週刊 読書案内 サラ・ロイ「なぜガザなのか」(青土社)
サラ・ロイ「なぜガザなのか」(青土社) パレスチナとか、イスラエルとか、地理的なイメージも、歴史的な認識もあやふやな老人です。ただ、時々見る映画とか、ネット上のニュースとかで、常識的には信じられないようなひどいことが起こっていることには気づいています。イスラエルはガザで何をしているのか? まあ、ちょっと怒りを感じながらの疑問です。とりあえず、まずはこの本だろうな、まあ、そう思って読み出したのがこの本です。サラ・ロイ「なぜガザなのか」(青土社)ですね。 メインは、アメリカのハーバードの先生であるサラ・ロイという方の論文が3本、加えて、翻訳を担当されている3人の方、アラブ文学の岡真理さん、ジャーナリストの小田切拓さん、社会思想史の早尾貴紀さんの、それぞれ、かなり重厚な解説が組み合わされた中身の濃い本でした。 サラ・ロイによる論考は2014年に書かれた第1章、2015年に書かれた第2章、そして、増補版である本書出版に際して、だから2024年に書かれた第3章の三つで、それぞれに対する解説、及び論考が加えられているという構成です。 基本的な認識の支えとして世界の実情が知りたい老人が読むには、読めども読めども気が晴れない内容ですが、知るべき事実から目をそらしていいのか、という厳しい問いかけだけは確かに受け取りました。 とりあえず、サラ・ロイによる序文の冒頭を紹介します。 序文 二〇二三年一〇月七日以降、中東は以前と異なった場所になった。それまでの状態(ステイタス・クォ・アンテ)は去ってしまい、もうそこへ戻ることはないだろう。どのような変化になるのかまだ明らかではないが、ともあれ変化は不可避である。ハマースによる残忍な攻撃は、イスラエル人一二〇〇人を殺害したが、イスラエル国家およびその治安と無敵さについての意識を永遠に変容させた。そのことでシオニズム自体の本質に疑問を投げかける人もいる。これに対してイスラエルが好き放題に行っている大量虐殺の結果、この記事を書いている時点で、パレスチナ人の死者は三万人以上、負傷者は約七万人に達し、そしてガザ地区の大部分は廃墟と化した。 しかし、イスラエルがハマースの攻撃は理由がなく、いきなり始まったと主張しようとも、歴史は一〇月七日にはじまったわけではない。(P33) で、第3章、岡真理による解説の結句がこうです。 2003年のガザでレイチェル・コリーが案じたのは、彼女の周りに集まって、アラビア語で無邪気に話しかけてくる子どもたちが成長し、世界の現実を知ったときに、果たしてそれを許せるかということだった。それから二一年がたった今、ガザは、「子どもたちの集団墓地」(グテーレス国連事務総長)と化し、「狡猾なジェノサイド」は文字どおりの「ジェノサイド」となった。今、ガザで起きていることは、今、始まったことではない。それはずっと前から起きていた。私たちはこれをもっと前に、止めさせることができた。しかし、ひとたび停戦になれば忘却し、関心の埒外に打ち棄てて、今に至るその道を整えてきたのは私たちだ。ほんの数週間、飢えて衰弱死する、ただそれだけのために、あるいは、ミサイルで家族もろとも肉片と化すためだけに、この世に生まれてきた赤ん坊たち。親族全員を殺されて、孤児となった子どもたち。四肢の切断を余儀なくされた何百、何千もの子どもたち(病院の床の上で、麻酔薬もなく切断手術を受けた者もいる)。 もし、この子どもたちが生き延びて、こうしたことのすべてを知ったとしたら、彼らは訊ねるだろう、、そのとき、あなたはどこにいたの?どこで何をしていたの? そうしたらこの子たちは、果たして世界を許すことができるだろうか?(P317) 今、パレスチナに限らず、世界中に生きている「子どもたち」を思い浮かべました。そうしたらこの子たちは、果たして世界を許すことができるだろうか? 引用した岡さんのことばは、こんな悲惨な出来事に気付きもしないまま生きている、例えばボクのお孫さんたちが、もう少し、大きくなって「こんな世界」に生きていた、あるいは、生きていると気づいた時に「世界を許すことができるだろうか?」