メリーナ・レオン「名もなき歌」元町映画館
ペルーの映画でした。メリーナ・レオンという女性監督の作品だそうです。ペルーと言われても、インカ帝国とマチュピチュくらいしか思い浮かばないのですが、映画は現代のペルーを舞台にしたサスペンス仕立てでした。
1988年のペルーであった実話を描いた作品だそうです。
何も知らず産院で出産した新生児を、そのまま奪われてしまうという、今の「日本」社会でのほほんと生きている目から見れば、「なんのことかわからない出来事」が映画の発端でした。
被害者が、いわゆる「ネイティブ」、「先住民」で、貧しく、若い女性であり、犯罪者は時の権力の向こう側に身を隠しているという構造を暴く作品でした。
1980年代というのは高度経済成長に浮かれる「日本人」が、それはぼく自身のことでもありますが、流行りの「文化人類学」や「社会学」の報告として、旧世界の、社会のありさまにたいして、エキゾチックな関心を抱いた時代でしたが、そこに描かれているアジアやアフリカの「発展途上国」の政治的・経済的な実情については「闇」として、あくまでも「他人事」ととして驚いたり同情したりしていたにすぎなかった「ほんとうの事」が告発されていました。
子供を奪われたへオルヒナ・コンドリ(パメラ・メンドーサ・アルピ)が暮らす、ペルーという国の旧社会、先住民の貧困の描写が印象的ですが、中でも、彼女が奪われた赤ん坊を抱きしめる想像の中で歌う「名もなき」子守歌のシーン、犯罪者が隠れるドアの向こうの闇に向かって「子供を返せ!」と叫びながら叩くシーンは圧巻でした。
モノクロでスタンダードの画面で映し出される「古典」を思わせる映像がメリーナ・レオンという監督の映画的な趣味の良さというか、教養の正統性を感じさせる作品でした。
ネット上の写真とインタビューを見ただけの憶測ですが、おそらく「先住民」の一人であり、女性である監督が「先住民に対する抑圧や差別」のみならず、「女性蔑視」や「経済格差」、「貧困」に対する静かな「告発」の武器として映画を撮り始めた記念碑的な作品になると思いました。
「名もなき子守歌」を歌いながら、奪われた赤ん坊を思う若い母親を素朴に演じたパメラ・メンドーサ・アルピという女優さんに拍手!でした。
監督 メリーナ・レオン
脚本 メリーナ・レオン マイケル・J・ホワイト
撮影 インティ・ブリオネス
美術 ジゼラ・ラミレス
音楽 パウチ・ササキ
キャスト
パメラ・メンドーサ・アルピ(へオルヒナ・コンドリ:子供盗まれた女性)
トミー・パラッガ(ペドロ・カンポス:新聞記者)
ルシオ・ロハス(レオ・キスぺ)
マイコル・エルナンデス(イサ)
2019年・97分・ペルー・フランス・アメリカ合作
原題「Cancion sin nombre」
2021・10・11‐no91元町映画館no88