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灯台

日記詩 4



  1月29日






 今日は寒いので、ブルブルーでした。

 ぶるうな一日は、大体レッドが必要です。

 たとえば、太陽とかがいいでしょう。

 太陽は大体、そんな風に増えていき、

 空には、何千個、何万個も太陽があるのです。

 よかったですね。

 よかったよ。

 太陽の朝――


 *


 炊飯器と、電子レンジと、冷蔵庫を買うつもりです。

 「炊飯するつもりか君は!」

 いえいえ・・

 「飯を炊くつもりなのだ、僕は!」

 
 「弁当に飽きたか君は!」

 まさしくまさしく!・・

 「飽きてしまったのだよ、僕は!」


 *


 洗濯機を回すのにもすっかり慣れてしまった僕は、

 干すのにもすっかり慣れてしまったということであり、

 これはつまり、主夫になれる、ということです。

 いつでもお婿さんに行けます。

 あらやだわ、大根刻まないと。ピーンポーン、あらやだわ、

 もう!――ぱたぱた、スリッパの音。

 あなた、待ってね、ご飯にする、お風呂にする、

 それとも――食べようか? 


  *
 

 SEIYU詩人と言いながら、

 本当にこの人、SEIYUに行っているのか疑惑をかけられた、

 SEIYU詩人は、

 その時点で、生粋モノホンの、

 SEIYU詩人です。

 
  *


 お総菜コーナーで、調理しているおばさんが、

 また来たかという顔をしたら、常連です。

 レジのおばさんの顔を覚えてしまったら、

 これはもう危機にひんしているティラノザウルス的。

 そして、もし、レジ袋を使わずに、

 マイバッグなるものを持っていたら、

 地球に優しいDNAでし、――でしって何だでし、・・


  *


 仕事へ行く前の晩に、タオル二つを用意し、

 ペットボトル二つに水を入れ鞄にしまいます。

 一つのタオルは、ヘルメットをかぶる用途でもちいられ、
 
 もう一つのタオルは、目に埃が入った時にもちいられます。


 けれど、一つのペットボトルは飲み残され、
  
 さらに、もう一つのペットボトルは手つかずで、

 ここらへん、よくわからないのだなあ。

 心配症なのだなあ。クロウ症なのだなあ。


 ――クロウというアメリカの映画があるのだけれど、
 
 死者がよみがえるってやつ、鴉人間になるってやつ、

 時々、ぼくは仕事中くだらないことを考えるのだけれど、

 宇宙刑事ギャバンの主題歌ってどんなだったかなあ・・

 
  *


 たまに、ふりょお、な、ぼくは、

 しごとちゅう、に、
 
 はあれくいん、のこと、を、かんがえ、

 ほお、がゆるみそうになります。


 きけんです!
 
 ちかづかないで!

 あぶない! あぶない!

 たいへんにきけん!


