2020/12/18(金)00:02
週刊 マンガ便 奥浩哉「いぬやしき(1巻~10巻)」(講談社)
奥浩哉「いぬやしき(1巻~10巻)」(講談社)
「さよならタマちゃん」や「ペリリュー」のマンガ家武田一義さんがアシスタントとして働いていたマンガ家ということで興味を持ちました。「タマちゃん」に本人も登場します。
10巻セット1000円という価格で購入しましたが、納得のいくおもしろさでした。「納得」といっても、一冊100円程度の、ということではありません。2014年に始まって、2017年に全10巻で完結したようです。
絵柄が独特だと思います。ぼくは老人の主人公犬屋敷壱郎さんの見分けはつきましたが、獅子神晧君とそのお友達の安堂直行君の見分けが、途中からつかなくなりました。まあ、彼らの同級生の可愛らしい女子高生と犬屋敷真理ちゃんの見分けもイマイチついたとは言えません。これが、最近のマンガの「感じ」なのでしょうか。
話しの筋書きは、地球にやって来た宇宙人によって、偶然、殺された犬屋敷さんと獅子神君が「スーパー・ロボット」化されて修復され、その「スーパー」な能力を老人は「善」の方向へ、若者は「悪」の方向へ発揮するというわけで、荒唐無稽といっていいものですが、この種の荒唐無稽は映画でだって繰り返し見てきたわけですから、何の問題もありません。
先ほど「善悪」といういい方をしましたが、むしろ「自己満足」、何が「空虚な存在」であるそれぞれの「自分」や、その「こころ」を満たすのかというモチベーションが老人と高校生の二人に共通しています。
それが、この荒唐無稽な設定を支えている一つ目のポイントだと思いました。
もう一つは、ロボットの、いや宇宙人のというべきでしょうか、攻撃方法の新しさです。
現代社会の、不思議というか、理解しがたい潮流にネット社会に住み着いている「無名の悪意」のようなものがあると思いますが、それに対して一対一で報復可能なハイテクが導入されているところでした。もちろん夢の機械ではあるのですが、ぼくはこの方法が露わにしている、現代社会の特徴に対する奥浩哉というマンガのセンスはとてもすぐれていると思いました。それは、警察権力に対する戦い方にも表れていますが、スマホから直接狙撃するという発想は初めてではないでしょうか。
最終的には「家族」による「家族」、「父」や「夫」に対する「愛」の再発見、犬屋敷さんの愛犬「はな子」が最初から持っていた「愛」を、家族が共有するという結末なところが、まあ、「そうなればいいよね犬屋敷壱郎さん!」と最初からの仕込みのようなものであって、案外シンプルなところも悪くないのだろうなと感じました。
一寸穿った言い方をすれば、現代の「アトム譚」、「鉄腕アトム」の末裔の物語ともいえるわけで、このマンガのラストシーンを読みながら、太陽に向かって飛んだアトムの最後を彷彿とするのは僕だけでしょうか。
奥浩哉というマンガ家もまた。手塚治虫の末裔なのではないでしょうか、なんてことも考えさせられました。
結構な、SF活劇なのですが、案外ホームドラマなところに笑ってしまいました。ちょっと、ハリウッド映画っぽいですよね
この第10巻の表紙の方は、犬屋敷さんのお嬢さんだと思うのですが、他の男の子の登場人物と、ぼくには見分けがつかないのですよね。あっちゃー!