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行き止まりは、どこにもなかった

行き止まりは、どこにもなかった

新!コテ派な日々~第十八話~(番外?Dead Data@第八話)

下水道から出て、街を見渡す。

相変わらず人気はなく、閑散としている。

聞こえる音と言えば風の音や、それで少し瓦礫が動いた音。

…が、よく耳を澄ませば小さく声らしい物も聞こえてくる。

それこそ、この街唯一の生命体、“ロドク”のコテの一部の活動音だ。

今後、私が倒していくべき相手、そして今はなるべく避けなければならない相手。

…そう、私は結局あの後、彼女に捕まった。ので、本当に目的を変更し、今度こそ喫茶に向かう事になったのだ。

つまり、今回の作戦は物資の補給が目的。隠密行動なのだ。

よって、私の力を試したくてうずうずしているが、奴らと戦闘は出来ない。

やったとして奴らの行動の観察までだ。

だからこそ、今私は某有名なゲームよろしく、近くで偶然見つけたダンボール箱に身を隠し移動している訳だ。

これならまぁ、バッチリ隠れられるだろう。相手はそう知性がある生物には見えないしな。

…いやまぁ流石にこれで移動したりしたら即バレるだろうけどな。

分かってるよ?幾ら何でも。どこぞの蛇はそれこそ、ゲームだから出来る事であって、現実、無理だって。

なので、移動するとしたらなるべく目線がこちらに向いていない時のみ。

かなり手間の掛かる気が長くないとやってられない作戦だが…まぁ、何とかやっていこう。

私もキレるとあんな暴力的だが、彼女もそう言えばキレると割とヤバかった。

私があの時潰された虫の様にならない為にも、今回の作戦で無茶をしないよう心がけていこう。












と、まぁ心掛けもしっかりした上で移動してた訳だが…。

いや、違う。失敗した訳じゃない。寧ろ大成功だ。

一度も気づかれる事なくあっさりと通り抜けた。1発でな。

だからこそなんだ、拍子抜けした。恐らく今見えてる建物が喫茶だろう。

中に入ると確かに食料が置いてある。うぅむ。気合い入れて隠れてたのがなんだかアホらしいな?

と、言ってもまだ作戦は終わりではない。のんびりしてれば今度こそ奴らがこちらに気付いてくるかも知れない。

四本足の昆虫型のコテ、ヤキムシ。集団でやってくるアレに襲われたらマズイ。

私には能力があるとは言え数の暴力で押し切られれば終わりだ。

そもそも、あの能力が安定して常に使えるかも分からない。なので、早く用事を済ませていかなければ。

少しずつ進み、食料の入った箱を持ち出す。

そして、そーっと今来た道を…ダメだ。

私は静かに扉を閉じる。

今の間に奴らがこちらに気付いたらしく、扉の前に大挙してやって来ていた。

ここから出ていくのは厳しい。こっちを避けて、窓から行こう。

ゆっくりと窓へ近付き、音を立てないように開く。

と同時に背後からボトリ、と何かが落ちる音が聞こえた。

…窓は無事開けた。が、今の音、絶対イヤな予感がする。嫌な予感しかしない。

余り見たくはないが、ゆっくりと振り返る。…そこには1匹のヤキムシが居た。予想通りの展開だな。

ともあれ、1匹だけなら対処出来るだろう。しかし迂闊だった。恐らく天井に居たのだろう。

気付かず入ってしまうとは警戒が足りなかったな…と、天井を見て血の気が引いた。

そこには、天井を埋め尽くす数の虫、虫、虫。カフェの中はヤキムシでいっぱいだったのだ。

本当に警戒が足りない…所の話じゃないなもうこれ!マヌケにも程があるぞ!!

扉の方からも外のヤキムシがドッとなだれ込んできたので私は今開いた窓から外へと飛び出す。

背後でボウッ!とヤキムシ達の火が揺らめいたのが見えたので、結構危機一髪な脱出だったらしい。

わたわたと格好悪いながら距離を取り、持ってきた武器を喫茶の方へ向けて相手の動きを待つ。


「…?」


待つ、が…全然出て来る気配がない。なんだ?気づかれた訳じゃなかったのか?

中でまだゴソゴソ動いてる様な音は聞こえる気がするんだが…何もしてこないつもりだろうか?

等と考えていると唐突にボォンッ!!と巨大な火柱が上がり、屋根を突き破った。


「!?」


一瞬で炎に包まれる喫茶。その激しい火力で一瞬で炭と化した建物はガラガラと崩れていく。

それと共に、ヤキムシがわらわらと這い出してこちらに向かって来ているのが見えた。


「火種があれだけ集まると本当に恐ろしいものだな…。む…?」


ヤキムシ達の群れの中に、何か違うモノが混ざっているのが見えた。

ヤキムシの新種…では無いだろうな。二足歩行の時点で他コテだろう。

見慣れないコテはよく見ればヤキムシに乗っていて、他のヤキムシを先導している様に見えた。


「…感じた以上に嫌な事になりそうな気がするな。予感なんて宛にならないもんだ。」


とん、とヤキムシからそのコテは降りるとこっちをじっと見ている。

クリーム色の体色をした少し小柄な人型と思われるコテ。

耳は無く、丸い頭には右斜に赤い線が入っている。

余り動かない四角い口に眠たげな目をしたそいつは表情が分かり辛いが、少し楽しそうにしてる気がした。

彼女と私はお互い顔の無いコテだしな、そういうのを読み取るのに長けてしまったらしい。

そして、読み取ったそれは正しかったらしく、無邪気な笑い声を出して、そのコテは手を振ってきた。


「あー、いたいた!みつけたー!」

「…唐突だな。そして、その口ぶり…ロドクのコテの一人だな?」

「うん、そう!えっとね、ぼく、閃光騨!せんちゃん、ってよんでね!」

「ひさびさのおきゃくさんとあそびにきたんだ!ね?あそぼう!」


こちらの返答を待つ事なく、閃光騨と名乗った奴は既に何かをこちらに向けて放っていた。


  ミラクルボム
「特殊炎爆弾!」


飛んできたそれは、どうやら火の玉らしいが、技の名から考えてもただの火の玉と言う訳でもなかろう。

不格好ながら避け、なるべくそこから離れる。

先程まで私が居た場所に落ちたそれは、着弾と共に弾け、四方八方に広がる様に炎を飛ばした。

そして、その炎が収束する様に着弾位置に戻り、更に先程より激しい炎となってその場を埋めた。

避けてなかったら相当大変なことになっていたぞ、あれは…。

ゾッとしつつ私は奴に向き直る。 既にその両手には同じ弾が浮かび、今にも放とうとしていた。


「くそ、少しは待ってはくれないもんかねぇ…!!」


悪態をつきながら私は逃げる。

そう言いつつも、正直私はある程度の余裕はあった。

なにせ、あの攻撃避けれない程ではないのだ。

ある程度離れていなければ第二撃でそれなりの被害が出るかも知れないがそれも初見まで。

1回目で警戒して大きく離れる様にしているので被害は殆どない。

そして相手の攻撃は割と単調で見切りやすい。ただひたすら撃ってくるだけならば…いずれ攻撃のチャンスも…。


