2023/12/22(金)22:00
フレデリック・ワイズマン「大学 At Berkeley」元町映画館
フレデリック・ワイズマン「大学 At Berkeley」元町映画館 関西の、昔でいえば名画座でしょうか、今はどう呼べばいいのかわかりませんが、小さな映画館や、映画資料館がフレデリック・ワイズマンのドキュメンタリーを順番に上映しています。夏前に上映した「ニューヨーク公共図書館」の好評を受けた企画なのかどうか、よくはわかりませんけれど、何十年も映画館を忘れていた徘徊老人には天の恵みのようです。 1967年に撮った「チチカット・フォーリーズ」が上映禁止になるという、聞いただけで、(聞いただけだけど)衝撃のデビューを飾ったフレデリック・ワイズマン監督の、そのデビュー作から、最新作「ニューヨーク公共図書館」まで6本の作品を二週間かけて元町映画館が上映しています。どれも見逃すわけにはいかないと、妙に気合が入っているわけですが、今日は「大学 At Berkeley」、244分の長丁場でした。
カリフォルニア州立大学・バークレー校というふうに覚えていたアメリカきっての名門大学の内側をジョン・デイヴィーのカメラが追います。
経営トップの会議、授業風景、学生のディスカッション。大きくはこの三つが順番に、そして繰り返し映し出される。間に挿入されるのは、学生の日常生活、研究室や校舎の風景、音楽会、フットボールの試合、そして構内の日常風景。芝生で寝転ぶ学生の姿も、驚いたことに校内で訓練する軍人さえ登場する。
とどのつまりには、学生たちによる学費値上げ反対の集会があり、対策会議で「言い訳」から「警察の導入」まで、逐一計画する副学長をはじめとした、大学トップの発言がすべて公に映し出されています。ここまで撮って、公開していいのだろうか!?と徘徊老人はびっくり仰天でした。
映画が始まる前は、下手をすれば、今時、この国でも流行りの、大学による広告フィルムになりかねない内容なのではないかと危惧したのですが、全くの杞憂でした。
英語のできない徘徊老人は、字幕を追うのが忙しいのですが、フィルムに登場する学生、教員、事務職員や掃除や工事をしているオジサン、おばさんたちの「ことば」も「風情」も見逃したくない、聞き逃したくないと、必死です。
次は何が映るのか、きっと、面白いうことを言うに違いないし、なにげないにしても、味のある姿を見せるに違いないというと思って見ていると、期待にたがわぬ展開が、確かに繰り広げられるのでした。
ここには、よくも悪しくも、「アメリカ」がありました。「アメリカ」を頂点とした、世界の知性の鍛え方、教育の現場が映っていました。
ほとんど最後のシーンでジョン・ダンという詩人の性的な隠喩を解説する英文学の教授の授業が映し出されました。100人をこえるであろう、階段教室で聞いている学生たちの出自は、人種も、宗教も、国家や社会も、見るからに多種多様ですが、どの顔も話を聞いている顔でした。そのシーンが、何故だかわからないのですが、心に残りました。 家に帰ってチラシを見ると、その顔たちのシーンが写っていました。その写真を見ながら「アメリカ」の広さと深さを思い浮かべました。ただ、ある一つのシーン、図書館を占拠した抗議行動の学生たちが、景気のいいスローガンを叫んでいて、どうなることかと見守っていると、午後九時になって、館長の勧告に素直に従って雲散霧消してしまったのには、啞然とした記憶が浮かんできましたが、そこにも、「現代」という世界の姿があるのだろうなという、少し寂しい気分が残りました。
それにしても、さすがに4時間は、頭は飽きないのだけれど、お尻は、少々痛かったですね(笑)。
2019・12・05・元町映画館no29
追記2019・12・06
フレデリック・ワイズマンの特集です。「チチカット・フォーリーズ」・「ボクシング・ジム」・「ジャクソン・ハイツへようこそ」・「ニューヨーク公共図書館」の感想はこちらからどうぞ。
「パナマ運河地帯」はこちら。
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