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Benediction of God in Solitude

Benediction of God in Solitude

十五夜


「セフィ、今日の夜、十時頃開けといてくれよ。」

アーヴァインが朝、食堂で朝食を取っているときにそう言ってきた。
誘うのはいつもアーヴァインからだが、この日は珍しく時間まで指定してきた。
それでもいつものことだし誘われるのは嬉しいのでセルフィは疑問を打ち消し同意した。

「いいよ~。」

朝食を終え、二人はそれぞれのスケジュールを確認した。
アーヴァインは射撃の実技が三時間、精製学、薬品学、改造学。
セルフィは電子工学が二時間、機械工学が二時間、CPC(コンピュータクラッキング)学、解体学となっていた。
だいたい得意科目の担当教官になるので授業は楽しいし楽だった。
二人は時間が迫ってきたのでそれぞれの授業に向かった。


その日の授業が全て終り、アーヴァインは夕食を取るため食堂に向かおうとしたとき、スコールとリノアに会った。

「二人ともこれから夕食か~い?」
「あ、アーヴァイン。そうだよ。アーヴァインも?」
「僕はまださ~。場所取りでもしてセフィを待ってようと思って。彼女はまだ終ってないからね~。」
「え?まだ授業なの?」
「いやいや~こんなに遅くまで授業はやらないよ~。片付けしてるんじゃないかな?最後が解体学だし。」
「(成程。確かにあの教科なら時間がかかるだろうな。)……そうだ。今日戦闘訓練の時手に入れたんだ。いるか?」
「わ~お。エネルギー結晶体じゃないか。うわっ!67個もあるじゃないか。こんなに貰っていいのかい?」
「……あぁ、問題ない。(いくらでも楽に手に入るからな。)」
(アレってエルノーイル倒さないと手に入らないよね。一体倒すのも相当大変なのに。)
「ありがと~。明日の精製学で波動弾を作るのに使わせて貰うよ。ところでそろそろ行かないかい?」
「そうだね。」

三人は一緒に食堂に入ったが、アーヴァインは二人に気を遣い「それじゃ御ゆっくり~」と言い別のテーブルについた。
周りが楽しく夕食を取っている頃、アーヴァインはコーヒーを飲みながらセルフィを待っていた。
そして一時間後、、、

「ごめんアーヴィン、えろう遅なった。」
「気にしないでいいよ~。それより夕食にしようか。」
「え?アーヴィンまだ食べてないん?」
「セフィと一緒に食べようと思ってね。そっちの方が楽しいだろ~。さ、食べよう」

スコールならまず言わない歯の浮くような台詞を簡単に言い放ち、二人は随分と遅い夕食にありついた。
その日にあった面白いことを談笑しながら夕食を取り、食べ終えたのに暫くそこで話していた。
すると、約束の時間――――十時――――が近付いてきた。

「アーヴィン、そろそろ十時や。うちに何か用事があるんやろ?」

時間が近付いていた事に、アーヴァインは初めて気付いた。
「(自分から誘ったのに時間に気付かないのは駄目だよな~。)本当だね。じゃぁ行こうか。」
「え、今から?どこに行くんや?」
「ついてくればわかるよ。」

アーヴァインには珍しく、ただそう答えて歩き始めた。セルフィは?を浮かべながら後について歩いた。


十分後……
ついた場所は右には海が、左にはススキが並ぶテラスだった。

「ススキの上で空気も冷たくて澄んでるから満月が綺麗に見える場所なんだよ。」

アーヴァインの言葉に耳を傾けながらもセルフィはその絶景に息を飲んだ。
セルフィの滅多に見れないであろう表情を横目で見て、アーヴァインは満足気に微笑み、二人は暫く月を見上げていた。

「アーヴィン」
「なんだ~い?」

いつもと少し違う、仲間の前ではださなそうな声でセルフィはアーヴァインを呼んだ。
アーヴァインはそれを感じながらもいつもと同じ口調で答えた。
次にどんな言葉が来るのかを、予想しながら。

「お団子は?」
「へ……?」

流石のアーヴァインもこの答えは予想しておらず、呆気に取られた。

「月見ゆーたらやっぱ月見団子やろ?」
「……(セルフィらしいねぇ。花より団子かい。)ごめん、ちょっと待ってて。」

そう言うとアーヴァインはコートをセルフィにかけ、走っていった。

三分後、、、

「お、、、お待たせ。ゼェゼェ。へ、部屋にゼェゼェ置きっ放しだったんだゼェゼェ。」
「部屋まで取りに行ったんか?えらく早いなぁ。アーヴァイン走るの苦手やろ。」
「セフィを待たせちゃいけないと思って全力疾走してきたよ。ハァハァ」
(それでも早すぎやろ。部屋まで歩いて十分はかかるで。どう走れば三分で来れるんや。)
「どうかしたか~い?」
「いや、何でもあらへんよ。それより食べよ。」
「そだね~。」

二人は仲良く食べ始めた。
量はたくさんはなかったが、なかなかおいしかった。
アーヴァインの手作りだとわかり、セルフィは驚き、そして感心した。
アーヴァインは誉められ舞い上がり、満面の笑みを浮かべ喜んだ。

(しっかしやっぱアーヴァインは優しいな~そこがいいとこやな。誰にでも分け隔てなくってのはたま~に引っ掛かるけど、多分ウチはそこに惚れたんやろな。)

アーヴァインに寄りかかりながら、セルフィはそんなことを考えていた。
二人は幸せ気分に包まれ、そのまま景色を見て佇んでいた。



・オマケ・


翌朝、保健室にゼル以外の五人は揃っていた。バタバタと音がし、ゼルが飛込んできた。

「アーヴァインが風邪ひいたって本当かよ?」
「あぁ。」
「いったいどうしたんだ?」
「いや~昨日夜遅くまで」
「外でセルフィと一緒に月を見てたからだろう。」
「セルフィにコートを渡してそのままだったから風邪をひいたんじゃない?」
「猛スピードで走って汗をかいた後だったしな。」
「スコールにリノア、どうしてそんなに詳しいんだ?」
「……たまたま一つ上の階にいたんだ。」
「二人とも声大きいからね~。聞いてても笑いをこらえるのが大変だったよ。」
「なんやて!?二人とも盗み聞きしてたんか?」
「人聞きの悪いことを言うな。」
「私たち九時半にはいたんだよ。それに聞かれたくなかったらもっと小さな声で話してよ。アレじゃぁ否応無しに聞こえちゃうよ。」
「それに普段俺達にやるんだ。たまにはやられる方の身にもなれ。」
「確かに正論ね。」
「その通りだよな。」

二人は顔を真っ赤にしてうつ向いた。
窓から太陽の光が射し込み、二人を笑っているかのようだった。



fin


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