2023/07/11(火)22:38
ヨアン・マンカ「母へ捧げる僕たちのアリア」パルシネマno52
ヨアン・マンカ「母へ捧げる僕たちのアリア」パルシネマ パルシネマで「ショーシャンクの空に」との2本立てで、ヨアン・マンカという監督の現代フランス映画「母へ捧げる僕たちのアリア」を見ました。
なんだか、すごい題名だなと思って原題を見ると「Mes freres et moi」、英語での題は「My Brothers and I」で、まあ、ボクでも訳せますが、訳せば「僕の兄弟と僕」でしょうか。 実にまっとうな「家族」と「少年の旅立ち」の物語でした。中学生の「僕」ヌール(マエル・ルーアン=ベランドゥ)と三人の兄が、おそらく脳死状態のなのでしょうね、意識も、聴覚とか視覚とかいう身体能力も失っている母を、親戚の反対を押し切って在宅で看護しているという家族の姿が描かれていました。
舞台になっているのはフランスの南部のリゾート地帯ですが、彼らが住んでいるのは、明らかに貧しい人の暮らす公営の集合住宅でした。
見終えて、一番印象に残ったのは、フランス社会の「貧困」の実態です。以前見た「レ・ミゼラブル」では、確か、パリの巨大な集合住宅が舞台でしたが、共通しているのは、そこで暮らす人の多くが、どこかよその国からやって来た人たちだということです。で、その場所を覆っているのが貧困です。
この映画では、寝たきりの母の介護の家計費を兄弟の収入で支え合っていますが、兄弟に定職があるわけではありません。主人公ヌールは14歳の中学生ですが、アルバイトが見つかれば学校はやめるつもりのようです。兄3人は10代の後半から20代の後半のようですが、やはり、定職はありません。インチキなサッカー・ユニホームの売買、男女をとわない、観光客相手の売春、薬物の不法売買です。出口なしですね。やがて行き詰るのではなく、すでにどん詰まりで暮らしているのです。
で、希望はあるのか?「レ・ミゼラブル」では、どん詰まりの爆発が描かれていましたが、ここでは希望としての音楽が描かれています。ベルディやプッチーニといったイタリア・オペラの名曲が劇中で繰り返し聞こえてくるのが、この作品の救いです。
東洋の島国の文化感覚では、カンツォーネっていうのでしょうか、プッチーニの歌曲と14歳の少年がなかなかつながらないのですが、案外、そこのところは自然なのかもしれませんね。
少年を歌と出会わせる役を演じていたサラ先生(ジュディット・シュムラ)が、映画の終盤、舞台での独唱を披露しますが、ちょっと聞きほれましたよ。 まじめで、ナイーブな佳作だと思いました。ヌールとサラに拍手!でしたね。
監督 ヨアン・マンカ
製作 ジュリアン・マドン
脚本 ヨアン・マンカ
撮影 マルコ・グラツィアプレーナ
キャスト
マエル・ルーアン=ベランドゥ(ヌール)
ジュディット・シュムラ(サラ)
ダリ・ベンサーラ(アベル)
ソフィアン・カーメ(ムー)
モンセフ・ファルファー(エディ)
2021年・108分・PG12・フランス
原題「Mes freres et moi」英題「My Brothers and I」
2022・12・27-no144・パルシネマno52