「させないよ!」


私の考えを見透かしたかの様に、閃光騨が叫び、手を叩く。

瞬間、炎の飛び方が突然切り替わった。

着弾後八方に広がってまた中心に戻る炎の弾だったのが、

今度は八方に広がって、中心に戻る様な動きをしながらひたすら外に広がっていく様に変わった。

ゆらゆら揺れながら広がっていく炎の軌道は少々見切りづらい。

お陰でまた、反撃のチャンスを失い、私は右往左往逃げ回るばかりとなる。


「つづいてやっきーのでばーん!!」


ビシッ、と私を指差す様に腕をこちらに向ける閃光騨。

途端に、数匹のヤキムシが蒼い炎に包まれて行った。


「よーしっ!いっけー!“バーニングスパイダー”!」


蒼い炎に包まれたヤキムシが突如消える。

気づけば、それらは私を八方から取り囲み、まっすぐ突っ込んできていた。

これも何とか躱す。が、相手の攻撃はそれで終わりではなかった。

今ヤキムシが通った八方向の直線はそのまま蒼い炎の壁が現れている。

そして、中心に向かって飛んできていたヤキムシが今度は円を描く様にその八本の線の内を飛び交った。

まるで蜘蛛の巣が作られる様を見ている様な事から、あの技名か…!

それよりまずい。逃げるのが遅れた為に、私は炎の壁の間に囚われてしまったのだ。


「よーし、つかまえたー!よかったー、ぼくもやっきーもこーげきってあんまとくいじゃないんだよねー」


あれだけの猛攻をしておきながらよく言うな…

しかし、その言葉が本当なら一気に大ダメージを負う事は少ないか?

とにかく次の攻撃をどうにか凌ぎ切らなければやられる。

囚われ、既に逃げる事はできそうにない。せめてしっかり避けるなり受けるなりすべく身構える。


 ティアラボンバー
「王冠型焔弾!」


ポポポッ、と上空から蜘蛛の巣に向けて火球が落ちてくる。

大した大きさでも無いから確かに、あまり攻撃力はないかな?と思ったのもつかの間。

次の瞬間、3つ程火球繋がる様にして、足元から火柱が上がった。

その形は確かに、王冠型の焔だ。 …なるほどな。

奴が攻撃が得意ではない、と言ったのはこういう事だろう。

どれも見栄えを気にした技が多く、私の能力の様な火力…攻撃力を感じない。

と言ってもどれも炎の攻撃だから、身体に直接触れれば普通に大やけど。

今の囲まれてる火が全身に広がれば余裕で相手を死傷させる事が出来る殺傷力がある。

やはり攻撃が不得意、とは思いたくない相手だな。だが、相手が悪かったと言わざるを得ないだろう。


「当たれよ、一気に!!」


私は持っていた銃を例の構えで閃光騨とヤキムシに向け…られない。居ない。

先程まで奴らが居た場所には幾らかの火の弾が転がっているだけで奴らは影も形も無い。


「しまった…!」


恐らく、先程の王冠型焔は隠れ蓑。こちらの目を眩ませてるうちに隠れ、攻撃する為のモノだったのだ。

どこからともなく、技名が聞こえてくる。


  ミラクルスパイダーマーチ
「特殊発火昆虫行進団!」


…先走りすぎたのがいけなかった。

彼女の忠告通り、もっと慎重になるべきだった。

あの能力である程度俺は過信していたんだろう。前に進む力があると。だから前に進まなきゃ、と。

結果、このまま行けば俺は死ぬ。それこそ、あっさり、呆気なくだ。


……まただ。“俺”? 

