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カテゴリ:読書案内「現代の作家」
中村文則「列」(講談社)
![]() 「あらゆるところに、ただ列が打ふれているだけだ。なにかの競争や比較から離れれば、今度はゆとりや心の平安の、競争が始まることになる。私達はそうやって、たがいを常に苦しめ続ける。」新刊本の腰巻にあるこの一節は、「灰色の鳥」と小題がついて、 その列は長くいつまでも動かなかった。先が見えず、最後尾も見えなかった。何かに対して律儀さでも見せるように、奇妙なほど真っ直ぐだった。(P3) で始まる第一部の、「列」で起こるあれこれを、50ページほど読み続けて、出会う文章です。 比喩なんですね。第二部は、第一部と、どうも同じ語り手が、 「草間さん…凄いです。」石井が興奮していう。というふうに第一部の語り手が草間という、うだつの上がらないサル学の研究者であり、その研究現場でのエピソードが語られ始めます。 こちらは比喩ではありません。ニホン猿の研究者の実生活をえがいていますが、残念ながら、ネタにされている話が古くて、立花隆あたりが、1980年代くらいに紹介した研究内容の 「サル学に関しては、素人的なドラマ化なんじゃないか?」と疑ってしまう程度の薄さで、読んでいるボクの中では最高傑作の水準がどんどん下がっていきます。 その列は長く、いつまでも動かなかった。 先が見えず、最後尾も見えなかった。何かに対し律儀さでも見せるように、奇妙なほど真っ直ぐだった。近くの地面には、「楽しくあれ」と書かれている。 これが、150ページ読んできた、オシマイの一節です。 なんなんですかねえ??? 読み終えた老人の頭には、現代人は、なのか、人間は、なのかはともかく、「列」を生きていると主張したい作家の、自己陶酔だけが響いてくるんですね。土の中でもがいている少年を描いたときには、かなり期待していたのですが、20年経ってみると、誰もが逃れられない列に並んでいるということなのですね。 「勝手に並んでろ!」 というか、まあ、何とも言いようのないアホらしさに、ふと気づくと、午前4時を過ぎていました。 第一部のまま、今、登場人物たちが並んでいる「列」の不条理を延々と描き続けていたら、ひょっとしたら、作家が最後に付け加えた「楽しくあれ」は輝いていたかもしれませんね。 この作品に「最高傑作」という腰巻をつけた編集者も編集者ですが、それを拒否しなかった作家も作家ですね。真面目な顔でインチキをまき散らすかの世相を撃ちたいのが、作品の基本モチーフかなと期待して、夜を徹したのですが空振りでした。もう寝ます(笑)。 追記 ところで、このブログをご覧いただいた皆様で楽天IDをお持ちの方は、まあ、なくても大丈夫かもですが、ページの一番下の、多分、楽天のイイネボタンを押してみてくださいね。ポイントがたまるんだそうです(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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