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谷川俊太郎「新版 散文」(晶文社)
![]() 「あら、この本ならあるわよ。」 というわけで、巻末に新しく所収された永井玲衣という、若い女性の哲学者の「解説 ためらう詩人」から読み始めました。「鳥羽」という詩の冒頭の引用からのエッセイでした。 何ひとつ書く事はない とまあ、こういう書き出しで、「そうか、六十歳か、」とちょっと詠嘆して、「概念ねえ」と、ちょっとためいきをつきましたが、結論はこうでした。 「散文」で、何とか言葉をこちらにたぐりよせている谷川さんは、概念ではなく、現実の世界を生きている生身の人間の谷川さんだ。とまどい、矛盾、ためらい、罪深さ、ためらい、恥、居心地の悪さ、それらをごまかさないで、そのまま書いている。「本当の事」を書こうとしている。それはとてつもなく、すごいことだ。谷川さんのもとにぴょんぴょんと駆け寄ってくる言葉たちも魅力的だが、谷川さんがいろんな場所をめぐりながら、汗を流して何とか手を伸ばしてかき集めて言葉たちも、なんだかうれしそうにしている。 まあ、ボクらの世代にとって、目の前にあった「詩」や「散文」こそが谷川俊太郎であって、あくまでも 「個人的な体験!」だったわけですから、「概念」という言葉にはたじろぎました。若い人たちが、初めて谷川俊太郎のことばと出会うことがあるのであれば、「幸福」とかいう概念でまとめないで、「みみをすます」ことから始めてくれたらいいなと思いました。 ああ、それからこちらが旧版の「散文」(晶文社・1972年版)の写真です。 ![]() 鳥羽1
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