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緑と清流

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2009.03.10
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カテゴリ:その他
写真の花は「木瓜」
   ボケ   

11-1

 一人になったアントワーヌは、好奇心で机の上の書類を見ようとした。
 様々な種類の書類、時事問題の新聞の切り抜き、詩や短編小説などが雑然と集められていた。
 アントワーヌは、短編小説の一つを読んでみた。ニュースからヒントを得たらしいスケッチ風の小説は、人物描写が見事に浮き彫りされていた。
 ラ・ソレリーナの文体を思い出すと、あの叙情調から開放され、真実性が加わっていた。
 だが、そうした文章の上手さにもかかわらず、アントワーヌの集中力は高まらなかった。
 今朝からの思いがけない出来事。一人になると、いやおうなしに昨晩から留守にしている病室のことが頭に浮かんだ。
 おそらく、今頃は怖ろしいことが起き始めているだろう。出かけて来たのは間違いだったかな? いや、自分はジャックを連れ帰るために来たんだ!

 その時、遠慮がちにドアがノックされた。「お入り」と言うと、驚いたことに女が姿を見せた。
 朝食の時に見かけた女だった。彼女は薪を入れた籠を持っていた。彼は、それを受け取った。
「弟は出かけました」
 と言うと、ジャックが出かけたことを知って来たのだと、態度で示し、彼女は好奇心をむき出しにして、アントワーヌを見た。その態度には、あいまいさはなく、こうした思い切った行動も、実はしっかりした考えの結果であり、深い理由があるように見えた。
 アントワーヌには、彼女の目が今まで泣いていたように見えた。すぐに彼女の睫毛が細かく上下したと思うと、声を震わして言った。
「あの人を、連れて行くんですか?」
「ええ、父が重態なので」
 彼女の耳には、アントワーヌの返事が聞こえないようだった。
「どうしてですか?」
 憤然としたように言い、足を踏み鳴らして、
「だめです!」
と言った。アントワーヌは繰り返して、
「父親が重態なんですよ、死に掛けてるんです」
と言ったが、彼女は説明などどうでも良いといった風に、だんだんと涙を溢れさせていた。
つづく





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最終更新日  2009.03.10 06:27:54



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