  *


 友達のwa!ひろさんにメールを打ちながら、

 ぼくはよく考えるのだけれど、

 ぼくは、彼女に、


 寒いので毛布が必要だと思います、とか、

 いうようなことを言うのだけれど、

 メーカーの皆さま、みなみな様、ぺこりぺこり、

 そろそろ、毛布ファッションはやらせてください、


 冬は寒いので、

 コートではいけません。

 最終的に、毛布をはおる人達は、

 布団が恋しい、

 まぶしがりやです。


  *


 服をたたみながら、自分をたたんでいるのだ、

 というのは、適当に作った言葉です――


 服をたたむように、おのれをたたまなければ、
 
 とでも書けば、何かすごそうな気がする――


 うむ、とコップにコーヒーの粉末をさらさすれば、

 今日もなんだか、よかったような気がする――


  *


 ところで、ももの芳香剤、

 ベリーグッドです、

 これはSEIYU詩人の憎むべきライフで買った芳香剤です、

 けれど、ナイスなまんとひひ、です、

 すてきなサブマリンです、

 なんだか、夜の迷子になってしまいそうな、

 オードリーヘップヴァーンです。


  *


 じつは、スクラッチで、

 一万円あたりました。


 その瞬間――

 スクラッチ狂いになろうと決意し、

 朝から晩まで、スクラッチ、


 あなた、子供がいるの、

 やめて、質屋にもっていかないで、


 ああ、もうやめて、

 スクラッチなんて、やらないで――


  *


 100円ショップで、

 一番よい買い物をしたと思っているのは、

 洗濯バサミです。

 ありがとうございました。

 まいどあり。
 
 さようなら――へえへえ、お客さん、

 あの洗濯バサミですかい、

 手からカニでもするつもりですかい、
 
 お客さん、洗濯バサミですかい、

 それ本当に、ナニに使うんですかい、

 へえへえお客さん、

 うへえうへえお客さん――


  * 


 ぼくの知っている

 コンビニには、

 無印良品があって、

 そこにトランクスがあるのを見るたびに、

 ああ、買っちゃったんだよ、

 マイスウィートハアト!・・

 買ったら、こういう時代のことを、

 少しは愛せそうな気が、

 したんだよ――


 服屋行けよ!
 
 いや、せめてホームセンターコーナンに行けよ、
 
 ドラえもん発言いらないよ!

 ドラえもん発言?


 おっほん、説明しよう、

 ドラえもん発言とは、四次元ポケット的な解釈のことであり、
 
 のび太が、ジャイアンやスネオにいじめられて、
 
 あるいは、ラジコンを自慢された時に、

 ドラえもん、ぴいちくぱあちく、すると――

 あのタヌキが、こんな道具があるよ、

 ということである・・

 
 マイスウィートハアト!・・

 君が出て行ってしまってから、ぼくの股間には、

 無印良品しかないよ!






  1月30日






押しあえる乗客の蒼い顔、カステーラ。

とっぴな――埃・・挨拶はいつも不自然な油断、

抛り投げやがった黒い線、接合のあとを追うフリスビー、――

サイダーの栓をふっ飛ばしたような爽快さ、

スラッシュが必要な、区切られてゆくプライヴェート!

やさしい包帯にも似た、抛物線は白い!

(外光は今暮れてゆく・・・・・・)

「さあ、港へ――」
レプトン     ルブナン    リフレイン
(微細な)――(亡霊)・・(繰り返し)・・・

五線譜の上の垂直な和音に――近付く、長期にわたって保存する時計を分解する、

羽音寂しく飛翔する鳥たちの見つからない羽根・・

うつかり相手に笑いかける、ポーズも、ままならない、変な気分、

並はずれてばかでかい足、青い影・・

(卵を割ろうとするような、遠くの川が燃えている・・・)

時間――概念・・

いや、僕は、もしかするとそれ以上だったかも――知れない・・

パントマイム?・・すでに一時間ほどが経っていた。

――慕っていた漆の液が逝ってしまった・・

[だのに、甲虫は相も変わらず羽根を広げようとしている、

カフカ、孤独な昆虫を探す夜明けは、僕が作る――よ・・]

驢馬に乗って、驢馬になる、

ミイラとりはミイラ――でも・・煙草を棄てた、

吸いがら――

コトン・・・・・・コトン・・・・・・。

粘質の細い糸状で、大型の海藻に着生する、

貝類のようなヴェールムースにすっかり、酔わされ――て・・

(Der Weg zurueck)

[帰り行く道]

僕は焼けるような沙漠の上で、表現としては存在しない。

赤と青にくるまれながら、咲いて実がなってようやく種子になったばかりの僕は、

ひまわりの裸体を演じてる、午後の陽、鉛臭さ

スプーンの反射をかじるように、どうぞ、と、

若い身体を欲しがる、女に――

(考えちゃいけない――のに・・顎が上がる・・・くれてやった!

僕の熱は、お金欲しさに、女に抱かせてやった僕のひと夜の苦悩から来てる)
                          ひきつり  
――いらだたしき一夜を哀れむほど――長い痙攣。

