マロリー・オメーラ「女たちがつくってきたお酒の歴史」(椰野みさと訳・草思社) 市民図書館の新刊の棚で見つけて「女がお酒をつくる?」
と手に取ると、いきなり「ガーリィードリンクって何」ってなに?
で、ジーっと見ているとGirly Drinksという英語の表記が目に入って、「ふーん、そういうことか」
で読み始めて、面白いのなんのって状態に入りましたが、分厚いんですね。450ページですから。マロリー・オメーラ「女たちがつくってきたお酒の歴史」(椰野みさと訳・草思社)です。
ようするに「お酒」をネタにした「全世界史」です。
前半は酒造と飲酒の人類史、なにせ第1章はメソポタミアの酒造の歴史、有史以前ですね。第2章がクレオパトラのエジプト対カエサルのローマ、古代の地中海世界をアルコール飲料を通してみるというわけですが、こんな始まりです。
酒好きだったクレオパトラ
クレオパトラは古代世界でもっとも名の知れた女性であっただけでなく、もっとも悪評高かった女性でもあり、それは今日なお変わらない。彼女のことを強力な統治者、フェミニストの象徴、あるいは政治手腕の持ち主だと考える人もいる。多くの人はそれよりも身勝手で浮気性の女性か、あるいは罪深い誘惑者だったと考えている。しかし誰にどう思われていようが、死後2000年も経ってなお、クレオパトラが何者かを知らない人はいない。(P35)
で、お酒とどう関係するの?
古代社会においてクレオパトラは、現代社会でも危険な存在、つまり「力を振るう女」という位置づけだった。ローマの指導者たちは彼女に対する中傷キャンペーンを展開し、その印象操作が永続的な成功を収めたことで、世界が抱くクレオパトラのイメージは貶められた。聡明で行動力のある女性ではなく、悪質で好色で野性的な人物として印象づけられた。このような悪評がつくり上げられた理由のひとつには、クレオパトラがお酒好きの女だったことがある。(P36)
ここから、あの時代のお酒論議が始まります。というわけで、
女性の視点、ジェンダー・フリーの眼から「お酒」を通して世界を見なおす!
というわけで、
目から鱗!
です(笑)。
数十年前の高校世界史の世界認識が
「へー、そうだったのか?!」
と揺さぶられますね。
たとえば、第3章ではビールを作って飲む中世の修道女の話題です、修道女!ですよ、修道女!(笑)。
読み切るには、チョット、辛抱がいりますが、ボクにとっては、ここの所面白がっている女性の研究者による力作、「絵」から、こんどは「酒」でしたから、フフフでした。
目次貼っておきますね。目次だけでも面白いかもですね(笑)。
目次
はじめに
ガーリードリンクって何?
錬金術のようなアルコールの世界
女と酒の新たな発見の旅
第1章 酔った猿とアルコールの発見――有史以前
高カロリーのアルコールが進化をもたらす
古代メソポタミアで女性が仕切っていた醸造業
ビールをつかさどる女神ニンカシ
古代エジプトではビールは労働者階級、ワインは上流階級
ハンムラビ法典によって自由が失われていく女性たち
第2章 クレオパトラの飲酒クラブ――古代世界
酒好きだったクレオパトラ
古代ギリシャでは女性の飲酒は言語道断
エトルリアの女性は酒好きで驚くほど美しい
並外れた知識と能力を身につけたクレオパトラ
ローマ帝国で世界初のガーリードリンク
ローマにとって危険なカエサルの恋人
クレオパトラとアントニウスの「真似できない生き方の人々」
ローマが恐れた官能的な快楽と反道徳性の象徴
第3章 聖ヒルデガルトと修道女たちの愉しみ――中世前期
ビールの歴史を変えた修道女
貧しい女性の生きる術だったエールワイフ
ホップの効用を世界に広めたヒルデガルト
唐の時代の女性は大いにお酒を楽しんだ
日本の酒造りは少女たちの「口嚙み」
インドの女性たちはお酒で魅力を増す
中世ヨーロッパの女性たちにはアルコールは罪ではなく生存の手段
第4章 李清照と悪魔の日曜学校――中世中期
詩人李清照の酒と文学の世界
お酒の販売でのさまざまな困難
アメリカ先住民はサボテンからワインをつくっていた
モンゴルの遊牧民は男と女が競い合って酒を飲む
自分の声を見つけていた李清照
女の追い出しと日本酒造り
酒に酔った感情を表現した先駆者
第5章 規範を笑い飛ばすメアリー・フリス――ルネサンス期
ブームを巻き起こした男装のメアリー・フリス
独身女性は醸造業から締め出された
アフリカでも女性主導の酒造り
蒸留酒の発見―錬金術師マリア
蒸留業が女性を魔女に仕立てる
メアリー・フリスの偽装結婚
第6章 女帝エカテリーナのウォッカ帝国――18世紀
ロシアの王位に惹かれたエカテリーナの結婚
家事をしながら酒造りをするベトナムの女性たち
初期のアメリカで大規模な施設での醸造を支えた奴隷労働
クーデターの報償はウォッカ
イングランドの「狂気のジン時代」
スコットランドの人気酒ウイスキー
スペイン人による植民地化に反抗した南米先住民の女性たち
フランスの女性がワインを飲む新しい酒場「ギャンゲット」
