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“黒猫の鈴”

チリン、チリン

チリン、チリン

闇の中には、風の音といくつもの鈴の音しかなかった。

それは、小さな合奏のように。

「黒猫が出たぞぉ―――!!!」

風の音といくつもの鈴の音の合唱の中に突如に男の叫び声が響いた。


そして、何十人もの人間が現れた。
人々は1軒の家の周りを取り囲む。
人々は厳しい目つきで、好奇の目つきで、恐れの目つきで、屋根の上を見上げた。
そこには何十もの鈴があった。
正確には、体中にいくつもの鈴をつけた女だ。
鈴以外の身につけているものが黒いので、黒が闇と同化し、鈴だけがあると言う錯覚を起こす。

駆けつけた見廻り組が群がる人々を押しのけながら進んでくる。
最前列に着いてから、「降りて来い、黒猫!!」と叫んだ。
そんな事を言われて素直に降りる人間がいるものか。
だが、黒猫と呼ばれた女は、屋根を力強く蹴り、宙へと舞った。
人々は、黒猫の姿を見つめた。
黒猫は、本当の猫のように、鮮やかに、しなやかに、誰もいない地上へと降り立った。
群がる人々はもう後ろ。
最前列にいた見廻り組は、周りの人間のせいで身動きがとれず、「誰でもいい、捕まえろぉ!!」と叫ぶ事しか出来なかった。
周りに集まった人間は、誰も動こうとしなかった。
ただただ走り去る黒猫の姿を見つめていた。

黒猫は、ものすごいスピードで夜の通りを走り抜けていった。
どんな走り方をしたら、鈴を1つも鳴らすことなく走れるのだろう。
そして、それはあっという間の出来事。
あっという間に走っていた黒猫の姿が消え去ったのだ。

やっと、身動きがとれるようになった見廻り組達は黒猫が消えた通りを恨みがましく見つめる事しか出来なかった。


殺し屋の名は、響崎 鈴香(きょうざき すずか)。
通り名は、“黒猫”。
彼女は、身体を黒い布でおおい、耳に首に肩に二の腕に手首に腰に鈴をつけて仕事をする。
故に黒猫。
自分に不利にならず、大きい権力を持たない者しか仕事を受けないのが基本である。
殺しの方法は、いたってシンプル。
依頼されたターゲットと邪魔になるであろう人間の喉を刀でパックリと切り裂くというものだ。
黒猫は、江戸を拠点に仕事を行う。
今日もまた自分の住処へと戻る。


身長170cmほどの優男がまだ日が出てないのに玄関を開ける。
「鈴ちゃん、お帰り~。」
そう言って、闇の中から黒猫を家へと招いた。
「ただいま。」
透き通った鈴のような声。
黒猫の声はそんな声だった。
そして、敷居をまたぎ、屋内へと入る。
優男は、さっさと玄関の戸を閉めて、黒猫の後ろに続き、座敷へと上がる。

「お仕事お疲れ様。お風呂入る?今回は、あんまり血ついてないね。」
「うん、風呂入ってくる。起きて待っててくれて有り難う、爽。」
そう言って、黒猫は奥へと消えた。

優男の名前は、速水 爽(はやみず そう)。
爽が殺しの依頼を受け、それを黒猫が行うと言う形でこの殺し屋家業は成り立っていた。
彼らは、完璧な夜行性で、仕事は確実に暗闇の中で行っていた。
昼は昼で別の仕事があるようだが。

10分も立たないうちに黒猫は、普通の女子の姿になって奥から出てきた。
手に大量の鈴を持って。
そして、床に座り込み、丁寧に鈴についた返り血を拭き取り始めた。

「その様子だと、いつも通り成功したようですね。」
「うん、ちゃんと見廻り組も撒いたよ。」
「そりゃぁ、鈴ちゃんは走るの速いですから。」
「まぁね。明日の仕事は入ってる?」
「勿論。」