さびた包丁と、犬の吠え声のコントラスト!・・

女は、手れん手くだを使った、舌を使い、胸を使い、

そして狂ったように、若い男の身体を求め――た・・

「私が・・あなたの最初の女になるのよ、――

うぶな子、いいわ、弱くて、先がわからなくて、目の前のものが正しいと、

すぐに頑なになる子。でもぼうや、男になるの――よ、

男は、一度抱いた女のことを絶対に忘れ――ない・・

この指遣い、それに、この舌遣い、忘れられなくなるわ」

マダム――

仰る通りでした・・あれから六、七人と、浮き名を流しましたけれど、

マツチの箱からにじみ出る、うすっぺらな浄い火・・どころか、影形ないような、

ありさま――ああ、僕などというものは、いまでも、

あなたの長い舌が、胸や肩に触れ、そうでなければ、あなたの指が、

股間や、お尻にあたるのが、それはもう――ああ、それはもう・・

蜘蛛、この世のものではない――

まぶたの膨らんだような蝿さえも、瞬く間に・・

コトン・・・・・・コトン・・・・・・。

あなたは、タロットカードを見せつけ、数枚、順繰りに指差しました、

眠りが深いときに現れる、急速眼球運動――きれいな掃除・・

あれは死神のカード、吊るされた男、そして、戦車・・

「あなたの人生は、長い旅になるわ、・・

場合によっては、十代で命を落とすことにもなる――

本当に辛い人生になる――霊的な誓約・・得がたい人生の経験・・・」

あれは、――忘れもしない十五歳の夜、綺麗にみがいたガラスの表面に、

実は目に見えない黴菌があると知ったような、大人たちとの衝突、

ねえ、やりきれなくなった僕は、どうしても、家出をしたかったんです、

ねえ、――和音が世界を作り上げ、リボンが夢をあしらう。

冬の日は靜かなる大路を照らし、コーヒーカップを返しにゆく。

ねえ、ナウマン象は何処へ?・・

ううん、違う――違うはずだ・・永遠の愛は、いつ、

僕の指から――滑り落ちてしまったんですか・・・

「羊毛、皮革、小麦・・ううん、違う――ねえ、

それは何ですか――濁った瞳の、下腹の突き出たおばさん、

ねえ、その醜さ、でも、醜いほどに、美しいものに憧れるマダム・・・

僕はそんなにセクシーなんですか、ねえ――溺れそうなほど・・」

篩の目のような模様に見えた水彩画のびろうど、

青い山が冷たく写るし――おまけに、・・おまえに滴るような、

羞恥――

(僕の時間が壊れていく・・宇宙が、目覚めた瞬間、

聞いたこともないくらい、癇高い声が聞こえる、

Ecstasy さ――恋・・)

エロティックなエモーションに酔い続け――た・・挙げ句、

初めて嗅いだように迫る女の薫り、・・甘酸っぱい、尚おも引く、

――快く物ほしき音を鳴らす・・・腹に沁む、美しい純白な華々。

意味》を求めている――強く・・ねえ、もっと強く、

抱いて――くれ、他にそうすることが出来ないみたいに、

孤独》を求めている――突放したら、二度とは触れない――よ・・ねえ、

声を洩らすことも出来ないくらい強く、僕だけに、

その顔、うずめてくれ――胸の白い手の上に降る薔薇、

猫の眼のような月、

レる・・レル――

絵の具がまだ湿っている、蛇が匍匐前進をする、湿地のようになまあたたかい美、

――凍ってしまう吸取紙・・涙も、その純粋な心の作用さえ・・も・・・

(無意味な肉体のGame ...

淋しくはないかい、ねえ、一千万人!・・一億人!・・・
くさ
艸を、びっしょりと濡らして――

射程距離が長く、銃床を付けて小銃のようにしたモーゼルみたいに、

のぞきからくり・・

ああ今度ね、ドイツへ行くんだ、ドイツだよ、

海外へね、旅行で――

(ゲーテ、君は少し、女を酔わせる心が足りない――女はリアリストだよ、

だからこそ、驚かしてあげなくちゃ駄目だ――よ・・

胸を叩くように、声をかけた――ら・・嫌われてしまうよ、優しく、低く、

そして――いつでも去る準備をしながら、迎え入れる準備を・・)

ねえ、恋をして――る・・

ひとり泣きたいのを堪えている君の切ない顔が、・・胸に残る――

僕が、誰にも心を許さないのを・・知っている、その瞳の奥の本能に、

――僕は、骨を軋ませ、・・その血を踊らせ、

執拗に、何度も、何度も、果ててしまいたくなる――)

レムニスケート、連珠形・・通り名は、死霊、

レムレース、治療薬はない――

「人生に後悔するのは、ルール違反・・

降りられない飛行機も、一度走り出したら止まらない列車も、

何一つ、ねえ、何一つ、僕と一緒だ、

何処まで行けるのかと僕は真摯に問い、それは恋でも、

――ねえ、学問でも、宗教でも・・神に願う、僕の誠実な祈り・・・」

(地雷をずっと避け続けてきたよう――な・・

ひどい夜が続いてね、階段の踊り場で、ほたるのひかり、

わかるか――な・・口ずさんでいるような、悲しさ――)

