脳梗塞の 母の塗り絵
母が脳梗塞で合計6ヶ月の入院の後私の家に退院してきた時、母のリハビリをサポートするためにいろんなものを用意していました。その一つが幼児用のパズルで紙製の物、木製の物、立体の物と単純なものを何種類か揃えたんですが、脳梗塞の母はパズルが全くできませんでした。脳の「意図的に考える」部分がだめになっていたようなのと(考えることはできても、「考えを表に出す」事ができなくなっていたかもしれません)手を上手く動かせず物が上手く持てなかったからパズルができなかったのかもしれません。それでもパズルでリハビリできるように、母の椅子の近くに他の知育玩具などと一緒に常に置いてありましたが時々試しても、一度も出来なかったと思います。本屋さんで絵本の近くに売っている厚紙のパズルにはおまけで、パズルと同柄の塗り絵もついていました。塗り絵もリハビリに役立ちますから持ちやすい太い鉛筆状のクレヨンもデパートの知育玩具コーナーで見つけて入院先に届けてありました。「塗り絵をしようね」とカラフルなクレヨンのセットを母に見せ、「どの色が良い?」と手元に持っていくと不自由な手で触るので、「これ?」と聞いて、その色を手にもってもらいます。母はしっかり持つことはできずに、持ち方も不自然ですが、とりあえず持ってくれました。入院中はぐったりしていてクレヨンを持つことも出来なかったからそれだけでとても嬉しかった。でも塗り絵を塗ろうとしてはくれたんですが、とても弱い力しかなく指もコントロールできなかったので、かすかに指を動かして、ほんの一部の狭い範囲をとても弱い力でくしゅくしゅとしか塗れませんでした幼児用の塗り絵って、塗る範囲が黒い太線で区切ってあるので、通常はその太線内を同じ色で塗りつぶします。上手く出来ないとはみ出したり塗り方が均一ではなかったりしますが、母の場合はそれ以前の話で、太枠内全体を塗りつぶすこともできずに、枠内の中のほんの小さな範囲にかすかに色がつけられただけで、疲れたのかすぐクレヨンを置きました。他の色がいいのかと、また選んでもらってもその繰り返しで、塗り絵というものが全然わかってないのかなあとその時は思って、そのまま、パズルの袋の中に戻したままになっていました。母が亡くなったあと、知育玩具や介護用品はデイサービスに置いてあったものはそのまま施設に渡し、多くのものは母の妹達などが喜んで引き取りました。塗り絵の本や、字の練習をしたノートやシールブックは真っすぐな線も書けずふにゃふにゃの力ない線ばかりだったり何もできずにそのままだったので、見るのもつらくて、こういうものばかり取っておいてもと捨てました。パズルも綺麗な状態にしてあげてしまったので、塗り絵部分は捨ててしまったのだと思ってました。あの時、母を亡くしたばかりでつらくてつらくて前に進もうと、捨ててしまったけれど、でもあの時の母のものも取っておけば良かったかなとたまに思う事はあったんですがどうしようもありません。その塗り絵が先日書類の整理をした際に出てきたんです。やっぱり、母が頑張った証の一つとして捨てられなかったんでしょうね。A3サイズの塗り絵ですが、母が塗ったのはほんの一部、力のない線で薄く色をつけてあるだけです。太枠の所まで塗るということもわからなかったのかな、と当時感じたのと同じように思いました。でも改めてじっくり見ると、綺麗な色を選び、絵の一番メインの部分を指が上手くコントロールできないから枠からはみ出ないように塗ったんだなということがわかりました。力がないなりに、クレヨンは同方向に丁寧に動かして綺麗に塗ろうとしたことがわかります。そうか、母は綺麗に塗り絵をしようとしていたんだな、何もわからなかったわけではなくて単に手が動かせなかったんだな、心の中はいつもの母だったんだなということがわかってほっとしました。画像をクリックすると詳細が見られます。