2024/01/01(月)17:20
週刊 読書案内 レイ・ブラッドベリ「華氏451」(ハヤカワ文庫)
《BOOKCOVERCHALLENGE:no1》
レイ・ブラッドベリ「華氏451」(ハヤカワ文庫)
友達から指名されてフェイスブック上で始めた【BookcoverChallenge】をブログに転載します。「新コロちゃん」騒動がきっかけですが、自分のなかに「こんな本」を読んできた「50年」を振り返りたい気持ちがあるように思います。というわけで、さっそく始めます。
【7days7bookcocers no1:7日間ブックカバーチャレンジ(初日)】(2020・05・12)です。 先日の御近所徘徊で神戸の垂水という町の小さな書店で、久しぶりに現金購入した「文庫本」のお話しからです。 レイ・ブラッドベリ「華氏451度」(早川文庫) ちょっと、有名過ぎて照れますが、「本」の紹介なのだから、「本を焼く」お話しから始めると、みんな驚くかなという目論見です。折角、紹介するのに、なぜ焼くの?焼いっちゃたら、あとどうするの?
原作は1953年に書かれていて、多分、ブラッドベリの処女作だと思います。
ぼくは晶文社が1970年代に出していた「文学の贈り物」というシリーズの「タンポポのお酒」を先に読みました。この作品を読んだのはそのあとです。現在ではシリーズもリニューアルされて、装丁も変わっています。写真のブックカバーはぼくは読んだ本ではありません。
SF嫌いのフランソワ・トリュフォーが1960年代に映画化していて、映画を見て読んだ友達が興奮して「読め!読め!」とすすめられて読みました。多分映画も見たはずなのですが、その時はよくできた寓話だと思った記憶だけがあります。
で、何故、今、その本なの?ですが、理由は二つです。
一つは作家の高橋源一郎氏が「支配の構造」(SB新書)という本の中で、この作品について「講義」風に語っています。結構、具体的な描写にやストーリーに触れているのですが、ぼく自身は、すっかり内容を忘れていることに気付いたことです。
もう一つの理由は「流泉書房」という垂水の小さな「独立書店」(ホームページにこう書いてあって、この言い方が気に入っています)の棚で手に取って、カヴァーの上に巻かれている帯、腰巻がいたく気に入ったからです。
裏表紙の写真でわかりますか?5行ほど紹介が書かれていますが、これ、手書きなんです。購入するとそのまま渡されて、「イイのかな?」って思いましたがもらってきました。
「流泉書房」
50年以上たって、まあ、初めて読んでからなら40年ですが、訳が新しいということもあるのでしょうね、とても「寓話」や「予言」などというものではありませんでした。
世界を覆う「反知性主義」の破綻が、「新コロちゃん禍」であらわになっていますが、この十年ほどの世相の中で、「SF小説」だったはずの「華氏451度」は「リアリズム」小説に変貌していました。
たとえば、ファイアー・マン=焚書士であるの主人公モンターグの上役、署長のビーティが、モンターグに対して小説世界の「社会」を分析して聞かせるシーンがあるのですが、その分析はピッタリ現代社会に当てはまるといってもいいすぎではないと思いました。
「華氏451度」の世界はすでに現実化していて、「新コロちゃん」騒ぎに乗じて、たとえば教育界に強制導入されつつある「IT化」は、今や、ポスト「華氏451度」の社会を「素晴らしき新世界」であるかのように招いているように見える作品なのです。
ブラッドベリは「テレビジョン」の登場にインスピレーションを得て、この作品を書いたらしいのですが、作品の中には部屋全体の壁がすべてテレビジョンという設定が出てきます。
1970年の読者であったぼくは、そのイメージが荒唐無稽に見えたのです。しかし、テレビの進化型である電子メディアが身体をはじめ生活世界を覆いつくしているといってもいい状態です。メディアの外がイメージできなくらい「リアル」ですよね。
社会全体の漸進的な変化には気づきにくいのですが、50年視点を戻してみれば、現実は驚異的です。
「メディア」が主観を支配している社会が、明らかに始まっているというということに気付いてもらえるでしょうか。
そして、「そこから」が本当の悪夢だとブラッドベリは65年前に描いていたのです。ホント、久しぶりにドキドキしましたよ。
とまあ、長々と書いてしまいましたが。とりあえず、初日のバトンはパスということで。
1950年代のイギリスの田舎町の本屋さんを描いた「マイ・ブックショップ」という映画の中で、何とブラッドベリの「華氏451度」と「タンポポのお酒」がかなり大切な小道具として登場します。同時代の、とても有名な作品としてナボコフの「ロリータ」もでてくるのですが、本好きには必見の映画ですね。映画の感想は「マイブックショップ」をクリックしてください。
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