雨によどんだ灰色の空、いっそう暗いバス停で、ポカリスウェットを飲む、

十九歳、死ぬほど走り込んだ、

無意味に掘り当ててしまった肉体の限界も、

髪を梳かしてくれる、女たちの手も、

――森の中・・さまよって――るみたいに、ぬるぬるして、

そうだ、奥に、――もっと、美しいものがあるんだって、

信じていた、在りし日の呪文も、ねえ、魔法も、すっかり、

キノコやコケモモ、それも、落ち葉に埋もれてね、一枚一枚よどんでいる、

芭蕉のさみしさ――かな、・・味気ない、

でも心は老いる、肉体はまだ若い、永遠だけが僕の憧れ、

そんな風に、顔を見合せているらしい僕を取り囲む秩序、

忘れて――しまっていた・・

「港へ――」

(涼しそうに風に吹かれている、夏も、

ねえ、寒くて、水じゃないお湯なんかにも震えている冬・・)

つくづく――

人間って不調和――だ・・

普通って、いいことだよ――誰かをきちんと愛せる、

嘘の中でね、ああ、嘘の中で――奥行きが深い玄関のドアベルに、

そっとキスする、舌を入れてね、やさしく丸める――

窓の下に立ちどまり、背伸びして・・川底みたいだ、と気付く、

でも、咲いている、人の貧しさ――

どの庭も、どの庭も、本当の花を、見付けられないでいる、

孤独な都会!・・看護婦にいじめられ、教習所の先生に、

どこ住んでいるの、と聞かれる――

「――僕は、もう、最悪の形で何度も知っちゃったんだよ、

ああもう、腫れあがるほどにね、淋しくて使い物にならない、

賞味期限の切れた女の肉体でも、人の心は――ある・・

そして――僕は、あれほど憧れていた運命の女の裸体に唾を吐いたんだ、

ああ、いかに使い物にならない役立たずの玩具か、

その胸も、お臍も、ねえ、ありとあらゆる君の美しさ――に・・」

宿命なんて所詮、戯言にすぎず・・すべて、神の意のままだということをね、

[恐ろしい行為のひずみ・・]

コトン・・・・・・コトン・・・・・・。

皮膚に感ずる――なつかしい、甘い汗。

おお、曼珠沙華、彼岸花・・マンドラゴラ――

短い言葉を交わすたびに、黒い煙があが――る・・

憂愁の曳航――人生なんて、どれほどの値うちだって言う?

たかだか造花、さもなければ、野花。

ああ体内のエネルギー代謝を調整する、ホルモン物質の一つじゃないかな、

そう想う、ああそう想ってしまう、天才過ぎる僕は!

口惜しいほど――おお、神よ・・あなたはまだ、満足していない、トリップ、

あなたはまだ、・・まだ、僕の生き血を啜ろうとしている、

懺悔も、まだ聞きたい――のだ・・あなたのいる真昼・・・

「きたるべき悲しい午後。・・・・・・」

すべてのものの内側で生き。脈動し。硬い黒砂を選むように、

死の線が延び続けていた――しなやかに夜気が蒸れる、

美しい人達は、青信号だと言って、何も気づかずに、ピラミッドへと向かい、

それが黄色となり、赤――となって、もまだ、エゴを捨てられず、

二匹の糞虫の構図。互いに邪魔し合いながらしがみついている、

足を引っ張り合っている、マイィマイン

(ねえ、あの臆病な人を見たかい、自分の話しかしないんだ・・

ねえ、知ってるかい、本当に傷付いたことがある人なんて――稀なんだ・・)
               ミナレット
軽蔑するように笑いだした尖塔・・

風景の印象が弱くなる――そして、

人の面影がすぐに強くな――る・・

コトン・・・・・・コトン・・・・・・。

また、――だ・・

多孔質のスポンジのような、人の感覚の世界、
                          とき
――澱がおりたよ・・内省に充ちた飛躍おおき瞬間・・・

(声にならない激情が、何度も宇宙の開闢を――告げた・・

さあ始まりだ――世界を呪え、・・そしてその呪いの分だけ、愛せ――)

・・・始まりのない、始まりの――ない、朝、

終わりのない、終わりの――ない、朝・・

透過する饒舌!・・足を伸ばせば、汝の胸に手が当たる・・いそいでゆけば、

急げば、ゆらゆら――が続くLonely ・・

彼方に想いは沈む。ライト――ライト・・黒い魅惑、

おお、加速のなかに女は――暗鬱な女は・・限りない大空に憧れ――る・・

たとえ、黒い雨が降ろうと、・・蛞蝓が降ろうと・・

(君が来るとは信じてはいなかった。――)

くだのようなからだを引きずつて這入つて来た、何かが、俺をおかしくする、

私にする――絶対とは、不幸すぎる、ということ・・

偽物なんだろ、

本当に欲しいものは、もっと別のものなんだろ、

おかしいほど、――亀裂!・・

――夜でも、昼でも、ヘヴンズゲエェトをくぐる、・・

悲しいほどに、まとうGender ...

