チェン・ユーシュン「霧のごとく」シネリーブル神戸
連休が終わって、なるべく人が少なそうな作品はと探して、1950年代の台湾が舞台か、これなら空いているだろう(笑)
やって来てビックリ!
大入りでした。
チェン・ユーシュン監督の「霧のごとく」です。監督さんが、結構人気のある方のようですね。知りませんけど。 1950年代、戒厳令下の台湾
台湾って、中華民国ですけど、蒋介石が1949年だかに戒厳令を布告して以来、その、戒厳令が何年間解除されなかったか?
そういう、歴史って、今の若い人たちってご存じなのですかね。韓国もそうなのですが、戦前、大日本帝国が占領統治した国々って、まあ、それぞれに事情は違うのですが、1945年以後、戒厳令とか、軍事独裁とか、戦争とか、大日本帝国による統治の時代に、勝るとも劣らない大変な国情の国が多いんですよね。 ボクは1954年生まれで、戦後民主主義が謳歌される時代に成長したわけで、隣国の事情について、ほとんど知らない恥ずかしい奴だったわけですが、特に、台湾の戦後事情に興味を持ったのはつい最近で、それまでは何も知りませんでした。
で、この映画です。笑わせてもらいながらも、打ちのめされましたね(笑)。
反政府思想を疑われ、逮捕、銃殺された兄の遺体を引き取るために嘉義という田舎の村から、たった一人で台北にやって来た少女阿月(アグエー)ちゃんの想像を絶する苦労体験と、偶然、彼女を助ける趙公道(ザオ・ゴンダオ)くんの七転八倒が、1950年代の台北というか、台湾社会を背景に、そこで生きている普通の人間たちのあからさまな悪意と素朴な善意を、なんと、「笑い」を基調にすることによって描きながら、殺された兄が夢みた生き方を「霧のごとく」という哀しい詩の言葉で見事にうったえてみせた人間ドラマの傑作でした。拍手!
ここから、ラストのネタバレです。
何とか、ニーチャンのお骨を受け取った阿月(アグエー)ちゃんなのですが、その後、50年生きのびるのですね。
で、なんと、あの時、警察につかまってしまった公道君、無実の罪で25年も刑務所暮らしをした上で、時代が変わって釈放されるという、数奇とも、悲劇とも、とても笑ってはいえない生涯を生き延びていて、二人はなんと老人病院の待合室で・・・。
おばーちゃんになった阿月(アグエー)ちゃんに奇跡の再会をはたしたへらへら笑いの公道君ですが、ハッと思いだすんです。阿月(アグエー)ちゃんに、もう一度会うことが出来たら返してやらなければならないと、牢屋の中でも大切にしていた、オニーちゃんの形見の時計ですね。
診察室に消えた阿月(アグエー)ちゃんを指さして、看護婦さんに時計を手渡し、そっと消えていく公道君の姿に、見ているこっちは、やっぱり泣いちゃうんですよね。
そのシーンが、ほぼ、ラストですが、40年近く続いた戒厳令の時代を生きてきた台湾の人は、きっと涙されると思いますね。拍手! 実は、耳で聞いてわかっているわけではないのですが、この映画には二種類の中国語が使われているようです。国民党の公用語である北京語と広東語由来の台湾語ですね。
台湾の言語事情については、温又柔さんの「台湾生まれ日本語育ち」で少し知っていたので見ていて面白かったですね。そのあたりにもこの映画の台湾映画らしさがあって興味を深く見終えました。拍手! 監督・脚本 チェン・ユーシュン
キャスト
ケイトリン・ファン(阿月)
ウィル・オー(趙公道)
9m88
ツェン・ジンホ
リウ・グァンティン
ビビアン・ソン
2025年・134分・G・台湾
原題「大濛」・英題「A Foggy Tale」
2026・05・08・no086・シネリーブル神戸no378