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それは、双丘 万里(ふたおか ばんり)、双丘 杏里(ふたおか あんり)、梶原 宙(かじはら そら)が高校1年生の時の話。
ちなみにこの時、梶原家次男坊、梶原 最(かじはら さい)は、小学2年生だ。
あれは近寄らない方がいいものだと、隣の双子の認識を改めた頃である。
梅雨時には珍しく、カラリと晴れた6月の平日、放課後のこと。
校舎裏という、ベタな場所で賢そうな顔をした地味めの男子生徒が一人、誰かを待っているような様子でしょざいなさげに視線をあっちへこっちへと彷徨わせていた。
ソワソワとしながら、あーだうーだと唸っている。
どこからどう見ても、挙動不審だ。
その姿を陰から隠れて見ている者が一人。
時計を見て、よしそろそろ行くかと制服のスカートの襞を手で直し、手鏡を見ながら髪のチェックをし、最後にこれで良しとばかりに靴下を整えていた手で膝を叩く。
そして、男子生徒の前に堂々と歩いて行く。

「お待たせ。」

少し低い声。
口元にはニコォと笑みが浮かんでいる。
男子生徒がそれを見て、顔を真っ赤にしながら口を鯉のようにパクパクさせてから、どもりながらも喋りだす。

「あっ、あ、の、手紙の返事聞かせてくれるかな、双丘杏里さん。」

それを言われた方は、笑みを引っ込めて、名前を言うと共に俯いてしまった男子生徒の頭上から声を落とす。
少し呆れたような響きと共に。

「ねぇ、緊張してるのはわかるのだけどね、好きな人は間違えるべきではないと思うよ、僕は。ねぇ、山本文高(やまもと ふみたか)君?」

男子生徒が真っ赤にしていた顔を今度は真っ青に替えて、おそるおそるといった感じで顔をあげる。

「も、しかして、・・・双丘万里君・・・?」
「大正解☆」

男子生徒もとい、山本文高が見上げた先にいたのは、待っていた双丘杏里ではなく、その杏里と顔のそっくりな双子の弟の何故か女子の制服を着て、おまけに軽く化粧までして、ピースサインまでしている双丘万里だった。


“双丘万里とカワイソウナヒトの話。”


「何で双丘君?」

さっきまで、向かい合って立っていた2人だったが、今は校舎の壁に寄りかかって座っている。
万里の方は、スカートで胡坐をかいているので、トランクスが丸見えだ。

「んー?」
「いや、僕ちゃんと双丘さんのゲタ箱に手紙入れたはずだけど。あと、何で女装?」

そう言って、文高が怪訝そうに万里のスカートから生える両足を見た。

「あ、僕のことは、万里でいいよ。みんな紛らわしいから、下の名前で呼ぶしね。もしくはA、B。君のことも文高君と呼ばせてもらうよ。」

と、全く言葉のキャッチボールをする気のない返答をする。

「あの、だからね、何で双・・・万里君が来てるの?」
「あぁ、うん。文高君、杏里にラブレターあげたよね。ゲタ箱というベタなところに入れて。」
「や、だからさっきからそう・・」
「杏里さ、面と向かっての告白以外無視だから。」
「え・・・」
「ラブレターもらったら、読むことは読むけど返事なんかしないよ。好いてくれるのは有難い話だね、だが、それがどうした、な感じだね。」
「マジですか。」
「超マジだよ。」

それを聞くと、文高が目に見えて項垂れる。

「あー、じゃぁ、フラれちゃったのかー。」
「いやいや、フラれるも何も君は返事を貰えるところまできてないからね。告白自体無視だよ。返事が欲しいなら直接来いみたいなね。」
「え」
「恥ずかしいのもわかるがね(実際よくわからんが)、杏里はそういうやつだからな。」
「はぁ。」
「まぁ、内容自体は悪くなかったよ。さすが現国の藤枝(ふじえ)ちゃんも大絶賛するほどの文才だな。」
「え、読んだんですか?」
「読んだよ。」

悪びれもせず、親指を立てながらいい笑顔で返す万里。
一方の文高は文字にするとうわちゃーというような複雑な顔をしている。

「プライバシーとかは・・・」
「うちの姉弟には存在しない言葉だな。あと、宙も読んでたな。」
「いや、僕のプライバシー・・・って、梶原さんも・・・」
「まぁ、そういうことを言いふらすような、趣味は僕らにはないから安心したまえ。」

