ZERO SECOND 175
寝室にベットが八つぐらいセットされている・・らしい―――。 病院の相部屋風に天井からL字のカーテンで仕切られているが、 ―――おそらくオーダーカーテンだと、触って見てその厚さに気付いた・・。 [遮蔽性]や、[防音性]もずっとよいものだろう・・、 、、、、、、、、、、、、、、 そういえば、病院なんかだと個室でもランクがあって、 [それはたとえば、一軒家とアパートの値段が一緒! いや、都心と田舎というオチであるが、] 値段も相部屋とは違ってくる―――。 (一 般 個 室 と 、 特 別 個 室 だ と 値 段 も 二 倍 か ら 四 倍 違 う と い う 情 報 も あ る 、) マカベ先輩は自分の寝室に行ったのだろうか・・。 ともあれ、割り当てられたスペースに入る。 【魔王】という札があったので、それもどうかと思ったが、 妹のおりえもいるのでそういうニックネームも必要である。 特に気にするところでもないだろ―――う・・。 ベッドに入って気付いたのは、やっぱりダブルベッドというサイズということだ。 (もし、僕等が宿泊するためだけにこんな部屋を作っていたらと思うと、 ひやっと、する・・、) ともあれ、弾力や柔らかさともに、僕の家のそれよりはるかにいいということは、 すぐにわかる。その時、ふと思ったのは、ベッドはただ寝る道具じゃない、 ということだった。快適性というのはたとえば花みたいなもので、 植物に偶然か気まぐれにくっついているということはありえないのだ。 たとえば、「跳ね上げ式ガス圧収納ベッド」なんかがそうだろう。 抱き合わせ商法は嫌われるが、マルチ・アイテムは喜ばれ―――る・・。 さて―――。 ベッドに入る前に、ベッドの枕元に分かりやすく置かれていた、 『籠の中のパジャマ』に着替える。 ちなみに、ティッシュペーパーや、ミネラルウォーター、 それから櫛も入っていて、至れり尽くせりである。 (着てみるとシルクの肌触りが心地よい・・、) ―――なお、部屋には聞こえるか聞こえないかの音量で、 ショパン・メドレーが流れている・・。 また部屋の照明はオレンジの、豆電球色である―――。 ―――夜の時間。 そろりと布団の中に入る。室温が少し寒いぐらいに設定されているのか、 それとも、カレンあたりがいじったのかは不明だが・・、 (こういうことを絶対にする奴がいる!) でも、『脆弱な垣根』をつくって感謝を忘れてはいけない気がする・・、 鳥や、獣や、魚は常に外敵と戦っているのだ―――。 蚊に咬まれない、避暑できてなおかつ安眠できる―――よろこび・・、 夏のテント経験よろしくである。 でもベッドというのはひとくさりの、 「グロテスクとエロティックな場所」だと思う。 (君は、もしかしたら童話やお伽噺のなかの眠る場面を想像しているかも知れないが、) ―――人生はいかなる役割を演じるかをもとより知らぬ人間の心得だよ、 静的だからこそ視覚的なものの補充である動的なものと結合し、 高次元的な夢の世界へ導かれてゆく、ヘブンズドアァー、 二つのむすびめのあいだにはられた弦線・・。 (九 〇 分 の 倍 数 が 目 覚 め に い い と い う の は 、 本当だ ろ う ― ― ― か ・・ ) 単純なる影や線のリズミカルな動き・・・それはつまり夜の伴奏―――。 ピアニシモと共に消えるスウィート・メモリー、 進行の感じを持たない倦怠と疲労の立体感がアクセントをつくる・・、 夢に阻止された願望の実現、映像の底に隠された識閾の下の根―――。 (「眠る時間」ではなく「眠る質」であることはもう一般的な事実であるが、) ―――鯉の寓意か、それとも暴れ馬か、 ハッピーエンドか、それとも喜劇? 悲劇? (でも「審判の日」を気にした人もいたのだ、ソドムやゴモラの神罰を恐れ、 神経衰弱にかかったそんな歴史の中の夜・・、) 宗教的で哲学的な砂を敷いたような場所―――。 枕に頭を置いて、五分ぐらい経ったのだろう―――か・・。 かさっ、という音がした。 カーテンを開けてゆさぎが小さな枕を持って入ってきた。 (一瞬身構えたのは、てっきりカレンかマカベ先輩だと思ったからであるが・・、) 入りたいのかと思って布団を開けてやると、 ピョコンと飛び跳ねて顔のところにくると、 、、、、、、、、、、、、、、、 Xボタンでジャンプしながら進む―――。 「お兄ちゃん、ナンダヨ―――ツンツン・・」 と、照れたような感じで言ってくる。 、、 、、、、、、 誰得、どういう需要? 、、、、 、、、、、、、、、、、、 というか、何処に向かっている方向性―――。 「しょうがないから、お兄ちゃんと一緒にいてやるか」と何故かデレた。 ⇒ツンデレ(?) (でもそれはプロットに随って撮影された、たくさんのフィルムの巻物よろしく、 たくさんの無駄なカットが含まれている―――ものだ・・。) まあしかし、うさぎはオスだし、寝相が悪いわけでもないから、 一緒に眠る分には構わない。ふわふわもこもこしている―――し、 なんかよくわからないけど、耳をモフッていると幸せな気持ちになれる。 それをあえて言うなら、 「アニマルセラピー的ぬいぐるみ効果」だろうか・・。 優雅と滑稽を承知で言えば―――。 動物を飼うということは貴族的なものであるが・・、 それが格を定め理を知るということにはならない。 無垢な原始的な―――プリミティヴな触覚で・・、 やわらかいは無敵だ・・。 (ゆさぎという流路には幾多な複雑な曲折があったが―――、) >>>管楽器ないしは打楽器のようなもの 岬ちゃんやマカベ先輩は寝たのだろうかと思っていたら、 数分後、明らかに人型サイズのうさぎが普通にやってきた。 ―――マカベうさぎ、だった。 かもちゃんだったらこう言うかも知れない、 ソウデスカ、ついに、イヨイヨ、出てきしまいマスタか・・。 事物の外殻を破る―――。 材 料 の 選 択 と 取 り 合 わ せ ―――。 「ウチノウサギガドコカニイッテシマッタ」 ―――小 ネ タ を 挟 ま な け れ ば な ら な い の は 、 狭 隘 な 個 性 の 反 発 力 の 中 二 病 と い う よ り 、 か も ち ゃ ん 病 ・・。 、、、、 夜のさやまめが大きくなる―――。 イントネーション/表情/身振り/その場の雰囲気 ―――夜の男女の姿がほのかに白く浮かび上がってしま・・う。 急ブレーキをかけたような動作の不自然―――のあと・・。 普通に布団に手を掛けてもぐりこもうとしたように見えたので、 (それはいわば、流砂の中の湖水のようなもの・・、) またややこしいことはごめんだとばかり、 イヤハヤイヤハヤ―――。 寝ぼけたふりして布団を巻き込んで横に逃げた。 そうするとマカベ先輩が、 おおよそ適切な視覚効果がなければ成立しないセリフを・・。 におい...響き...移り変わり....俤...景色... 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、 すぐにくるりと鼻の向きを変えたくなる僕がいて―――。 でも、タイセツなこと、カンジンなこと、 クダラヌこと、トルニタラヌこと・・ それがいつも、ドウシテから始まっていたりする・・、 「―――あたしはただ、魔王に・・・・・・、 いつもありがとう、って・・・・・・言いに来ただけ・・・・・・」 立体的な困難・・・・・・。 彩色の無きにしもあらず・・、 誇張的なステレオタイプが、花を遠くの樹まで移動させてしま―――う・・。 視像のクレッシェンド―――自由自在の領域・・で・・。 それはまるで魔法のように不思議なスウイッチ―――で・・。 そのボタンを押しただけで数十の電灯がいちどきに妖精―――する・・。 僕は瞬間接着剤のアロンアルファのようにかたまってい―――る・・。 「だから、魔王・・・これから一緒に夜食たべよう!」 かもちゃんが、もういいダロ、早く飯食べに行こうダロ、と言ってくる・・。 ―――旺盛な食欲・・いや、どうして眠る段になって腹が減るのかこの生き物たち! 「なんでそうなりますか!」と、僕は普通に突っ込んだ。 ―――なお、部屋には聞こえるか聞こえないかの音量で、 ショパン・メドレーが流れている・・。 また部屋の照明はオレンジの、豆電球色である―――。 ―――夜の時間。