本当の自分が、“俺”なのだろうか?それすら、確かめる前に終るとはな…。




  レインダンスマーチ
「暴風豪雨行進曲!」


私の周囲を激しい雨が覆う。

突っ込んできていたヤキムシ達は全てその雨に阻まれた。

自身の背の炎も纏っていた炎も消されてしまい、その場に力なく転がった。

その様子を、呆然と見つめる閃光騨が何時の間にかそこに居た。

そして、私の隣には…。


「もー。こういう状態になった時の対処も考えないでさ、飛び出していくのは無茶でしょ…」

「少しは今後考えて下さい。OK?」

「OK…助かったすまない…。しかし、いいのか…?君だけでも隠れていれば危険な目に遭う事は…」

「どうせ君が死んだら割と詰みだし。
  もー、諦めた!君すぐ飛び出すのが元の性格っぽいから私もそれに合わせてあげる!」


少々呆れた顔をしてる様な雰囲気だ。わざとらしい溜息を吐いても見せてきた。

…だが、どこか嬉しそうにも見えるのは気の所為では無いだろう。

結局彼女も、いずれは戦いたかったが、踏ん切りが付かなかったのだろう。

それが、やっと踏み出せた。その為に少し清々しい気持ちでもあるのだろう。

…まあ、かと言って私の暴走が許される訳ではないだろうが。あとが怖いぞこれ。


「って事で腹は括った、こっからは戦うよ!」


そう言って、キッ、と閃光騨を睨みつける。

その背は私よりもずっと強く、逞しく見えた。

が、その後の彼女の言葉は以外な物だった。


「さーて、ロドクのコテの一人…多分“閃光騨”、だよね?
    能力的にもそっちはかなり不利。逃げるなら今の内だよ。」

「てか、逃げないならこれで撃つけどね。ほら、どーするー?」


まさかの、逃亡を促したのだ。

慌てて私は彼女に尋ねる。


「ちょっと待て。逃げるなら今の内って…逃がすつもりなのか?」

「え?いやだってさー、相手子供じゃん…。」

「しかしアレでも相手はロドクのコテの一人だぞ!?そんな甘い事…」

「えー?でも能力も大した事なかったし…危険度低いじゃん」

「馬鹿な!!殺意をもって襲われたぞ私は!それも遊びの様にだ!あれで危険じゃないって…」

「い い の!! 子供は殺さない主義なの!!ほら!早く行きなって坊や!ね!」


言い争う私と彼女。その様子を閃光騨は初め、きょとんとした顔で見ていたが

再び彼女に声を掛けられたのを皮切りに、突如として大声で笑いだした。


「あは、あははは!あははははははははは!!!」

「…何?偽善が面白いってか?」


少々自嘲気味に彼女が閃光騨に尋ねる。

それでも恐らく意見を変えるつもりはなかっただろうが…

多少偽善だとは自覚してたんだな君。

尋ねられた閃光騨は尚も笑っているが、落ち着いてきたのか、ゆっくり答えた。


「ふふ、そんなんじゃないよ!おもしろいのはね!」

「もう“かった”つもりでいることだよ!」


バガァンッ!!


