2023/12/17(日)00:43
週刊 読書案内 ロバート・ウェストール「水深五尋」(金原瑞人・野沢佳織 訳 宮崎駿 絵・岩波書店)
ロバート・ウェストール「水深五尋」(金原瑞人・野沢佳織訳 宮崎駿絵・岩波書店) 池澤夏樹の「いつだって読むのは目の前の一冊なのだ」(作品社)という、週刊文春に連載していた「私の読書日記」を2003年から2019年までの16年間分集めた書評・ブックレビュー集があります。700ページほどの分厚さで、誰がこんな本を読むのか!? と訝しく思われるような見かけの本ですが、まあ、物好きなゴジラ老人は、最初、図書館で借りていたのですが、結局、買い込んでパラパラやっています。ハイ、ヒマなんですね(笑)。
で、その中で見つけたのが、岩波書店の児童書、まあ、児童書といっても、主人公たちも16歳だし、所謂、ヤング・アダルト、高校生くらい向けかなというのが読み終えた印象ですが、ロバート・ウェストールという、イギリスの作家の「水深五尋」でした。
第二次大戦末期のイギリスの北部の港町を舞台にしたお話です。ナチスのUボートに襲われる貨物船とか、主人公たちが住んでいる港町にもぐりこんだスパイをめぐって、男女、それぞれ二人づつの4人の中学生、16歳が活躍する戦争ものの冒険小説です。で、題名がちょっと意味わかんないという感じなのですが、実は、本文ではお話の終わりころになって出てきて、こんな訳になっている「詩」の一節です。
水深五尋の海底にそなたの父は横たわる
白い骨は珊瑚になった
ふたつの目は真珠になった
体はすべてそのままで、
海に姿を変えられて、
美しく珍しいものになる ゴジラ老人には、読んでいて、この詩が出てきても、やっぱり、なんだこれは? だったのですが、シェイクスピアのテンペストという戯曲にあるらしい詩の一節だということが、主人公によって語られます。で、イギリスの中学生は、これを、学校で暗唱させられるらしいのですね。だから、誰でも、みんな知っているらしいのです。だから、イギリスでこの作品を手に取るであろう中学生たちには、なんだこれは?じゃないのですね(笑)。
悔しいので、ちょっと調べました。で、松岡和子の翻訳のシェイクスピア「テンペスト」(ちくま文庫)ではエリアルという妖精が歌う歌、その詩句で、こんな訳です。
水底深く父は眠る。
その骨は今は珊瑚
両の目は今は真珠
その身はどこも消え果てず
海の力に変えられて
今は貴い宝物。(「テンペスト」ちくま文庫P43~P44) まあ、くらべてみて、何かがわかるという知恵もないのですが、向こうの児童文学というのは、題のつけ方からしてシャレてますね(笑)
で、上記の書評ですが、池澤夏樹は、小説のあらすじをあらかた語った上(笑)で、最後にこうまとめています。
これはイギリス式の小説の書きかたのとてもよくできた例である。まず読者の共感を誘う主人公がいて、軸となるストーリーがあり、謎につぐ謎があり、ち密で具体的な生き生きとした細部があり、作者の倫理観・人間観という大きな枠がある。(P251) 絶賛ですね(笑)。で、トドメがこうです。
訳はいいし、宮崎駿の絵もいい。それ以上に、一見とっつきにくいタイトルを直訳した訳者たちの判断を高く買いたい。本屋の店頭ではそそらないかもしれないが、読み終わったら絶対に忘れない。出展がシェイクスピアだけに、短くて印象的。 ね、読まないわけにいかないでしょう(笑)。ボクは宮崎駿が、この作品にほれ込んだという話を、どこか別のところで聴いたことがあるような気がしましたが、上の表紙で分からるように、装丁も彼の絵なのですよ。
まあ、池澤の絶賛ほどの読み応えかどうかは、人によるでしょうが、子供向けだとなめてかかると、少々手間取るかもしれませんね。もちろん、読後感は悪くないですよ(笑)。