COLONYの裏側

2017/06/28(水)23:54

火の鳥-太陽編-

読書・コミック(215)

今回読んだのは「火の鳥-太陽編-」。 手塚氏が生前発表した火の鳥としては最後の作品で角川の雑誌「野生時代」で86年1月号~88年2月号まで連載された(「火の鳥」が連載された雑誌はことごとく廃刊になったが、太陽編が掲載された「野生時代」のみ一度休刊した後、小説専門誌「小説野生時代」としてリニューアルした) 7世紀後半と21世紀が舞台。 <過去> 主人公のハリマは百済の王家の血を引くが、白村江で百済が唐と新羅の連合軍によって滅ぼされ、顔の皮を剥がされた上、狼の首を被せられる。狼の首はハリマの皮膚と同化して取れなくなってしまう。行き倒れていたところを占い師のオババに助けられたハリマは逃げる途中で阿部比羅夫を助けて倭に渡ることになる。阿部の取り成しで倭国では犬上宿禰と名乗ったハリマは狗(ク)族の少女マリモ、大海人皇子との出会いを経て、やがて壬申の乱に巻き込まれてゆく。 <未来> 2009年の世界は「火の鳥」を崇拝する宗教団体「光」一族に支配されており、未来サイドの主人公・坂東スグルは「光」の抵抗組織「影(シャドー)」の殺し屋として荒んだ生活を送っていた。ある作戦に失敗したスグルは「光」に捕えられ、「光」の矯正施設で狼に似た洗脳装置を被せられる生活を送る羽目になる。矯正施設で以前同い年という理由だけで殺さなかったヨドミと知り合い惹かれあっていく。 太陽編は7世紀後半と21世紀の物語が交互に進行していく構成で(アニメ化された折、未来サイドは完全に削除)、壬申の乱も「光」と「シャドー」の闘争も世俗の抗争の裏に宗教戦争が存在するという展開で、宗教問題は外国では中世から存在し本当に戦争まで起こったほどですが(十字軍とか)、作中で火の鳥が言ってるように宗教と権力が一緒になった闘争は恐ろしいということを伝えている内容。作中でも「シャドー」の総裁も大海人王子も権力を得てからかつての権力者と同じように自己神聖化に走るという行為は愚かな・・と言いたい。未来編でも人は過ちを繰り返し、人類を滅亡させるということを描いてるから厭世観がにじみ出てる ・矯正施設でスグルはヨドミ(連載時はサオリ)と知り合い知らないうちに恋に落ちていく。当初スグルは女子供でも殺せる冷徹な殺し屋だったのが、恋を知ることで犬上の物語と繋がっていくわけか。 ・壬申の乱も終わりかけた頃・・・火の鳥が予言した通り犬上は狼の呪いが解けて人間に戻ることができたが霊的なものを感じ取る力を失い、マリモとの思い出も消えてしまう。ずっと犬上を慕っていたマリモは悲しみに暮れ何年かかっても犬上に会いたいと願う。父から千年経てば犬上の生まれ変わりと会えるという予言を受けたところで未来へ。「光」の教祖の尋問を受けたヨドミは教祖に撃たれるが本性を現し、スグルの所へ。スグルとヨドミは自分の前世を知り新天地へ旅立つという終わり方になるが、太陽編は時を越えた愛の物語だということがわかる 実は太陽編が終わっても新しい火の鳥の構想を手塚氏は考えており、単行本の最後の数ページには「大地編」のメモが併録されている。その中には日中戦争の最中が舞台で、軍の少佐・間久部緑郎と彼の恩師で火の鳥を追い求める猿田の二人が主役だった模様。(もう一つ「大地編」のプロットが存在し、もう一つのプロットは幕末~明治初期が舞台でシュマリみたいな主人公が大陸に渡る話にするつもりだったらしい) 連載版と単行本版で未来編が修正されており、 ・回想シーンにお茶の水博士が登場していた ・猿田が火の鳥によって視力を失う描写が単行本ではカット ・光から戻ってきたスグルを巡り、イノリとヨドミの修羅場あり。 ・マリモが転生した女性の名前がさおりからヨドミに変更。 ・瀕死の重傷を負ったヨドミが火の鳥の力で生き返るという描写がカット。単行本では原因不明の力で生き返る <連載時のヨドミが生き返るシーン> (スグルの前に現れる光は鳥の形を成す) スグル「火・・・の・・鳥!?」 火の鳥「私を呼びましたか?」    「貴方ははっきり言いましたね?自分の生命と引き換えにその娘に生命を?」 スグル「確かに鳥が喋ってる!こいつはテレパシーって奴か…」    「ほんとに火の鳥なのか?あ…あんた何だ?神なんですか?」 火の鳥「そんなものではありません。