ゴジラ老人シマクマ君の日々

2024/03/27(水)23:29

ヤン・コマサ「聖なる犯罪者」シネリーブル神戸no81

映画 ドイツ・ポーランド他の監督(13)

​​ヤン・コマサ「聖なる犯罪者」シネリーブル神戸​  少年院でしょうか、刑務所でしょうか。木工の作業している現場で、監督している看守が席を外したすきに、一人の少年がリンチにあっています。外をうかがう見張りの少年の顔がクローズアップされ、その少年が仲間に合図し、看守が戻ってくると何事もなかったかのように作業が継続されます。 ​​​ この見張りの少年が、映画​「聖なる犯罪者」​の主人公、バルトシュ・ビィエレニアという若い俳優が演じるダニエルでした。​​​ ​​ 囚人である「少年」たちの「真の姿」である暴力を、監督者の目から隠す「見張り」とは何でしょう。映画は、この見張りの少年が偶然の成り行きで「聖職者=神父」に成りすまし、やがてウソがばれて刑務所に逆戻りするという、「少年」の失敗の物語としては、「ありきたり」といっていい筋運びで展開します。​​「いつ、この子のウソがばれるのか」​ ​というサスペンスが物語を引っ張るわけです。​​  結果的に、少年の神父としての行為が、すべて「偽り」であったことが暴露されたところで、「建前の罠」に落ちた「少年」のあさはかな「失敗」の物語という印象を刻み付けられながら、映画はラスト・シーンに向かいます。 ​ しかし、なりすましの「ウソ」を暴露されたダニエルが入れ墨だらけの裸体を晒して教会を出てゆき、再び収監された刑務所で血まみれの暴力シーンを繰り広げるラスト・シーンを見ながら、気持ちが立ち止まりました。​ 「このラストはどう理解すればいいのだろう。」​ 映画の帰り道に考えていたことはただそれだけでした。たどり着いた結論は、この映画は「少年」の「失敗」の物語なんかではないのではないかということでした。 ​ 看守に見張られている「刑務所」の囚人であれ、神にすべてを見られている「世俗の生活」の人々であれ、「内的な真実」を「偽りの装い」で覆っていることに違いはありません。真実を隠すための「見張り」であり、人々の隠された真実を告解として聞く「神父」を演じたダニエルが知ったのはそのことではないでしょうか。​ ​ で、ダニエルはどうしたか。その、偽りの「人間社会」の外に出たといえばいいのでしょうか。ウソ偽りのない場所に出たのです。  それは死に物狂いで、表も裏もない「自己」を生きることであり、例えば、神というような超越的な「庇護者」を棄てて生きる場所に出ることだったに違いないというのがぼくの感じたことでした。  勝てるはずのない「暴力」に「暴力」で挑みかかり、むごたらしいまでの冷酷な「暴力」の体現者へと変貌してゆくラスト・シーンは「神」への挑戦のシーンでもあったのではないでしょうか。​ ​​ そこは、「野生」と呼ぶほかない「暴力」を生きる場所だというのが、ヤン・コマサという監督の主張だと、かなりうちのめされながら感じたのですが、映画は「個」としての人間存在の「真相」に迫ろうとする、傑作は言い過ぎかもしれませんが、かなり優れた作品であることは間違いないと思いました。​​ ​​ それにしても、あまり好きな顔ではないのですが、ダニエルを演じたバルトシュ・ビィエレニアという俳優の今後には、興味惹かれました。この作品では、印象的な表情が随所に現れたのですが、どうも、名前もそうですが、覚えにくそうな顔なのですよね。  映画の舞台である、多分、ポーランドとかの宗教観というのが、かなり重要な要素になっている映画なのだと思いますが、そのあたりは、どうしても形式的な見方をしているのかもしれません。ただ、この映画では「宗教」は舞台装置であって、テーマは、どうも、別のところにある作品だと思いました。  それにしても、よくタバコを吸う映画でしたが、なんか意味があるのでしょうか。 ​​監督 ヤン・コマサ 製作 レシェク・ボヅァク  アネタ・ヒッキンボータム 脚本 マテウシュ・パツェビチュ 撮影 ピョートル・ソボチンスキ・Jr. 美術 マレク・サビエルハ 衣装 ドロタ・ロクエプロ 編集 プシェミスワフ・フルシチェレフスキ 音楽 エフゲニー・ガルペリン サーシャ・ガルペリン キャスト バルトシュ・ビィエレニア(ダニエル) アレクサンドラ・コニェチュナ(リディア) エリーザ・リチェムブル(マルタ) トマシュ・ジェンテク(ピンチェル) レシュク・リホタ(バルケビッチ) ルカース・シムラット(トマシュ) 2019年・115分・R18+・ポーランド・フランス合作 原題「Boze Cialo」 2021・02・15・シネリーブル神戸no81 追記​  ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)​​ ​ ​​ ​​​​​​​​​​​​​​​​​​​​ ​ ​​​​​​ ​​​​​

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