水玉模様『水玉模様』 裾が長いから縫って欲しい、と長女が新居のカーテンを持参した。淡いブルーとグレーの大きな水玉模様である。 わたしは仕方なく、久しぶりにミシンを出した。 いつ以来だろうか? 「バレエの発表会の衣裳を縫ってからこっち、ミシン踏んでない気がするわ」 「そう言えば、徹夜で縫ってくれたよね」 「でも、高校の文化祭の衣裳は母さんが縫ったんじゃない?」 「そう、そう。デザインまでやってくれたわ」 「もう少し遡ったら、洋服は全部母さんの手作りだったよ」 「出来上がるまで待てなくて、裸でじっと待ってたのよね。憶えてる?」 「憶えてるわ。なんか懐かしい」 「裾上げ、母さんに縫ってもらったなんて内緒にしようかなー」 「いいんじゃないの?たいしたことじゃないから」 ミシンの横で、じっと裾上げが終わるのを待つ長女と、取り留めの無い会話が続いた。部屋に差し込む午後のオレンジ色の光が、柔らかい。 ついさっきまでいた次女は、浴衣を着て平塚の七夕に出かけていった。 わたしの若かりし頃の浴衣がピッタリで、アップに結い上げたうなじがとても涼しそうだった。 「母さん、今日はすごく幸せよ」 「どうして?」 「ずっと昔、おばあちゃんとこうして会話したのを思い出したのよ。迷惑ばかりかけたけど、おばあちゃんも今の母さんのように、幸せだったんだろうなーって。はい、終わったよ」 長女は嬉しそうに、カーテンを抱えて飛び出して行った。 それを吊り下げた部屋を思い浮かべると、わたしはもっと幸せな気分になった。 ジャンル別一覧
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