チリン、チリン

「よし、出来た。」
鈴香が、全て拭き終わった鈴をかかげて言った。
「じゃぁ、僕寝るね~。」
「うん、おやすみ。」
「おやすみ。」

鈴香は、いつも玄関に1番近い座敷で寝ている。
自分の愛刀を抱きながら。
いつ誰が入ってきてもすぐに対処できるように。

そして、今夜も何事も無く、朝日が昇る。

そして、それは夕日となって帰っていく。
かわりに空には、月と幾千もの星が。

「今日は、前川邸の当主、前川 菊衛門を。」
淡々と爽が黒猫に告ぐ。
黒猫がコクリと頷くと鈴が鳴った。
そして、音も無く夜の通りを走り抜ける。
爽は、空に浮かぶ三日月を見上げ、「お仕事頑張ってください。」とさっきまでそこにいた人間に向かって言った。

前川邸には、もう、いくつもの水溜りができていた。
それは、血で作られた真っ赤な真っ赤な水溜り。
そして、それは奥へ行くほど増えていく。
通路に、点々と地の跡と赤黒い足跡が進んでいった。

そして、この家で1番大きいであろう部屋に今夜のターゲットがいた。
さっきからの悲鳴はここにも確実に届いていたであろう。
まぁ、悲鳴と言っても大きな声を出される前に喉を切り裂いてしまうので完璧な悲鳴とまではいかないものばかりだが。
そのターゲットの男は、部屋の奥の椅子に臆することなく、堂々と座っていた。
なんと殺しやすい。そんな事を考えながら、だが、慎重に男に近づいていった。

そして、何故男が逃げも隠れもせずにそこにいた理由がわかった。
分かった瞬間、勢いよく近づいてくる気配を後ろに下がって避けた。

殺し屋には殺し屋を。
(時々いるんだよなぁ、こういうの。どこからか事前に情報がばれてしまって、自分も殺し屋を雇って私を殺すよう依頼する奴が。)

そして、窓から入ってくる月明かりを頼りに相手を見た。
一目見ただけでそいつが誰だか分かったようだ。
犬のしっぽのような髪を後ろで束ね、この時代では珍しい白いワイシャツに黒のネクタイそして黒いズボン。
両手には、2丁の拳銃。
「“猛犬”。」
「そ、よく分かったね、“黒猫”ちゃん。まぁ、こんな格好してるのは俺ぐらいだろうけど。」
黒猫が無言で猛犬を睨む。
“猛犬”とは、目の前の殺し屋の通り名だ。
「あのさー、あの人殺すの止めてくれない?」
「断る。」
「だろうね。」

そう言って、猛犬は自分の牙である拳銃を黒猫の眉間に押し当てた。
「じゃぁ、死んで。」
猛犬が引き金を引こうとした瞬間。
黒猫は、素早く猛犬の目の前から姿を消し、次の瞬間には猛犬の後ろに回り、愛刀を猛犬の喉と1cmも離れていないであろうところで止めた。
「それも、断る。お前が死ね。」
「やーなこった。」
猛犬は、肘を相手に食らわそうと腕を思いっきり引いた。
黒猫は、とっさに刀をもどし、猛犬と間を空けた。

「銃相手に間を空けてどうすんの。」
「私は速い。」
「あぁ、そう。」
猛犬が黒猫に向かって構えた瞬間、黒猫の姿が消えた。
そして、猛犬の背後にその姿を現した。
だが、猛犬は、背後に現れた黒猫のまた後ろに現れた。

「アンタさぁ、暗殺型じゃん。暗殺型がこんなにジャラジャラ鈴なんかつけて何するの?」
首にたらしていた鈴を持ちながら、猛犬が言った。
「私の鈴に触るな、下衆野朗!!」
黒猫は、怒ったように背後の猛犬に向かって刀を突き刺した。
だが、猛犬はもうそこにはおらず、黒猫の前へと回り込んでいた。
「あらら、ちょいとご乱心?それ大事なものなの?」

黒猫は、それに答えようとはしなかった。
必死に戦い方を考えていた。
(コイツは速い。私と同じぐらい。いや、私よりも。・・・・!!)
黒猫は、何を思ったのか猛犬に背中を向け、走り出した。
「何、逃げんの?」
猛犬はその背中に弾を打ち込む。
黒猫は、ふりかえる事もせず、それを全て避けた。
黒猫の向かった先は、出口ではなく、今夜のターゲット・前川 菊衛門。

