吉田浩太「スノードロップ」元町映画館
スノードロップというのはエデンを追われたイヴが地上で初めて迎えた冬の日、野原の草花が無くなった一面の雪原に嘆いていた所に現れた天使が、イヴを慰めるために降っていた雪をこの花に変えたという花の名前です。和名は待雪草。こんな花ですね。
題名を見て、なんとなくそういうことを思い出して見ました。吉田浩太という監督の「スノードロップ」です。 主人公の女性、葉波直子を演じていた西原亜希さんの表情に唸りました。
映画は現代社会の実相とでもいう、貧困、老い、痴呆、家族離散、セイフティー・ネットの実態を一人の孤独な女性を描くことで突き詰めていくことを狙っている作品だと思いましたが、筋を追うことに真面目過ぎて、手際のいい作品とはいえない印象でした。 「みじめだったんです。」
しかし、主人公の女性が、泣いたり笑ったり一切することなく、このひとことを口にしたときにギョッとしました。演じている西原亜希さんが、初めから終わりまで、この言葉を発する女性を演じきっていらっしゃった!
その演技には心うたれました。 映画で、この言葉を聞くのはケース・ワーカーの宗村という女性ですが、彼女が仕事上で出会った一人の人間の「ことば」を、真摯に受け止めようとする人物として描かれていたことには好感を持ちました
が、果たして、このことばを、本当に「聴く」ことはできたのだろうか?
という疑問は、見ているボク自身にも突き刺さる問いでした。
私たちは出来事の原因や経緯を知ることで、わかった気になったり、安易な同情を寄せたりしますが、果たして、本当のところ、何がわかっているのでしょうね。 「むかふ」の「む」は身であり、「かふ」は交わふであると解していいなら、考えるとは物に対する知的な働きではなく、物と親身に交わる事だ。物を外から知るのではなく、物を身に感じて生きる、そういう経験をいう。(「考えるという事」)
小林秀雄の有名な言葉ですが、改めて、映画を「見る」という事についての覚悟のようなものについて考えさせられた作品でした。拍手!監督・脚本 吉田浩太
撮影 関口洋平
主題歌 浜田真理子
キャスト
西原亜希(葉波直子)
イトウハルヒ(宗村幸恵)
小野塚老(葉波栄治)
みやなおこ(葉波キヨ)
芦原健介(吉岡)
丸山奈緒(内藤加也子)
橋野純平(原)
芹澤興人(森田)
野沢はな
2024年・98分・G・日本 シャイカー
2025・11・0・no161・元町映画館no324