という普遍的な重さを担っていると思いました。 まず、大人であるボクたちが世界の悲惨から目をそらさないことから始めるほかないのでしょうね。読み終えるには、まあ、ボクも苦労しましたが、多分、根性がいると思いますが、是非!目次と著者紹介を貼っておきます。[目次]序論――本書の位置づけと概要 早尾貴紀序文 サラ・ロイ第1章 反開発の完了2014・8――ガザ地区を生存不可能にする サラ・ロイ 一〇・七とは何だったのか 小田切 拓第2章 ガザ地区に対する数々の戦争に対する一考察2015・9 サラ・ロイ シオニズムから見たガザ地区、ガザ地区から見たシオニズム 早尾貴紀第3章 受け入れがたい非在――ガザの例外主義に対抗する2024・2 サラ・ロイ もし、この子たちが生き延びて…… 岡 真理あとがき[著者]サラ・ロイ(Sara Roy) 1955年アメリカ生まれ。政治経済学。ハーバード大学中等研究所上級研究員。パレスチナ、とくにイスラエルによるガザ地区の占領問題の政治経済学的研究で世界的に知られる。ホロコースト生き残りのユダヤ人を両親にもつ。『ホロコーストからガザへ――パレスチナの政治経済学』(青土社、2024)、The Gaza Strip: The Political Economy of De-Development, Institute for Palestine Studies, 1995 / 2nd ed. 2001 / 3rd ed. 2016. Failing Peace: Gaza and the Palestinian-Israeli Conflict, Pluto Press, 2006. Hamas and Civil Society in Gaza: Engaging the Islamist Social Sector, Princeton University Press, 2011. Unsilencing Gaza, Pluto Press, 2021.[編訳者]岡真理(おか・まり)1960年生まれ。早稲田大学文学学術院教授、京都大学名誉教授。東京外国語大学大学院修士課程修了。在モロッコ日本国大使館専門調査員、大阪女子大学人文社会学部講師、京都大学大学院人間・環境学研究科教授等を経て、現職。専攻は現代アラブ文学、パレスチナ問題。 『彼女の「正しい」名前とは何か』(青土社)、『棗椰子の木陰で』(青土社)、『アラブ、祈りとしての文学』(みすず書房)、『ガザに地下鉄が走る日』(みすず書房)、『ガザとは何か』(大和書房)。[編訳者]小田切拓(おだぎり・ひろむ)1968年生まれ。ジャーナリスト。イスラエル/パレスチナ問題を専門に取材し、渡航回数は現在まで70回あまりに及ぶ。取材歴は20年を超え、「ガザ地区」、「隔離壁」、「オスロ合意」や「経済援助による占領加担」についての構造的分析で知られる。 「ガザ 人間の壊し方」「ハマスの6ヵ月 民主主義が瓦解する」「開発学の終焉 パレスチナ支援という虚構」など。[編訳者]早尾貴紀(はやお・たかのり)1973年生まれ。東京経済大学教授。専攻は社会思想史。『国ってなんだろう?』(平凡社)、『パレスチナ/イスラエル論』(有志舎)、『希望のディアスプラ 移民・難民をめぐる政治史』(春秋社)、『ユダヤとイスラエルのあいだ』(青土社)。 共編書『シオニズムの解剖』(人文書院)、『ディアスポラから世界を読む』(明石書店)、『残余の声を聴く 沖縄・韓国・パレスチナ』(明石書店)、『徐京植 回想と対話』(高文研)。共訳書にジョナサン・ボヤーリン/ダニエル・ボヤーリン『ディアスポラの力』(平凡社)、イラン・パペ『パレスチナの民族浄化』(法政大学出版局)、ハミッド・ダバシ『ポスト・オリエンタリズム』(作品社)。監訳書にエラ・ショハット、ロバート・スタム『支配と抵抗の映像文化』(法政大学出版局)。2026-no072-1287追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)