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カテゴリ:歴史・人物
江戸の夜話 3 鬼熊退治 千住小塚原に、水戸藩御用達の馬子で鬼熊という恐ろしい悪者が居た。 ある時、鬼熊が斬られたために、千住辺りでは悪魔祓いを呼んだほどだが、誰が斬ったのか知る者はいなかった。 ある夏のこと、小塚原に獄門の首があるというので、見物に出かけた者達がいた。 その頃は大千住といって、水戸街道だ。荷物問屋場があり、諸藩の荷物や馬が往来していたが、その多くは水戸藩御用の荷物で、それを運ぶ馬子たちは、飛ぶ鳥を落とす威勢で、虎の尾を借る狐たちは威張りくさっていた。 一杯機嫌で獄門を見物に出かけた三人は、首を見物した後、貸し座敷屋をひやかして歩いた。 三人の酔っ払い侍の一人、岡というのが馬子とぶつかって、馬子が持っている「御用」と書いた小田原提灯が落ちて、灯りが消えてしまった。 「水戸藩御用の文字が見えねえのか、この田舎侍、目腐れ侍、コンチキ侍野郎!」 と、馬子は悪口雑言を吐き、一応詫びてもみたが聞き入れず、 「おう、千住の問屋場まで歩きゃあがれ!」 と言うので、仕方なく行って、役人に訳を話すと、 「以後、注意するように」 と許されて帰された。 馬子は、その後を追いかけて、 「役人が許したって、馬子仲間が承知しねえ、このお方を何方と心得る、千住の鬼熊様だぞ、驚いたか、このサンピン侍」 と食って掛かる、酒代にしようという魂胆だった。 こうなったら、逃げるが勝ちと、いきなり大御所様の鬼熊を突き飛ばして駆け出した。 馬子達は大声をあげながら追いかけてきた。 岡たちは、裏路地へ逃げ込んで、三河島の方へ逃げたが、どこまでも追いかけてきた。 岡がある路地へ入ると、そこは袋小路の行き止まりだった。絶体絶命、鬼熊の怪力にねじ伏せられてしまった。 岡は、もうこれまでと、下からぐさりと鬼熊の脇腹を刺した。 「うっ、さあ殺せ、殺しやあがれー!」 と叫んでいるところへ、連れの侍が一人引き返してきた。 鬼熊に馬乗りにされている岡を見て、刺されているとは知らず、朋輩の一大事と、後から鬼熊をバッサリ斬った。 岡はやっと立ち上がり、二人は連れ立って闇を稲妻と逃げ出した。 小川で血のりを洗い、板橋で古着を買って着替え、翌朝家に帰った。 もう一人残った侍の話によると、その後千住は大騒ぎだったとか。 おわり お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.06.03 16:43:34
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