チャン・リュル「ルオムの黄昏」元町映画館
元町映画館が2026年8月の末から9月の初旬にかけて張律(チャン・リュル)監督の作品を、2本連続で上映してくれてます。 「柳川」とか見て、ただものじゃないなあという記憶で印象深いチャン・リュルというこの監督について、その出身が朝鮮なのか、中国なのか、訝しく思っていましたが、彼が中国の吉林省の延吉市生まれの朝鮮族三世だということ、で、もともとは小説家を志していた人だということをようやく知り、ますます興味をそそられての鑑賞でした。
まあ、時間の都合もあって、まず見たのはチャン・リュル監督の「ルオムの黄昏」でした。
北京で中国舞踏のダンサーをしているらしい白(バイ)という女性がルオムという町を訪ねてやってくるという旅の映画でした。ルオムというのが、漢字で書けば羅目鎮、四川省の峨眉山という仏教の聖地の麓の町の名前であることに気づいて「へぇー、そうなんだ!」
という調子で見始めたのでしたが、白が泊まったホテルの女主人である劉(リウ)という、ナカナカ個性的な女性が登場し、北京の魯迅博物館とかで働いていた過去がある人だということなのですが、彼女が、「天国は嫌だ、地獄は嫌だ、君たちと付き合うのも嫌だ」
という意味(まあ、ボクが、そう理解したという適当な記憶ですけど)の、魯迅の詩の一節を暗唱するシーンで鷲摑みでした。 ボクの勝手な見方にすぎないのかもですけど、そこからは、この映画に登場するすべての人たちのこころの奥底に流れる通奏低音として、魯迅のこのことばが聴こえてくる印象で、とどのつまりの結末にも、「ああ、やっぱりね。」
という納得でした。 白のかつての恋人、王(ワン)が送って来た一枚の絵葉書に記された「羅目鎮の黄昏」が、白を、この地に招き寄せた物語の発端なのですが、この監督が、今まで見てきた作品でも描き続けてきた、見知らぬ土地を歩く「旅人」としての人の姿と、その人々が見あげたり、座ったり、歩いたりする、山々の風景、水辺、階段、廃墟、庭、すべてのシーンが、この映画でも美しさを湛えながら、ある哀しさを孕んでいる印象が素晴らしいですね。
やっぱり、この監督、ただものではありません。拍手!
ダンサーである白のたよりなげに踊る姿に漂うこころの揺れ方も、劉と黄(ファン)という老カップルの別れに至る淡い関係も、吃音を気にして大人とは口をきけないのに子どもとは話せるメイド、雷(レイ)の存在も、朝鮮族の旅の男朴(パオ)の登場と退場も、たしかに、見失った恋人を探す白の内面については、かなり丁寧に描かれているのは当然としても、それぞれの登場人物たちの「心のかたち」を意味ありげに焦点化しない、この監督の世界の描き方の自然さがボクはスキですね。 さて、次は「春樹」です。ワクワクですね(笑)。
監督・脚本 チャン・リュル張律
製作 ポン・ジン
製作総指揮 ホアン・ジェンシン
撮影 ピャオ・ソンリー
キャスト
バイ・バイホー(白バイ 旅の女性)
リウ・ダン(劉リウ ホテルの女主人)
ホアン・チエンシン(黄ファン ホテルの居候)
ワン・チュアンジュン(王ワン 白の恋人)
ポン・ジン(彭ポン 劉の女友だち)
レイ・シャーヨン(雷レイ ホテルのメイド)
ピャオ・ソンリー(朴パオ ホテルの客)
2025年・99分・中国
原題「罗目的黄昏」英題「Gloaming in Luomu」
2026・08・29・no160・元町映画館no393