ケン・ローチ「石炭の値打ち」元町映画館
イギリスの監督ケン・ローチの1977年の作品、「石炭の値打ち」、第1部「炭鉱の人々」(77分)と第2部「現実との直面」(91分)を元町映画館が同時に上映すると知って初日に駆け付けました。 1936年生まれのケン・ローチは現在89歳ですが、その彼が1977年、BBCでのテレビ放映用に作ったドラマが、この「The Price of Coal」、和訳すれば「石炭の値打ち」だそうです。1本でも多く彼の作品を見たいと思っているのですが、唸りました。
「涙を要求しない!」
全ては、その一言に尽きます。ここの所、映画を見るという経験の中で、笑いにしろ、怒りにしろ、驚きにしろ、見ていて自然に沸きあがってくる感情の動きに翻弄されながら、まあ、年齢のせいもあると思いますが、一番、記憶に刻み付けられるのは、結局、「涙」であるというのが、パターンになっているのですが、すぐれた作品は安易に涙を要求しないことを、改めて実感しました。「泣いてないで映画を見ろ!」
先日見たエドワード・ヤンの作品もそうでしたが、この作品も、1部、2部を通じて、登場する人物たちについて、しっかり目を瞠って、見つめ続けることを要求するシーンが、最後の最後まで続きます。
現実には伏線回収とか、起承転結なんてものはない、ただ、現実があるだけ!
ということをケン・ローチは、あくまでも、冷静に映像として差し出しているのです。すごい映画でした。ただ、拍手!があるだけですね。
この作品を見て、泣かなかったようなことを言っていますが、実は、泣きました(笑)。
高校を出たばかりの長男が、父どらま親と同じ職場で働いていて、同じ、落盤事故にあいます。偶然、働いていた現場が離れていたことで、息子たちの班は、仲間とともに無事地上に戻りますが、救助活動が始まると、無事地上に戻っていた鉱夫たちが、もちろん、息子も、決意のみなぎる顔つきで、なにが起きたのかわからない、だから、何が起きるか予想もつかない地下に降りていきます。泣かずにいられますか?
息子にとっては父親の安否ですが、残りの人たちにとっては同じ職場で働く仲間の安否です。命懸けです。映画が、この命懸けの人間のつながり
をこそ、炭鉱の坑道という現場で働く人たちの行動の前提として描いていることはあきらかです。だから「泣いていないで、映画を見ろ!」なのですが、これが泣かずにいられるでしょうか? この映画が思い出させてくれたのは、そういう人間同士の繋がりがあるということです。チャットなんちゃらの聞こえてくるAIだかの声に慰めれられることが流行している現代社会を生きる人間の「孤独」の異様さに首をかしげる人が。もしも、いらっしゃるのなら、そういう人たちに見てほしい作品です。
監督 ケン・ローチ
脚本 バリー・ハインズ
キャスト
ボビー・ナット
リタ・メイ
1977年・168分・G・イギリス
原題「The Price of Coal Part 1 - Meet the People / Part 2 - Back to Reality」
2026・01・10・no006・元町映画館no337