浴室「いま 何時ですか」 と 声がして 困った 白ガーゼに覆われて 半端に浴槽に浸けられて 見えるのは熟れた橙のあかりばかり 湿気て むせそうな 「いま 何時ですか」 また 声がして 少女の声がして 硬質の声がして 「九時です」 いらり としながら でたらめを応え ガーゼは湿気を吸って重い いつか息が詰まるのに 見ればわかるだろうに そして時計など 「九時ですか」 満足か 湯 は また焚かれているのか 布の目が汗を吸い 潮っ気 「いま 何時ですか」 お願いだから わかってください 私は覆われ ぬらついて脂汗 刻々と 白布が濡れて 鼻の輪郭を浮かす 時が知りたい むしろこちらが 「今は 何時なんですか」 聞き返して 「4時です」 「4時なんですか」 「わかりません」 硬いと思った少女の声は ただ幼かった 時を考えた事のない声が 新しかっただけだった わたしには 潮の香りが鮮やかになって ふと一筋 冷えた空気 逃さないよう ふかく ふかく 呼吸した ジャンル別一覧
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