そして君はまた違う誰かになる! 何か輝かしいもの――おお・・

消しゴムを並べていく、ハードカヴァーの小説みたいに、

――駄目だったのか?・・一日は、カタ カタ カタ・・・

捕虜となってしまった、愛に・・ええ、――そう、愛の夢に――

溺れ続けることが、泳ぎ続けることが、・・Smile と――






  1月31日






 1


最後の瞬間に思い浮かべたもの、見たものは、自分のその部屋だった。

そこで、不規則に渦巻きながら、方向のない移動を始めたりしている。

そんな風に!――にわか雨が止んだ・・。

オールにしみ込んだ夜に黒い炎を煽る。

冷めた花びらから、恐ろしく単純に、

金属がなんらかの操作で別の金属に相互変換する、

――熱い香りのコーヒーカップ。

なんの仕掛けも芝居気もなく街灯が

一斉に点る。産卵期の初夏、

集団で水上に跳び上がることで知られるレン魚のように。


 2


記憶の部屋である。そこで、僕は焦点を失い、呼吸もひきつり、

ほとんど、止まりかけていた。睫毛の先に、――おお、戸惑いの瞳の奥に、

秘めたざわめきが伝わる。コンビニの帰り、

パトカーは狭まった両側の壁に挟まって、

つぶれるように停止した。僕は振り返ることもなく、

狭い路地の先に見えた光に向かって跳躍する。

通りは見渡す限りその果てまで磨かれたようにつやつやしていた。

すでにパトカーの姿はなく、ぱちゃんと靴底が水たまりを踏み、

雫が舞い上がる。でなければ、これから凍る。

見よ! 粗大ゴミの日は月曜日と木曜日――。

我々の一生では何かが終っても、すべてが消えるのではない。

ただ、自分たちが止まる。交通事故で、救急車がサイレンを鳴らす。

警察官が現場検証をする。夜は、長く、そして、淋しい・・


 3


茂みをかき分けて葦辺まで、おお、まるで――

皮膚にはり付いた砂のように、振り払えずにいる。

時折には、気付けずにいる。

しかし、同じリードの一節を繰返し練習するように、

胸にこみあげた感情をふり切るように、

僕は紙コップをさし出す。

そこにどんな飲み物があるかなんて知らない――

ただ、意味があると思っている。

それだけだ、それが美味しいとか、熱いとかぬるいとか、

冷たいとか、それすらも、考えていない。


 4


しっとり濡れた白樺の褐色の木立が、

すぐそばまで、近づいてきている。血管のなかで、

勝手に増えていく情感のように、まっすぐ。

5~6センチの蓮華状の花をつける。落葉低木がそこにある。

鉛筆の線から、陽光がつくられる。

それが偽物でも、僕は、陽光と言っただろ――う・・

変動・影響などの範囲。窓・戸・欄間などに、縦または横に一定間隔を置いて

はめこんだ竹の透かし格子。

 5


思いがけずほろ酔い気分になるような羽目をはずしたため、

僕はすっかり、愚かさを催促するマゾヒストだ。

酔いは、ゆすったり、裏返したり、いろんなことを試している。

すると、まるで挑まれでもしたように、

そいつは蛇で、急に身体をくねらせて近づいてくる。

頭が、大きい。目の前で、一切の形を否定する恐怖。

水の性質にしたがったような強制的な圧迫感。

しかし、その飴玉を、ぬき取れば口の中はがらん洞になる。お菓子。

ざらざらのオレンジがかった、いや黄色。舌。

うすあかい、ざらざらの庭に、発声器官や聴覚は、

最初に覚える感じのような、春の印象、空気。

それの渦捲くような感じが、滑る。冷たい。

足が何故、垂れてゆく。若く張通る響きの強い声音。

なまはんかな知的操作を拒絶するもの。

捜索願も、新聞広告もない。

ただ、ひどく手がかりのつかみにくいものとして、

殺虫剤や、虫取り網がある。


 6


それはなぜか。そのあとに

恥ずかしいという感情がやってくる、まる一日、

休みなく続いているのに、夜寝て朝起きると知りながら、

何度も近づいては遠ざかると知りながら、無駄な努力は去らない、

固定観念から自由になれない。それでも、熱は、

だぶだぶのズボンを履いた道化。笑えばいいさ、ああ――そうさ、

笑うがいい。ふだん隠している、くたびれた自分を憐れむがいい!

