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灯台

探偵

1 空壜の椅子

 

 

ぐらぐら沸いた湯

茶碗には星たちのざわめき

蒸れて仕方がない

靴下をなげだすように

天使の沓音(くつおと)

かたン!

放熱器(らじえーたー)

きらきらする

しろい船のようにおもう

だから冷却器(らじえた)

遭難船に乗る子供たち

ゆられ ゆられても

指はあたたかい

スプーンはつめたいまま

置かれた貝殻の舌

耳は楽器のシャボン玉

まぶしい笑顔のように

ただ いたずらに

こころを裂いていく夕暮れ

しずかにとまれ

雲のアルバム

にはさまれて

しずかにとまれ

時のランダム

からぬけだして

しずかにとまれ

腹のパイプに

 なみだおちるよに

  盲目の手・・・・・・

しずかにとまれ

小さな叫び(ごえ)

並木の間のカマキリたち

放心した花?(はなびら)たち

だれが いきるの

やめた というの・・・・・・

木枯らしが吹いている

巴旦杏(あーもんど) 形骸(ほねのかたち)

抜けた歯の()()から

ビール壜の蓋をあける

栓抜きをわすれた

(あき)(びん)の椅子! 

それは乾いた砂に埋まっている

かと思えば 手まねきする

そして空壜をまたころがす

それは惡魔(あくま)の手に

おちてゆくかもしれない

カウンターのうしろで 

壁づたいのつづきに

とだえてしまった電話のベル

灰皿からはパープル・ヘンズ

ゆっくりと推理小説(ミステリー)はつづく

 

 

2 戦争

 

 

用事を忘れてしまった

うつくしい扉文字をわすれるように

傷口を舐めている獣と 酔いどれの

(しろ)いい蝶 皓いい蝶

爆発音と同時に

乳液(みるく)攪拌(かくはん)

辺りは火の海と化していた

そのつめあとの一部始終を

わたしはあえて問わない

塵や灰は例外無く底へしずむ

葡萄の汁が

ぽたんと垂れたあとの

くろい()かげのような沈黙

すべてはもはや過ぎ去ってしまった

たとえそれが呪いとして

いつか根刮(ねこそ)ぎ持ってゆかれたもの

生活のうえへ うえへとゆく

この呼吸だとしても

もうグラスの底には翳りだけ

残酷に近い まどろみだけ

これからは?

これから 考えればよい

孤独な彼の横顔は

ただ煙草をのむ

ぼんやりと・・・・・・

いずれまた! そういずれまた

孤独は()りつもるであろう

いっそう蒼褪めてもくるだろう

だが不幸なピエローではない

大河の一滴でもない

それを(いや)してくれるものは

血液の輸送網(ゆそうもう)

かなしい 吐息だけ

かなしい 吐息だけ

 

 

3 ひぐらし

 

 

僕は嘘をついた

低くうなだれたように()ぶやく

重い時計の振り子のように

ああ しかし 耐へねば・・・・・・

白く凍った

既存の組織・制度

建物のひび

乾坤(けんこん)の樹立

そこにスプレーのような雨

フラスコにぴかぴかする

やめろ なめくじのペイント

その時に一体

だれが大聖堂を思うだろう

ああ みんな灰色の壁

ヴァイオリンとセロよ

パイプオルガンよ

管弦楽(おーけすとら)にぬりこめられて!

場所柄も(わきま)へず! だれが

ズレた台詞を(つぶや)けるだろう

しかしここには愁いの門

ひとつのうすぐらきとばり

たとえば夜に擦るマッチ

今日もアパートの窓に

水道管の破裂したような

資金を調達してくる

つかれたる椅子

そして男の背中のような

ウィスキーのレッテルの机

唇は水にうく油のように

分離された紫煙(けむり)の自虐

繊細な(しん)(けい)の持主である彼は

ふかく斯様(かよう)悪習(あくしゅう)()

ワイシャツからのぞく腕

頬骨がつめたい硝子に()がる

そのラインはうなだれ

あやしげな影を卓子(てーぶる)におとす

団扇(うちわ)みたいな軟体の(まく)めいた(たわむ)

僕は嘘をついた!

もう低くうなだれて

おなじようには()ぶやけまい

もうあしあとは落葉にうまって

暗く重たい沓音(くつおと)

肋骨をふんでゆくような

ただ たまらないねむり

遠くにきこえた電車のひびき

その机の秘密こそ神祕(しんぴ)のとりで

内部のひそかな愛撫

虚空になげあげられた

怖ろしき叫喚(さけび)―――

黄昏のゆくえ

ひとりぼっちで橋にもたれ

時計が河に()てられる



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