそうな燐寸棒は みどりにうるみ
          ぐらす         みすてぃっく
アクリル板や 小酒盞のようにみえし神秘


それは浮き上がったのか

それとも沈んだのか

造形された影は なんの遠慮もなしに粘液を吐く

砂にもつれたように転ぶ男
       たいまつ
脈絡のない松明

紙のように燃えるカーテン


その砂浜に椰子の木あり 南国の花あり 
    すな       シルエッター
しろき沙もあり 自動採寸撮影装置

           あわれ
しずかな雨上がりを可哀ふかく顫わしている

風情ある空気の微動を
う                      からいす
惚っとりとみつむる塊のような空椅子

            
浴槽からバブルの音爆ぜぬ

ふと見れば鍋の湯けむり
                  りん
鳥のごと歌いさまよう耳に涼しき鈴
なま
懈怠けて物あぶる騒ぎこもごもの

かすかなる素足のしめ り !
シ ャ ン テ
たた え る






  逢いたくて・・・・・・






まっているはずだよ

かぞえきれないかがやきが


なにもかもゆれたはずだよ

Cross your eyes はじめての・・・・・・


昔をかたるものの影 ひとつの季節が終わりを告げ

いとしい人のため なみだを忘れて―――


かわせるはずだよ

ほしがそらにまたたくときには


そして なにも か も ゆれ た

Oh memories うみにひかりがさして


昔をかたる心静かな声 Oh baby それだけが支え

に なる よ baby 抱き締めて Oh baby―――


ねぇ いくつもの夜を越えてきたの

Oh one more Kiss to me please once again


―――ひたすら想いつづけていた

おお だれが 引き離すことが出来ただろう


もう誰にも逃れる術はない

So take my heart きみをもとめて・・・・・・


わすれられないはずだよ

Cross your eyes あのひとを・・・・・・






  永遠の火






きれいな夕焼けですね

窓辺に佇んだ青年は

他人ごとのようにぽつりと洩らした

いずれすべてが 

ほろびるさだめなのだとしても・・・・・・

眼鏡のブリッジを押し上げながら

どんな周辺のゆがみを見たのだろう

いや どんなかすみを見たのだろう

一瞬 瞳がうるんでいるように見えたのは

気のせいだったのだろうか?

ここらへんにね すごいかわいい女の子がいてね

いつも足もとにぎゅうっとすり寄ってきて

子犬みたいに鼻を鳴らして

ぼくの名前を呼んでくれたんだ! 

安心していたのかな 

信頼してくれていたのかな

わからないな・・・わからない―――

きれいな夕焼けを見ていると

消防車のサイレンを思い出すよ

空が真っ赤になったのはもしかしたら

あの火事のせいだったんじゃないかって

・・・・・・いつも なにかが きえてゆく

この街で 永遠の火を知っていたもの

それは原子爆弾のことかも知れない

いや 殺人兵器のことかも知れない

また 殺傷能力のある凶器や

見慣れた 鋏や

カッターナイフだったのかも知れない

わからないな・・・わからない―――

彼がいつその窓辺から

立ち去ったのかは知る由がない

ただ その永遠の火の孤独を

知っていたのは 彼だけだ






  

    奉仕こそが人間の限定的な活動を支える。
     人は名を持たぬかぎり悪ゆえに S・S







かえるのなは

かえる


うしのなは

うし


きみのなは

きみ


ぼくのなは

ぼく


なのはなはこまらない

だから はなはさく


なまえをほしがるひとは

かたがきをほっする


だからゆみは

やをもとめる


あらそいのなまえは

わたしたちがつける


しかしひとつだけ

よろこびにみちているのは


なまえがないことは

うつくしい・・・・・・


なぜなら あいの

なまえをぼくはしらない


こおろぎのなは

こおろぎ


けらのなは

けら


ひとはじぶんをしるとき

なまえをつぶやく


それがたとえ

どんななまえだとしても


ぼくはいうだろう

それは、と・・・・・・


そう それこそが

きみのさがしていたものだと







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