這う君、歩く君、――走る君!


 7


そのあとで色とりどりのぬかるみの真っただ中に出ていき、

水筒が下車する。エディプス・コンプレックスにとり憑かれた。

トタンぶきの建物。際限もなく突然、視界がひらけた目的の海でさえも、

地図を間違えたようにくだかれた貝殻と、家畜のにおいとに、

あわてて眼を逸らす砂の色、魚の網。

リアルな現実に触れることができない、逸脱や暴走に、

そう――無へと入っていく。水晶細工のように浮き上がっている、

眼の呼吸器とでもいえそうなものが、無意識に知覚している幾本もの姿は、

何か太古のさまを思わせるような、美しさで、――薔薇色に染まった・・

秋の末からまた白くなり始め、唐突にやってくる冬の前触れ!

ぞっとするようなお祭り気分の街路をぶらつけば、ああ、眼を閉じる、

ねばりけのある唾液。瞼の興奮と苛立ち。


 8


虚空をつかむような遠い遠い思い

人混みの中にいると、割り箸を割るようなたやすさで、

その人が、どんな人物であるかわかることもある。

さあ、遠慮しないでもっと愛撫して!

偽りの愛撫。ブレーキを掛けた車の上を飛び越え、反対側の歩道へ渡る。

煉瓦の壁にもたれ、呼吸を整えながら通りの様子をうかがう。

ロビンソン・クルーソー!

あるいは、無表情がさらさらとこぼれおちてゆきそうな、

孤独。焼けた砂に、痛みさえ見せなさそうな仮面の群衆。

分析。都市の一考察。人間というものは、砂糖をまぶされなくなると、

ドーナツになれなくなる。

真中に穴があいている、というのは、誰でもそうだが、

皆、嘘や、あやまちにそそのかされて、

不気味なくらい、はげかかっている。無論、頭のことではない。

みすぼらしく、目立たない、人だ。

道の上からとりのぞいても、――かげろうのように、

また人があらわれ、しかしそれもなぜか、確信のもてない、

人らしくて人ではないけれど、やっぱり人。

抵抗という無意味さを教え、何の役にもたちはしない、人。


 9


覆い被さった楓葉の陰りのしたに、意味のある言葉のように、

仕草と沈黙が来る。はじらいのない、肌を刺すことのない、

みじめな失敗が、せきを切ったように、わめき出す。

――そして、僕と君という、僕等という世界の中で、

卑屈な関係を保っていた。この最高度の健康が、わめき出す!・・

わざわざ登るほどの山はない、

高い火の見櫓はない、塔もない、

――そこでは、人影ばかり・・

見通しが悪いだけだ。砂の斜面に、蝿の仲間。

花粉をまぶされたように、呼吸が苦しくなる、

ああ、雨降らぬ季節の乾涸らびた脳髄――

さながら遺骨をビニール袋に納め、ポケットに入れて旅にでも出るようだ、

旅に出よう、書を捨てて!

そうだ、恋人すらも棄てて!


 10


柔らかな胸に腕を組んで立っているのは誰だろう?

