一度下げたら上げられない単価
コサージュから縫製の仕事へ代えたのは、海外の物が参入し始めたから。会社のホームページから、仕事の依頼が相次ぎ、15000個の依頼だ。単価は600円程度。500個の納品は出来るが、生地のカット、染め、成型とすべての工程を手作業でするのには、700個が限界。あまりに沢山の仕事が重なり、丸投げをしたことがあるが、出来上がりの質があまりにも悪いので、商品にならなかった。自分の目で納得の出来ないものを世の中に出すことは出来ない。数もそうだが、単価600円で、赤字の仕事を受ける気もなかったので、低調にお断りをして、会社のホームページを閉じた。海外の物は染めが単色だ。色は基本3原色例えばピンクの色は赤が基本。その濃度を薄めるとピンクになるがこのピンクはあまりにも軽薄なピンク。ブルー寄りのピンクから、黄色寄りのピンクまで。一言にピンクと言っても数十種類ものピンクがある。そしてこのピンクの中に、グリン(ブルーと黄色)とバイオレットを入れて深みを出す。または茶色やグレーを入れて少々汚して、秋色のピンクにする。お花にしても、洋服にしても、安価なものは色が単色だ。その違いを見分けられる人が何人いるかは別として。全く違うのだけれど。着物に例えると良く分かるが、何度も何度も染められた糸で織る着物はとても美しい。話はそれてしまったが、この海外から来た安価なものに対抗しようとすると、どんどん単価がさがり、そして一度下げた単価はなかなか上げられなくなる。単価を下げるために材料の質を落とすか、もしくは工程を抜くか。毎日睡眠時間を削ってまで仕事をするのは、35歳までが限界で。その後はだんだんと仕事を、縫製に移して行った。ファッションは水物で、ことに近年はそのペースがとても早くなった。皆が同じものを好み、個性が嫌われる日本で、本物に目を向けられるのはいつの日なんだろうかと、思う。