|
カテゴリ:映画「元町映画館」でお昼寝
イ・チャンドン「ペパーミント・キャンディー」 ![]() 元町映画館が「オアシス」とセットで企画、上映している作品の最終日。残念ながら「オアシス」は見損ねたが、こっちだけでも、まあ、「バーニング」の不可解を解きたいという、一応それらしい目的もあるし、というわけで受付へ。 「よお、久しぶりやね、元気?」 「お久しぶりでーす!」 「あのさ、明日からの『ニューヨーク公共図書館』混む?」 「ああ、たぶん、満席ですね。」 「朝一番で、チケット買える?」 「はい。それだと大丈夫ですね。ありがとうございます。それで、今日は?」 「もちろん、イ・チャンドンやんか。」 どこかの河原で、おじさんおばさん年齢の人たちがバーベキューしている。チョー場違いな男がやってきて、何だか知らないけど、一人で暴れまわる。この男がこの映画の主人公キム・ヨンホ(ソル・ギョング)。 いつの間にか、河原から鉄橋に登った男は突進してくる列車に向かって絶叫しながら突っ立っている。これが1999年のことであったらしい。そこから列車からの風景が、どうも逆流しているらしい。カメラの方向と風景の流れが逆になっている。「ふーん、そういうことか。」と思ってみていると、案の定時間をさかのぼり始めた。 列車の前で棒立ちしていた男が、何だかわけのワカラナイ男と女の出来事に登場末う。会社の経営者らしいが、ちょっとヤ―サンの風情で、殺伐としていて、画面もそっけない。要するに壊れている。1994年 部屋には妻がいる。仕事場では最悪の拷問装置と化して、そこまでやるかという非情のライセンス化している。ここでも、すでに男は壊れている。1987年 仕事に就いたばかりの新米の警官が男だ。なんとなく予想通りに「汚いこと」にまみれてゆく。しかし、ここでもすでに男は壊れている。1984年 兵士である男がいて、娑婆で待つ恋人がいる。ここで初めて、映画の題名の由来がわかる。恋人が兵士に差し入れるのが「ぺパーミントキャンディー」、ハッカ飴だ。光州事件に出動したへっぴり腰の兵士であった男は「壊れてしまう」経験に遭遇する。1980年 河原にピクニックにやってきた学生たちの中に男がいる。まあ、ちょっと、そこまでもっていきますかと言いたいようなうぶな夢を語る。1979年 ここで映画は終わる。20年という時間が遡られて、いわば、謎が解かれる。ナルホド!それにしても、「壊れた男」になってからの方が主演の男性の「顔」がいいと思うのはどういうことだろう。 ![]() とても図式的で、さほど心を動かされた映画ではなかった。しかし、この映画が監督イ・チャンドンによって1999年に撮られていたことには、強く引き付けられるものがあった。20年前のイ・チャンドン。彼は何を考えていたのか。 一つは「バーニング」という、イ・チャンドンの近作の、ぼくにとっての分かりにくさを解くカギを見た気がしたことだ。 勝手な言い草かもしれないが、この監督は「韓国」というアクチャルな社会を生きる人間の「実存」、「生のありさま」に興味があるのであって、そこで描かれる「世界」は村上春樹的な「世界」と微妙にズレてしまわざるを得ないということがあるのではないかということだ。 村上の作品の登場人物たちは、高度に資本主義化してきた社会のなかで、個人にとって空洞化してしまった「外部」の真相を、その底に潜ることで見出そうとすることを繰り返している。「納屋を焼く」とか「井戸を掘る」というメタファーは実は「日本」という社会に対してこそ有効なレトリックだったのではないか。 それを韓国で映画にするなら、疲弊した農村の象徴のような廃棄されている「ビニールハウス」を焼くシーンを撮らざるを得なくなるし、登場人物の失踪はアクチャルな殺人事件というサスペンスになってしまう。もう、そこには「春樹の世界」など跡形もないといっていいだろう。 監督イ・チャンドンが「ペパーミント・キャンディー」で描いているのは、人間から根こそぎ人間性を奪うような、社会の暴力的で直接的なありさまであったとぼくは思う。そういう現実が、そこにはあったということだ。 イ・チャンドンは「青春の夢」などという、甘ったるいものは、袋入りのハッカ飴のように軍靴に踏みつぶされてしまう現実の中で、人間はどんなふうに壊されるかを告発している。20年前のことだ。 それがひきつけられた二つ目の理由だ。2019年の今、ぼくが見ている韓国映画は「史実」として「人間を壊す社会」を暴き始めている。彼の映画は、ひょっとするとそれらの映画を作る人々に進むべき道を示しているのではないか、僕はそう思った。 「バーニング」の感想はこちらをクリックしてください。 イ・チャンドン「ペパーミント・キャンディー」 監督 イ・チャンドン Lee Chang-dong 製作 ミョン・ゲナム 上田信 原作 イ・チャンドン 脚本 イ・チャンドン 撮影 キム・ヒョング 美術 パク・イルヒョン 編集 キム・ヒョン 音楽 イ・ジェジン キャスト ソル・ギョング(キム・ヨンホ) ムン・ソリ(スニム) キム・ヨジン(ホンジャ) 原題「Peppermint Candy」 1999年 韓国・日本合作 日本初公開 2000年10月21日 130分 2019・07・05 ボタン押してね! ![]() ![]()
最終更新日
2020.10.13 21:01:36
コメント(0) | コメントを書く
[映画「元町映画館」でお昼寝] カテゴリの最新記事
|