肩と、腕と、脇腹と、腰なんだろうと思う。

その姿を見るとたちまち僕の中に、不意に、すさまじい響きが起こって、

運勢図のようなものを透視してしまう。ああ、もし、

コントロール・タワーのようなものがあれば、空気を清浄にするのと、

同じくらい、麻痺して、世界は静止する。


 11


前方に、時刻が移っても少しも衰えない日射しと灼ける野が見え

清らかな暗黒に浸され、洗われた。

ああ、誰か面倒をみてくれるだろうか。

この骨、近くと遠くが交錯する。待ってくれ、と言ったところで、

誰も聞く耳など持たない。おびただしいノイズ。

くらい顔をうつむけて歩いている人の多くが、虚弱で、わがままで、

――部屋の中でベッドに平らに横たわった人が、そうであるように、

身じろぎもせず横たわったまま、夕闇。風化や水の浸蝕による土の分解を、

意識する。遠ざかっていく足跡を満たすまばゆい水のその眸ざし。

いとわしい競争が、片隅にまどろむ。生存に適していない、堕落おおき

人の心に、年中しがみついている蛭。おお、ふるいわけられた3パターン。

淋しい人と、普通の人と、淋しくない人。淋しくて仕方のない人間には、

余計な心配をすることがない。レンダリング。現実のうっとうしさなどを、

想い描いている人は、さながら散水の燦々たる滑降台。弱いもの、脆いもの、

と言っていても、たかだか街頭の大型ディスプレイの緊急速報。

神経の衝撃が石榴や桃の実に触れるまでにはいたらない。せき込んでも、

充血した目のふちでも、どちらも深いほら穴ではない。崖際でもない。

ただたんに、ひっそりと沈んだ牡蠣。ひっそりと微妙に危険な均衡を、

皮肉や、あるいは愛の言葉が通り過ぎてゆく。ゆるやかな斜面を、

降りてゆくように、息をはずませながら、ざわつく手を落ち着かせながら、

抜け殻のようにそれは硬くなっていた。厚い陶器のように。

そして口から垂れるにまかせていた涎れ、さからえるはずもないのに、

ただひとり、自分がそこに力を入れないだけで絹の動くときの、

結ばれるときの、なまめかしい、やわらかい音。レンダリング!