エカテリーナ大帝がもたらしたビールの大革新
第7章 未亡人クリコと女性たちを虜にした味――19世紀
スパークリングワインの立役者、バルブ=ニコル・クリコ
未亡人となり自由を得たバルブ=ニコル
マクシ族の女性がつくるキャッサバのビール
カクテルのレシピ本
アメリカ西部開拓時代の酒好きの女性たち
19世紀パリのカフェにはレズビアンの女性客が集まった
国際的な人気を得たヴーヴ・クリコのシャンパン
女性がつくっていたアイリッシュウイスキーとスコッチウイスキー
アメリカンウイスキーを密造する武装した女性たち
ウォッカを密造する農村女性たち
シャンパン造りに革命を起こしたヴーヴ・クリコ
日本最大の酒蔵を築き上げた未亡人、辰馬きよ
アルコールの世界における女性たちの影響力
第8章 エイダ・コールマンと「アメリカン・バー」――20世紀
カクテル界の新しい女王エイダ・コールマン
ビール売りで自立する先住民の女性たち
二十世紀初頭のメキシコでも飲酒とプルケの醸造・販売が規制
アメリカの禁酒運動と女性参政権運動
エイダ・コールマンの「ハンキーパンキー」
パリジェンヌを魅了した「緑の妖精」アブサン
アメリカン・バーのもうひとりの女性バーテンダー
第9章 密輸酒の女王ガートルード・リスゴー――1920年代
禁酒法の成立と白人女性の参政権
社会規範を無視するアメリカ女性「フラッパー」の登場
禁酒法のおかげでカクテルパーティーが発展
「密売の女王」ガートルード・〝クレオ〟・リスゴー
日本の「モガ」の出現と、新しいソビエト体制下の女性たち
カナダの禁酒法
莫大な財産を築きメディアの寵児となったクレオ
違法酒場で活躍する女性たち
禁酒法の顔、メイベル・ウィルブラント
禁酒法撤廃を勝ち取った女性たち
第10章 テキーラとズボンとルーチャ・レジェスの栄光――1930~40年代
メキシコの女性たちの葛藤を体現した歌手、ルーチャ・レジェス
韓国でもキムチや酒造りは女性の仕事
武器を持って立ち上がった南アフリカの女性たち
日本の農村には女性限定の酒盛りもあった
ルーチャ・レジェスはテキーラを飲んで女性の真実の姿を表現した
女性のアルコール依存症に対する偏見と闘ったマーティ・マン
「ガーリードリンク」を好まない女性たち
バーカウンターから締め出される女性たち
持ち帰りやすい缶ビールの出現
ルーチャ・レジェスの傷つけられた女性像
第11章 サニー・サンドと「ビーチコマー」――1950年代
ティキ文化発祥のティキ・バー
女性は家庭での良きホステス
イギリスとオーストラリアで女性向けのお酒が発売
人目を引く真っ赤な封蠟
禁酒法廃止後も規制の厳しい地域
ハリウッドの女性セレブたちが愛したビーチコマー
南アフリカ先住民の女性たちの大規模な抗議活動
LGBTQのコミュニティを求めて
ティキはアメリカ史上もっとも長い飲酒文化のトレンドとなった
第12章 レディースナイトはベッシー・ウィリアムソンとともに――1960~70年代
スコッチのファーストレディ、ベッシー・ウィリアムソン
バーに入る権利を獲得した女性たち
女性客を目当てにバーにやってくる男性たち
ストーンウォール暴動の口火を切ったマーシャ・P・ジョンソン
世界でもっとも成功したウイスキー
ワイン業界への女性の進出
テレビでワインを飲む女性
「バーボンの不良女子」
ラクシ造りのために立ち上がったネパールの女性たち
自家醸造が合法となった南アフリカ
ストレートのスコッチはガーリードリンク
第13章 ジョイ・スペンスのアニバーサリーブレンド――1980~90年代
世界初の女性マスターブレンダー、ジョイ・スペンス
妊婦の飲酒は是か非か
男の子みたいに好き放題に騒ぐ女の子
「飲み物から目を離すな!」
二〇〇種以上の香味を嗅ぎ分ける
ウイスキー業界でも女性マスターブレンダーが相次ぐ
ビール業界初の女性ブリューマスターの誕生
アルコポップの流行と衰退
カクテルとスピリッツの世界でもっとも影響力のある女性
第14章 ジュリー・ライナーは午後三時過ぎのバーテンダー――2000年代
人気を集めたジュリー・ライナーのクラフトカクテル
生活の一部として酒を飲む女性たち
ニューヨークのカクテルシーンを変えた「フラットアイアン・ラウンジ」
女性杜氏、町田恵美
ジュリー・ライナーの闘い
第15章 アピウェ・カサニ・マウェラの新風――2010年代
マスター・ブリューワーの資格を取得した最初のアフリカ系黒人
ダイエットを組み合わせたカクテル「スキニーガール」
「ワインママ」への賞賛と非難
黒人女性が過半数を占める酒造会社
ビール造りに情熱を注ぐ修道女
アルコール産業の女性たちが組織化し活動を始めた
女性愛飲家たちの組織
醸造の世界に戻る女性たちの闘い
エピローグ
女性と飲酒の歴史はどこに向かうのか
女性達はこの先もお酒を造り飲み続けるだろう




追記
ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑)