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“嗚呼、梶原三兄弟”


ある日、高校からの帰り道、珍しく、空(ヒロシ)、最(サイ)、昇(ノボル)の梶原三兄弟が一緒になった日のこと。
梶原家宅の扉の前に長男、空が立ち、ゴソゴソとカバンの中を物色する後ろで、次男、最と三男、昇が長兄が鍵を開けるのを待っていた。
次男が急かすようにスニーカーのつま先で長男の踵を無言で蹴り始めた。
ようやく、カバンの底から自宅の鍵を発掘した長男がそれを鍵穴にさしこみ、回し、鍵が付いたままの状態で扉を開けた。

「ただいまー、って誰もいねぇけど。」
「開けるの遅いんだよ、バカ兄。いい加減鍵ぐらいちゃんとしたとこいれとけよ。」
「ちょ、ヒロ兄鍵抜き忘れてるよ。サイ兄の言う通りだよ。せめて鍵ぐらいはしっかり管理してね。」
「おー、心に留めておこう。」

靴を脱ぎながら、持ち物の管理はしっかりしろという内容を、次男は暴言の如く、三男は説教の如く、長男に浴びせかけた。
言われている当の長男は、弟達の暴言も説教も面白いことであるかのようにニヤニヤと笑うだけだった。
この話は、次男の「いい加減にしないと、鍵、紐で首に括りつけるよ、空。絞まるほどにね。」という暴言というより、脅し文句で締めくくられた。
こんな会話いつものこととばかりに、長男がリビングのドアを開け、中に入り、それに次男、三男と続く。

「あれ?そういえば、今日の食事当番誰だっけ?」
「俺じゃねぇぞー。」
「僕も違うよ。」
「俺でもないし。」

そして、3人揃って、リビングの壁に貼ってある父親お手製の家事当番表に目をやった。
今日の日付のところに食事と赤で書かれているのを見て、三者三様に嫌そうな顔をした。
梶原家では、基本的に全ての家事を全員で交代制で行っている。
全員のある程度の予定を聞いた上で、父親の透(トオル)が週の始めに振り分けて、分担していくのだ。
水色なら父、紫色なら長女、青色なら長男、オレンジ色なら次男、黄緑色なら三男とそれぞれの色で書いていく。
そして、赤色は―――

「うげぇ、今日の食事当番母さんじゃん・・・・」
「帰ってこなけりゃよかったな・・・・」
「お腹は空いてるのに食欲なくなったよ・・・・」

ひどい言われようだが、実際に母親、静香(シズカ)の料理の腕前は父親や子供4人に劣るほどだった。
梶原家で1番料理上手なのが父親である。
母親の料理は実の息子達も避けて通ろうとするようなひどいものだ。
梶原家の裏手に住んでいる一家の長男に言わせると、「すごいですね、静香さん。4人育てた母親の料理とは全く思えません。食えたもんじゃないですね。」らしい。
ちなみにその後、その長男は静香本人から「余計なお世話だ、ボケ!!」という、怒号と共に最のものより強烈なパンチを食らった。
3人がソファに腰掛けながら、逃げるか我慢するかを考え始めた時に丁度、ケータイのバイブが鳴り始めた。
カバンの中で、ポケットの中で、手の中で。

「あ、姉さんからだ。」
「俺んとこにも来た。」
「僕にも。」

どうやら、長女、宙(ソラ)から弟達に一斉送信でメールが送られてきたようだ。

『夕飯友達と食べてくるから、アタシの分は全然全くこれっぽっちもいらないって伝えといてね☆』

締めは、『あなたのステキかつスバラシイお姉様より』だ。

「そういえば、今朝ソラ姉当番表チェックしてたよね。」
「うっわ、逃げやがったなお姉。」
「ステキかつスバラシイって凶悪かつ性悪の間違いじゃないの、姉さん。」

この姉のメールが逃げるか我慢するかで揺れていた心を決定させた。

よし、逃げよう。×3

3人の意見が合致した後は、行動が早かった。
3人共部屋に戻り、制服から私服へと着替え、サイフやケータイなどの最低限の荷物を持って、再度リビングへ。
机の上に積んであったチラシから裏に何も書かれてないものを選び、隅に転がっていた黒のボールペンで

『夕飯はいりません   
        娘息子一同』

と書いた。
そのチラシをドアから見えやすいところに置いて、部屋の電気を消し、玄関から外へと出る。
今度はもたつくことなく、長男がポケットからサッと鍵を取り出し、鍵をかけた。
なんだか3人共一仕事終えたような顔をしている。

「よし、外食だ。何食いたい?」
「んー、和食食べたいかな。うどんとか。」
「俺は肉が食いたい、肉、肉。」
「えー。」

こういう時に真っ先に主張を始めるはずの次男が珍しく黙っている。
よく見ると、ただ黙っているのではなく、熟考している。
長男と三男が「肉、焼肉、焼肉、焼肉!!」「和食、うどん、うどん、うどん!!」と言い争ってる隣で顎に右の人差し指の先をあてながらうーんと唸っている。

「ラーメンが食べたい・・・」
「「・・・・」」
「鳴門屋の大盛りチャーシュー麺が食べたい。」
「やき・・「うど・・
「ラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメンラーメン・・・・」
「「・・・・」」
「ラーメン!!ラーメン!!ラーメン!!」
「わかった、わかったからサイちゃん道のど真ん中でラーメンラーメン言いながら、腕を振り回すな。」
「うん、僕もラーメンでいいよ。どうせ、勝てないし。」
「あー、じゃぁ俺もラーメンでいいや。鳴門屋行くぞー。」
「ヤッホー、ラーメン!!お金はヨロシク、空!」
「はぁ!?」
「あぁ、うん、ヒロ兄お金よろしく。」
「いやいやいやいや、ないから。お前らサイフ持ってるだろ。」
「お兄ちゃんヨロシク!!」
「ちょっとサイちゃんそんな親指立てながら、お兄ちゃんなんて言われても・・・」
「「アリガトウ、お兄ちゃん!」」
「えー、ちょっとお前ら・・・」
「さー、行くぞおごりのラーメンだ昇。」
「そうだね、サイ兄。ヒロ兄のおごりのラーメンだ。」
「ちょっとー、最くん昇くん・・・」








「あ、アイツら逃げやがったな。」

三兄弟が長男のお金で腹いっぱいラーメンを食べている頃、長女が酔っ払い始めた頃、机の上に置いてある書置きを見ながら、スーパーの袋を持った静香が呟いた。


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よし更新しようと思って、書きかけの長くするつもりの仕上げるより、短いのかいたほうが楽だと感じた今日この頃。
新平やら亮介やら友達の全く出てこない梶原三兄弟のみでお届けしておりますー。
短編ってことで、文章の形式変えちゃえーってことで、若干神月に優しい感じになってます。
最ちゃんの心情メインにすると話逸れるぜ。


梶原三兄弟は基本的にそこはかとない奔放さで構成されてますが、軸はだんご三兄弟ノリ。
弟思いの長男、長男♪兄さん思いの三男、三男♪自分が一番、次男、次男♪
な感じで。
おかんの料理が壊滅的なこととか、三兄弟のグダグダな感じ書けてよかった。
多分、姉ちゃん入ってくると力関係変わりますね。

この後、帰宅したお父さんは嫁の料理を食べるはめになります。
もう、付き合い長いのでいろいろと諦めの境地です。






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