――鈍重な草根。公園はひからびた球根のように、隠れ場もない、

枯れ木が、細い道に植えられている。笑い声もきこえない。でも、

老人は通る。淡い疲労の眼の奥で、痩せこけた頬の奥、痰の絡まった、

咽喉の奥に、淡い光の点となって、少しも人間らしくない、虫となる。

都合の良いように解釈し、困れば怒り、人がよさそうだとわかれば微笑する。

別に悪い人じゃない。でも、老人だ。それだけのことだ。


 12


チクタクと時を刻む音は、

人はそれぞれ、人から何らかの影響を受けている証だ。

そのうち、うとうとすると、僕は十本もの手にひっくり返される。

何らかのものに。たとえば目覚ましをあらわすものに。

あるいは、ステンレスの冷たい感じに。


 13


できるなら駅のベンチに坐って、一日中行き交う人を眺めていたい。

ああ、わかっている――僕はピーラーで、芋の皮を剥きたい。

それだけのことだ。キッチンマットも、ミニシェルフも、水切りも、

ペットボトルワゴンもいらない。カップツリーもね。

僕はピーラーで、芋の皮を剥きたい。

そして、家に帰りたい。


 14


洪水の川を流れる巨大な樹、家、ピアノ、車のように、

シーツと毛布を丸いビロウドの天井のように引っかぶって、洞窟のようにした――

シャーマンの呪術。感受性の美しさ、その音楽の美しさは、

光学的な滅びの後で見る夢。


 15


そのようにして、白いオイルがポタポタと漏れていた。思いあがった感傷主義なら、

汚れた犬の眼とでも、ノミの大群とでもいって、

君を不愉快にさせるかも知れない――ああ、僕だ! 僕です・・

しかし、やりきれない、

湿っぽさをくすぐり返すのは、まだ、花が咲くからだ。

かたくならないうちに冷蔵庫にいれるご飯にくらぶれば、

ずっと、自然。夜が明けて、かたい飯をもそもそ食っているうちに、

滝みたいに流れだした一週間にようやく夜が明けて、ライン作業も何のその、

俺たち、指ではじいた火の粉みたいに一瞬にしてすぐまた明るく燃えだす。

無知によって冒涜されかけていた昨日までの日々の乾燥が、

流動する。黙って部屋の隅をあるくパジャマ姿の女に、おはよう、と、

いたわるようにささやくのは、けして、リッピササビスではない。

お嬢さん、子供がほしいかい。それにしても、随分変わったやり口で、

しゃぶりますね。これ、大切。女性を褒める時は、頭をきちんと、

撫でましょう。そしてどんな時でも、うーうー、と呻きましょう。

この人って馬鹿ね、そうですよ、どうすれば、相手が、

馬鹿だなあ、と油断してくれるかばかり、考えているのですよ。

リラックスって、必要。みんな、こわばっているのは、不器用すぎる、

あの笑いからわかります。別に、そうさ、絶対に、一か所に、

とどまってなんかいやしない。悲しみが、積もる前に、

雪かきするよ。毎日、ふいにランプの火が消えかかる、四つん這いで、

おっとごめんよ、あっしのおっとせいが、あたっちゃいました、アウアウ。

ともすりゃ、のたうちまわりそうな俺は身体をのばす。そして首をかしげて、

新しいタバコに一本火をつけりゃ、オート三輪らしいエンジンの音も、

きこえてくるぜ。そして、すえなかろうが、女にすすめてやんな。

空には、まだ、星がずっしりと垂れこめている。

あわよくば、公園。コーヒーくらい、いれるから、馬鹿みたいな顔して、

隣で呆けていてくれ。人生に、苦しむのは馬鹿な俺くらいでいい。

ねえ朝くらい、こんなゾンビだらけの緊張を破って、芽を出していてほしい。

そう思う、僕のスコップがそれを大きな公園へと植え替えるまで――


 16


部屋の隅で明るく電灯に照らされた自分の寝床に向かって、

お前は、まだ機密性が高いな、と言う。ときおり咳払いをしながら、

レモンの果汁に砂糖また炭酸水を加えた水を飲む。

そして、甘えてはふざけ、こびては離れる猫とか犬のようにはなれない、

人の難しさを、ひとつの詩にでもしよう。

色々な過去を背負って、次の世に生きるより、

インテリゲンチャの幻滅、不正や圧迫に対する抵抗をし、

自由への憧れをうたう方がいい。そして、熱くなる方がいい。

自分の魂が他人の魂の中に入り込むように――

キリストを抱く悲しみのマリア像、入れ子状。

ああ、恋している女を抱きしめに行こう。自分を見つめ直そう。

生きている時間を大切に過ごしながら、本当とは何かと問う君よ、

心はいつも、ちゃんと君の中にある。

どんな夜も、昼も、声が聞こえる。

それは、良心の場合と、邪悪なものへといざなおうとする囁きだ。

しかし、人生はすべて正しい! 君も正しい!

でも、多分、僕の方がずっと正しい!

――だって僕の声に、抗おうとする人が大多数だが、

というより、まず、僕以外できもしないようなありさまだが、

それでいて、それが一番正しいことをみんな知っている。

だからそれは正しい。そしてそれでいいのだ!・・

君が従う必要はない。好きなだけ堕落し、人生を楽しめ!

言葉が悪いと思うなら、よく生きろ!

するとどうだろう、突然、世界の照明ががらっと変わり、

俗っぽい家具の並んだとても小さな部屋で、薄暗く、埃もある部屋に、

僕はいた。そこで、瞳を青い月の色に変え、閉じかけた抽斗に、

いつかどこかで見た鳥が止まる――よ・・

たちまち傾けた。淡い光の手紙――

僕は、本当に眼を瞑り、何度も首を振った。

そこには、こう書かれてあったんだよ。

「――僕が僕を信じているように、

君も自由への熱い闘いを始めるといい。」


――長い夜は、こうして、締めくくられ、

誰も、こぼすことのできなかった、嘘や過ちを、

僕はただ、魂の通過儀礼として受け入れ、

僕は名実ともに、詩人の魂となろ――う・・

人の弱さを強さを持って受け容れる、それでいて、

それは違うときちんと言える、本当の優しさを持った、

孤独な人でいよ――う・・愛はいつも傍にある、

そして、世界はいつでも、心を開いた人の向こう側にある・・

そして、一度たりとも、僕は屈さなかった。

僕が負けないと言えば、一度も、負けることはないのだ。

僕が勝ったと言えば、どんな瞬間も、勝ち続けたのだ。

次の子たちよ、僕はいつでも、僕のあまりにも高い理想に、

いつでも近付いてほしいと思っている。この国で、

このあり得ない人びとに、勇気を絶やさないことが、

どんなに大切かわかる時がやがて君にも来る――朝は、

明日は、そういう君の涙をぬぐうためにある・・そして、その時、

ここまでおいで、本当の人生が知りたくなると思うから・・


その時のために、僕は、全部準備しておくつもりだよ、

君が、生きている時代は、僕がすべて支えてみせる――

もう、誰ひとり、こんな苦しみを抱かせたりしないと・・

何度も誓ったんだ、夜も、昼も、おお、そして、すべての朝に――


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