大きく破壊音が響き、近くの家屋が倒壊する。

そして、そこからのっしのっしと大きなコテが現れ、こちらに向かってきた。

光沢のある身体は機械の身体らしく、頑丈そうだ。閃光騨同様眠たげな目をしている。


「だーから言ったろうに、閃光騨よ!!相手は水も居る、ヤキムシなんかじゃだめだってな!!ハッハッハッハッ!!」


が、外見とは裏腹に大きな声で豪快に笑う大きなコテ。

その表情は大きな身体を持つ余裕からなのか?とすら思えた。

更に、その足元にはわらわらと別のコテの姿も見える。

肘から先が刃物になった灰色の体色のコテ。無表情のそいつらは刃を打ち鳴らしながらこちらを見ている。


「でもさー、こうやらないと“たすけにこない”じゃん。さくせんどーりだよ?」

「おー、なるほどなぁ!わざとだったのか!はっはっは、参ったな、お前はそう言う所の頭がよく回るな閃光騨!」

「ことちゃんはいろいろたりないよねー」

「おいおい、フルネームで呼んでくれよ!我が名は糊塗霧隙羽、糊塗霧隙羽だ!」


ぐっ、と糊塗霧と名乗ったコテが力を込め、屈んだと思うと、大きく飛び上がり、我々の前へと降り立った。

その衝撃でズドンッ、と地面が揺れたが相手は全くのお構いなしで私たちに話し掛けてくる。


「お初に御目に掛かるな、“白いコテ”の二人よ!お前らが噂の反逆者だな!はっはははー!!」


私たちは応えない。

迂闊に喋ると相手に情報を与える事になる。

相手がどういう出方をしてくるか分からない今、余計な事は極力するべきじゃない。


「んー、寂しいな、だんまりかぁ。!だが、残念だな!それは無駄だ!」

「お前ら、片方が水の能力持ちで片方は銃に特化した何らかの能力を持つそうだな!」


思わず目を見開く。まぁ目が無いんだが。

だが、その雰囲気は伝わったらしく、相手は得意げにしている。


「お前らの動向はある程度監視しているからな!だからこそ私や閃光騨が呼ばれた訳だ!さぁ観念しろー!」

「何せ、私の能力は水とは非常に相性が良い!お前らが勝てる見込みは私が来た時点でゼロにちk…」


ズドォオン!!


「…ぬ?ぉ…」


私は奴が得意げに喋ってる間に素早く奴の胴を狙って引き金を引いた。

奴らはもしかしたらこちらの隠れ家やパソコンの事も既に知っているかもしれない、とも考えたが

それなら何故我々を泳がせているんだろうか、という疑問が出て来た。

その答えは恐らく、“完全に掴んでは居ないから”

こうして知っている事…それも知られてないだろうと思っている情報を敢えて出す事で

こちらを揺さぶろうとしているのだと私は判断した。

ならさっさと先制し、ここから脱出する。その手で考えればこれ以上余計な情報は奪われない。

その考えの元、私は能力で奴を撃ち抜いた。

喋りに夢中になっていたからか、避ける事も無く糊塗霧の胴は撃ち抜かれ、大きな穴を作った。

そして、そこからぐしゃり、と崩れ落ち、バラバラになってその場に倒れ伏した。


「あ、ちょ、ことちゃーーーーん!!もー!ながながはなしたりするからー!!」


その隣でぴょんぴょんと閃光騨が跳ねる。完全に崩れた糊塗霧に意識が向いている。

よし、今ならなんとか逃げ切れるはずだ。私は彼女の手を引いて走り出そうとする。が…


「むぅ…“糊塗霧”を破壊されると移動が面倒になるんだがなぁ…はは、やってくれたな白いコテよ!」


そう言うと糊塗霧の顔面がぽろりとその場にこぼれ落ちる。って、何ぃ!!?


「何だ奴は!?」

「私もあんま知らない!!けど、確かえーっと…あのロボットは本体じゃなくって、あの顔の部分だけが本体!」


そう言われてよく見れば確かに、他の機械の部分と違って今外れた顔面部分は生身に見える。

そうか、大型のコテかと思ったら本当はジサクジエン型のコテだったのか…。


「この小さな相手二人なら何とかなるか…?」


考え事をしながらつい、ぽつりと私の口から漏れた言葉に、糊塗霧の額に大きな青筋が浮かんだ。


「…小さい、だと?」


メキメキメキメキ…。

地面が盛り上がり、それが糊塗霧を覆って行く。

徐々に形作られるその塊は人型をしていた。それも、筋骨たくましい大柄な体格の。

形成が終了すると、糊塗霧は先程乗っていたロボットとほぼ同等の身体になっていた。

…水の相性云々言ってたが…えー、五行的に水が弱いのは…土?あれが土の能力だって言うのか?


「この私を舐めた償いをして貰おうか、小僧ども。後悔させてやるぞ!!ぬぅううん!!!!」


っと、見とれてる場合じゃない!!私は慌てて走り出す。

彼女も同じように我に返って走り出す。それぞれ二人は別々の方向に逃げた。

二人同時に追いかけるのは流石に厳しいだろう。とりあえずは体勢を立て直し…


「ちょこざいなぁ…。土の力を舐めるなぁ!むぅん!!」


咆哮と共に糊塗霧の拳が地面に叩き付けられる。その衝撃でボコンッ!!とクレーターの様に地面が沈み込んだ。

と、同時に隣の地面からクレーターと同じ直径の土の柱がせり出してきた。

なんだ?一体何をするつもりなんだ?