私は生命の源を預かっているだけです。」 スグル「生命を預かっているって?あんた現実にそこにいるのかい?どうやってここへ?」 火の鳥「誰かが心の底から生命を求めれば私はどこにでも現れます。」 スグル「そ そうだ。俺、誓った。彼女に生命が欲しい。    もう遅いんだ。でもできるなら生き返らせてくれ。」 火の鳥「あなたは今、その娘を愛していますね。心から。」 スグル「ああ、言ったとも。俺、彼女を愛してるんだ!!     彼女を助けてくれりゃあ俺、そんな代償でも払うよ」 火の鳥「その言葉に免じて助けましょう。でもその代わりあなた達はもし愛を失った時、二人とも死ぬのです。それが代償です。いいのですね?」 スグル「彼女が生きている限り、俺は彼女を愛するとも!!誓うよ。」 火の鳥「わかりました。今助けてあげます。」 (ヨドミが光に包まれ息を吹き返す) スグル「なんてこった・・血・・消えてる・・!」    「生き返ったウォーッ!傷がないぞー!奇蹟だ!」 「手塚治虫の奇妙な資料」で割愛された箇所を読んだけど、削除された箇所の方が、非情な殺し屋だったスグルが愛を知るシーンが浮き彫りになるんだけどなぁ ・「光」が出来た理由:単行本版ではおやじさんが語るが、連載時は火の鳥が語る <「光」が出来た理由:連載版> スグル「あんた、素晴らしい人・・・いや、鳥だ!でも・・そんなあなたがどうして「光」みたいな教団を許してるんですか?なぜ、おれたち「シャドー」を苦しめるんです?」 火の鳥「わかっています。」    「私は人間に一つのチャンスをあげたかった。でも愚かな人間はそのチャンスを歪めてしまいました。私は失望しています。」 スグル「答えて下さい。今から10年前、金星へ旅立った惑星探査船が火の鳥に会ったそうです。それは・・・あなたなんですか?」 火の鳥「ええ・・私。」    「私は長い長い長い間人間の”目覚め”を待っていました。人間が宇宙へと飛び立った時、その”目覚め”のチャンスが来たと思いました」    「それは人間が地球から遠くから眺めて自分たちがどんなに地球の上の生命をおろそかにしてきたか初めて悟ると信じたのです」 (火の鳥、探査船のクルーの前に姿を現す)    「だから思い切ってその船の中に入って人間達に会いました。」    「みんなは驚いて私の話すことをよく聞いてくれました。」 (火の鳥、探査船のクルーに) 火の鳥「美しいでしょうそれにもまして脆くてすぐにも壊れそうでしょう。もしあなた方人間に叡知があるならあの星を大切に使うことです。地球も・・・生きているのですから。」    「地球に戻ったらこのことを世界中の人間達に伝えてください」    「わたしはよくわかってくれたと信じていました。ところが、裏切られたのです。彼等はそれをひろめるという名目で宗教を作ってしまったのです。」 スグル「---そして奴等は火の鳥そっくりのご神体を据えた。自分達の富を増やすために海底資源工場を設けて信者を働かせたり、教義に従わない者は片っ端からシャドーとして地下に追放してしまった!これはみんな元はと言えばあなたの責任なんだ」    「そうだ、あなたのせいだ。あなたが宇宙飛行士にご託宣なんか与えるからあいつらのぼせ上がってこんな羽目になったんだ。さあ!!何とかしてくれ!」    「俺たちはこんな宗教なんか抹殺したいんだ。わかるだろう?俺たちシャドーに地上を返してくれ!!あんたならできるだろう?元の世の中に戻すくらい。」 火の鳥「それはあなたがた人間が解決なさい」 スグル「どうして!?何にも力を貸してくれないのか?なぜ?」 火の鳥「それはね宗教などというものは人間が作ったものだからです。それを作るのも消すのも人間の心次第です。」 ・ラスト、ヨドミ(連載版ではさおり)が教祖の前に引きだされるシーンが連載時と単行本とでは変わってる。 参考サイト1 参考サイト2 ​【中古】その他コミック 火の鳥 太陽編 上(角川書店版)(10) / 手塚治虫​​ 【中古】その他コミック 火の鳥 太陽編 上(朝日ソノラマコミックス)(10) / 手塚治虫 ​​【中古】その他コミック 火の鳥 太陽編 下(朝日ソノラマコミックス)(11) / 手塚治虫​

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