「ッ!!」
猛犬は、それに気付き黒猫の後を追った。
時すでに遅し、黒猫はターゲットの首に刀をつけていた。

猛犬は、黒猫の頭に拳銃の狙いを定めた。
「あのさー、その人殺されると俺困るんだけど。」
「いいえ、困らない。私は、仕事をこなせるし、アンタは依頼主がいなくなって私を殺す理由も無くなる。」
一瞬の沈黙。
その空間には、前川の荒い息だけしか聞こえない。
「プッ、アハハハハ。アンタ面白いわ。」
「たっ、助け」
次の瞬間には、前川 菊衛門の喉から赤色の水が勢いよく噴射していた。

「そうだねぇ、依頼内容で、守れなんて一言も言われなかったしね~。『“黒猫”を殺せ。』って言われただけだしね~。」
猛犬が喋ってる間に黒猫は、前川氏の着物の端で愛刀の血をぬぐい、出口へと向かっていった。
「アンタを殺す理由もなくなるしね~。」
「で、それは何のマネだ?」
振り返らずに黒猫が言った。
猛犬が黒猫に拳銃の狙いを定めていたからだ。
「理由がなくなったんじゃなかったのか?」
「ん~、俺アンタに興味持っちゃった。」

ピ―――・・・

「見廻り組?それにしては早すぎる。」
「俺が呼んだんだよ~ん。」
「は?」
「緊迫感あった方が燃えるだろ?」
「冗談じゃない。」
そう言って、黒猫は部屋から出、ものすごいスピードで出口へと向かって行った。
「あらら、逃げる気?」
そう言いながら、猛犬もついてきた。
出口へついた。
だが、そこには、見廻り組がビッシリと。

「――・・・」
「いっぱいいるね~。」
黒猫は猛犬を人睨みし、そして、出口へ向かった。
「正面から行く気?」
黒猫は答えず、外へ出た。
見廻り組が手に刀を持ち、こちらを向いている。
黒猫は、刀を抜かず鞘に収まったまま、見廻り組と対峙した。
そして、的確に鳩尾をついていった。
まだ、人数も少なかったので、軽々とその場を抜ける事が出来た。
そして、いつものように夜の通りを走る。
鈴の音を鳴らさずに。

「鈴ちゃん、お帰り~。」
いつものように黒猫を家へ招く爽。
だが、目は黒猫の後ろを見ていた。
「誰ですか、それ。」
黒猫は、その言葉で後ろを向く。
そこには、さっきまで戦っていた猛犬の姿が。
爽は、その姿で気付いたようだ。
「今晩わ~。」
間の抜けた声で猛犬が言った。
爽は、懐から短刀を取り出し、猛犬の首のすんでのところで止めた。
「猛犬が何の用ですか?」
猛犬は、二ヤリと笑うと黒猫の肩を掴み、自分の方に引き寄せる。
「コイツの恋人。」
とぬけぬけと言った。
黒猫は、驚いた顔で自分より10cm以上高い猛犬の顔を見上げた。
爽も、驚いた顔をし、短刀をしまって、黒猫を猛犬から離し、自分の方へ引き寄せた。
「勝手なこと言われると困りますねぇ。鈴香は俺にとって大切な娘(商売道具)なんで。」
黒猫は、今度は自分と同じぐらいの身長の爽の顔を見た。
「へぇ。」
猛犬が興味深げに爽の顔を見下ろした。
その顔に見覚えがあったからだ。
「まぁ、宜しくな。」
そう言って、ズカズカと屋内へと入っていった。
「ホント何ですか、あの人。」
呆れ気味の爽の声。
黒猫は、さっきのやりとりで(爽に久しぶりに鈴香って呼ばれたな。あー、『俺』って言ってたしなんかキレてた?)ぐらいの事しか思っていなかった。


今日もまた、日が昇り、日が沈む。

今日も黒猫は、鈴をまとい、暗闇をかける。

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疲れた・・・
2日にわたって書き上げたけど、疲れた・・・
何で恋愛要素が含まれてしまったのかわからんし。
鈴ちゃんがおかしいよ。
バトルモノ初めて書いたけど、すんごいわからん。
続き書けそうで恐い・・・




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