積んどく? 読んどく?

2009/11/03(火)12:05

柳広司 『ダブル・ジョーカー』

感想(581)

 日本陸軍における諜報機関の必要性を説いた風戸中佐。その提案は認められ、風戸自ら秘密組織を率いることになった。その名も「風機関」。だが、陸軍内部には既に「D機関」という秘密組織が存在していた。それは、どちらか一方が不要だということを意味する・・・(「ダブル・ジョーカー」)  『ジョーカー・ゲーム』に続く第二弾。期待していたとおりのおもしろさでした。 ●「ダブル・ジョーカー」  生き残るためには、相手を潰さなければならない。同じ任務を受けたとき、風機関はD機関に襲いかかった・・・「敵手」改題。収録作の中ではもっともD機関らしかったかもしれません。相手を出し抜くあたりは読んでいても爽快。今回は一冊通して風機関との対決かと思っていたのですが。 ●「蠅の王」  戦地を慰問する「わらわし隊」。その一行にスパイハンターが紛れ込んでいるという・・・騙しあいのおもしろさ。どちらが一段上を行くのか。暗号の渡し方をめぐる攻防の中で、「死ぬな」「殺すな」という考え方の意味がより浮かび上がってくるようでした。 ●「仏印作戦」  ハノイに赴任した通信士の高林は、D機関の極秘通信任務を引き受けることになった・・・見方が変わると見えるものが全然違うだろうことを想像させる一編。「まさか!」という感じ。こういった反転が巧みで舌を巻きます。 ●「柩」  ベルリン郊外での列車事故。事故死した日本人の真木をスパイだと、ヴォルフ大佐は考えた。なぜなら・・・結城中佐の過去が知れる一編。この出来事がかなり強烈なインパクトを残します。もちろん、真木の事後処理にも失敗するはずがないわけで、そのあたりも見もの。前作の「XX(ダブルクロス)」で見たような、結城中佐の人間的な一面をまたも見せてもらいました。 ●「ブラックバード」  二重経歴でアメリカに滞在する仲根。彼は西海岸を担当し、東海岸担当の外務省職員とは定期連絡をとっていた・・・繰り返される世界の反転がおもしろさの中心。ただし、たったひとつのミスが招いたラストの出来事が、なんとも微妙な余韻を持ってきます。  収録されたほとんどの作品が敵方からの視点であり、それによってD機関の凄みがより明確になるようなつくりです。敵方もそれぞれ各国のスパイだったりするわけですからかなり優秀。さらに出し抜くD機関はそれ以上、というわけです。  「ブラックバード」のラストで迎えた新しい局面は、おそらくD機関の存在意義を大きく変えるものでしょう。モデルになったと思われる陸軍中野学校は、ある時期からはゲリラ戦術の教育機関になったのだとか。ゲリラ戦術の持つ泥臭いイメージと、D機関のスタイリッシュなイメージとは全く合わないように思えますが、どうなのでしょうか。まだまだ続けてほしいところですが。未収録の短編もありますし。 収録作:「ダブル・ジョーカー」「蠅の王」「仏印作戦」「柩」「ブラックバード」 関連作:『ジョーカー・ゲーム』 2009年10月27日読了

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