「さぁー!行くぞ!金の能力者、siwasugutikakuni!お前の力も見せてやるんだぁ!」


糊塗霧の命令でさっきまで足元に居た灰色のコテ達、

siwasugutikakuniと呼ばれたコテが一斉に柱に飛びかかり、肘から先の刃で柱を斬り付けた。

たちまち柱には綺麗に切れ目が入り、それを糊塗霧が先程地面にしたのと同様、渾身の力で殴りつける。

すると、切れ目から綺麗に柱はスコーン!とダルマ落としのように飛び出し、こちらに向かってきたのだ。


「うぉおお!!?そんなのありかぁあ!!?」


糊塗霧は同じ動作を繰り返し、柱を作ってはあちこちに無作為に飛ばし続けている。

相手は移動していないが、凄い速さで飛んでくる土塊が私達どちらも追い掛けてくる。

これじゃ二手に分かれて逃げた意味はあんまりなかった!

あちこち破壊しながら飛んでいく土塊達。ついにそれらは私達の目の前にまで落ちてきて行く手を遮る。


「まーだまだぁ!!何せ私の能力は土ぃ!!こーんな風に形を変える事も出来るぞぉおお!!」


そう言うと同じく飛んできた土塊が空中で変形を始めた。

その形は手裏剣の様な物から丸鋸の様な物、モーニングスターの先の様な棘付きの鉄球の形にまで変化し、我々を襲う。

遠距離が強い攻撃の上、それなりの破壊力を持つ攻撃。

閃光騨とはまさに対極に位置する能力。奴らが二人で現れたのはそういう事か…!

ふと、逃げ惑ってるうちに二手に別れた彼女と合流してしまった。

と言っても二手に別れてる意味はあまりない。となれば協力して戦った方がいいだろう。


「おい!君の水で何とか出来ないのか!?」

「無理だよ!!悔しいけど本当にアイツが言ってた通り、水は土に弱いの!吸収されちゃって効かない!」

「だとしたら土への有効打はなんだ!?」

「木!…どうしようもないよ!」


確かに、私の能力は木の属性とは思えない。

それに仮に奴に私の能力をぶつけた所であの体格、無傷で立ち上がってきそうだ。

打てる手が無い…どうしようもない。状況は最悪だ。

しかし、勝つ事を考えなければ多少の目は無くもない。

相手の攻撃の速度は早い。が、相手その物は恐らく対してスピードがない。

だからこそ、移動せずに攻撃して来ているのだろう。

その上、大振りでとにかく広範囲遠距離を攻撃する技で来ているから狙いはそこまで正確ではないのだ。

だからこそ凄い速さで飛んでくる奴の土塊が今のところ私達に当たっていない。

とは言え、いつまでも逃げ回る程私には体力がない。そもそも閃光騨との戦闘の後で、正直結構バテて来ている。

奴の能力は炎だったから、近くで技を使われるだけでその熱で体力を奪われるのだ。

そういう所も攻撃力に特化してないが殺傷力は高いと思える相手だ。

ともかく、これから取れる手段は、どうにか上手く相手に目を盗んで完全に隠れて逃げ出す。

今回は逃げるが勝ちだ。対策してない状態で戦っていい相手では無かった。


「むぅうう!!当たらん!!全っ!!然っ!!当たらんぞおのれぇえー!!!」

「ちょっとことちゃーん!ねらってうってよー。にげられちゃうよ?」

「出来たら苦労などしないさ!!おのれぇぇえ!ぬぅうう!!」


相も変わらず相手の土塊はとにかく広範囲遠距離で飛んで来ている。

だが、それ自体も目隠しとなり我々の姿を隠してくれた。

お陰でくたくたになりながらも何とか私達は喫茶近くを抜け出し、この場を離れる事が出来たのだった。



つづく。


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