ハ・ミョンミ「済州島四・三事件ハラン」元町映画館
どこの誰がつくった映画なのか、まったく知りませんでしたが、この題名を見てしまうと出かけないわけにはいきませんね。
韓国の女性監督ハ・ミョンミという方が撮った「済州島四・三事件ハラン」です。 ノーベル文学賞のハンガンの傑作「別れを告げない」(白水社)にも打ちのめされましたが、何とか涙なしに見終えたと思ったラストシーンで深々と打ちのめされました。
四・三事件については、韓国国内では、長い間タブー視されてきたらしいのですが、たとえば、ボクなんかは在日作家金石範の、多分、本国では出版もままならなかった作品「火山島」とか、詩人の金時鐘の発言、この映画の製作者でもあるらしいヤン・ヨンヒの「スープとイデオロギー」をはじめとする一連のドキュメンタリー作品を通して、事件の歴史的・政治的背景はもちろんですが、苛酷な現場を体験した人たちのそれからの人生までうかがい知ってきたわけですが、この映画のラストシーンの描き方を見て、監督ハ・ミョンミの事件に対する怒りと哀しみ、事実を埋もれさせない決意
というか、覚悟というかに打ちのめされました。歴史に残る傑作!だと思いました。
映画は、オばーちゃんが銃殺され、そのフトコロで九死に一生をえた少女ヘセンちゃんが、一人で「山」に登り、奇跡的に再会できたお母さんアジンさんとの逃避行を描いた作品でした。 幼いヘセンちゃんのあどけない表情と、夫をはじめ、家族をすべて殺されながら、娘の未来に、女として、母としての夢を託しながら彷徨うアジンさんの必死な姿と眼差しが忘れられない映画でした。
真っ暗な洞窟を風だけを頼りに海に抜け出ていくシーン。美しい海が広がる絶壁に立ち、おびえる幼子に目隠しをして抱き抱え、海女である自分を信じ、海原に飛び込む壮絶なジャンプ。胸を打つ見ごたえのあるシーンの連続で目が離せません。「頼むから、二人を生き延びさせて!」
そんなふうに念じながら目を瞠る作品でした。ヘセンちゃんとアジンさんの二人に拍手!
ずぶ濡れになったヘセンちゃんを助け起こし、火をおこし、サザエを拾ってきて食べさせるアジンさんの姿にホッとしたのもつかの間、スクリーンには二発の銃声がこだまし、画面は暗転しました。
声をあげて泣き叫びそうになるのを、何とかこらえて座り込みながらハ・ミョンミ監督の、この作品に対する叫びが聞こえてくるようで深く胸うたれました。 四三事件にハッピーエンドはないんです!
神戸は、戦後、済州島から渡ってこられた方がお住みになっている町です。この日の元町映画館はパイプ椅子が持ち出される状態の満員でした。事件から70年、そこで何があったのか、家族の歴史として胸に刻み込んでいらっしゃる方たちが集まっていらっしゃることに胸うたれずにはいられない映画体験でした。
監督・脚本 ハ・ミョンミ
製作 ヤン・ヨンヒ
撮影 オム・ヘジョン
美術 キム・ジンチョル
編集 イ・ヨンジョン
音楽 キム・ジヘ
キャスト
キム・ヒャンギ(アジン 母)
キム・ミンチェ(ヘセン 娘)
ソ・ヨンジュ
2025年・119分・G・韓国
英題「Hallan」
2026・05・09・no087・元町映画館no364