むしろ、万里(+杏里、宙)は仲良くなった者の恥を面白おかしくばらまく方だ。

「いや、うん、それはそうしてもらえると嬉しいんだけど、なんか違う気が・・・」
「ちなみに、杏里も文章自体には感心してたな。あれをそのまんま口で言ったら、よかったんじゃないか?」
「その勇気がないから、手紙にしたんだけど・・・って、直接じゃないとダメなんだね。」
「そもそも、何で杏里が好きなんだ?僕が言うのもあれだが、君は変わり者だな。趣味悪いのか?」
「趣味悪いって、自分のお姉さんなのに。」
「僕は、杏里のことはほとんど性別の違う僕がもう一人いるという風に思ってるからな。だから、根性悪いのも理解しているし、常識的に変なのも理解している。姉として友人としては大好きだが、異性として好きになる奴の気持ちはわからないな。あれのどこがいい?顔か?中身だって宙と似たようなものだろう。2人共質が悪い。」
「何で好きか言うべき?好きな人の弟に?」
「あぁ、言うべきだ。言った方が君のためになる。」
「あー、んー、なんかね、笑顔がステキだなって。ちょっと一目惚れに近かったんだけど。」
「笑顔なら、僕も同じ顔して、意地が悪そうに笑うぞ?」
「や、万里君男じゃん。しかも、意地が悪そうって。」
「で、それだけ?」
「それから、隣のクラスだからよく合同授業になるよね?」
「そうだな。」
「その時に聞こえてくる、笑い声とか楽しそうにしてるの見て、あぁ好きだなぁって思ったりする、かな。」
「ふーん。」
「あと、梶原さんも同じような性格って言うけど、梶原さんはなんかちょっと違ってお姉さんって感じがするよ。だからちょっと苦手かな。」
「まぁ、三兄弟の姉だからね。」
「へー、そうなんだ。」

そう言いながら、万里の頭には怯えたり、威嚇したり、笑ったりする隣のチビ三兄弟が浮かんでいた。

「んー、何故お姉さんで苦手?」
「うち、梶原さんとは逆で姉が3人いるんだ。なんていうか、こう逆らえない感じでね。だから、お姉さんって感じの人は、ちょっとね・・・」
「ふーん。」

杏里もほとんど三兄弟の姉みたいな感じだけどなとまで考えてから、その考えを改める。
あそこまでいじりたおしていたら、さすがに違うな、と。
適切な言葉を探すため考え込み始めた万里に文高が問いかける。

「ってか、ホントに何で女装して万里君が来たの?」

考えるのをやめ、スカートの裾をつまみながら答えた。

「女装は、こっちの方が面白いかなと思ってね。」
「僕は何にも面白くなかったけどね。」
「僕は面白かったが?あと、趣味だ。」
「趣味!?女装が?」
「あぁ、そうだ。あと、何で僕が君を手紙で呼び出してまで来たのかと言うと。」
「あ、そういえば、手紙に苗字しか書いてなかった。てっきり、双丘さんかと・・・・」
「嘘はついてないだろう?僕だって双丘だ。ちょっと、君にアドバイスをあげようかと思ってね。」
「アドバイス?え、もう、フラれた
「いや、だからフラれてもないからね。」
「あ、そうか。え、でも、アドバイス?万里君が?」
「そう。おかしいかい?」
「や、なんか普段からすごいベッタリ仲良さそうだから、てっきり僕に諦めさせようとしてるのかと・・・」
「仲良さそうじゃなくて、正確には実際ベッタリ仲が良いんだよ。あと、僕は、杏里と違うからね、そういうことはしないよ。」
「え、違うって何が?」
「僕は、相手が土俵に上がってくるまで邪魔はしないよ。杏里は、大体相手が土俵に上がってくる前に蹴散らそうとするケドね。」

へぇ、そうなんだ、とあまり理解できてない調子で文高が返す。
それに、うん、そうなんだよ、とニンマリと笑いながら、万里が返す。
それから、おもむろにスカートのポケットから鮮やかなブルーの携帯電話を取り出した。

「よし、アドレス交換しようか。ケータイ持ってるかな?」
「持ってるけど・・・突然だね」

そして、文高もズボンのポケットから白の携帯電話を取り出した。

「やはり、協力するには知っておくべきだろう。赤外線機能はついているかな?」
「協力・・・」
「む、何だい、杏里は諦めるのか?」
「やっ、諦めないし、まだ好きだけどっ!!」
「よし、それならいいじゃないか。僕が送信するから、君は受信ね。」
「あっ、うん。」

少し放心気味で携帯電話の操作を行う。
何かが引っ掛かっているような、そんな顔をしているようにも見える。

「よし、送信と。次、反対。」
「うん。」
「「・・・・」」
「よし、OKだ。では、これからよろしくな文高君。」

そう言って、立ち上がり、座っている文高に向かって手を差し出した。
その手をとって、文高も立ち上がりながら、少し腑に落ちないような感じで、しかし、ハッキリと

「うん、よろしく。」

と返した。
万里がスカートについた土をはらってから、

「じゃぁ、杏里達が待ってるから今日はこれで。」
「あぁ、うん、さよなら。」

手を振る文高に背を向け、2、3歩進んでから、何かを思い出したかのような顔でなんか見落としてるような・・・ということを考えていた文高を振り返った。

「そうそう。」
「え、何?」
「さっきの話の続きだけど、杏里は土俵に上がってくる前に蹴散らしちゃうけど、僕はちゃんと相手が土俵に上がってくるまで待つよ。」
「うん?」
「僕は、上がってきてから全力で潰しにかかるんだ。」
「え・・・?」

そして、さっきまで見せていたニコォや、ニンマリではない、隣の三兄弟が見たら、恐怖にひきつるような、お気に入りの玩具を見る時のような笑顔を顔いっぱいに浮かべる。
ゾクゥと、文高の背に嫌なものがはしる。

「だから、早く土俵に上がっておいで、文高君?」

そう言い残し、ニコォと言う笑顔に変え、手を振って去って行った。
後に残されたのは、何か合点のいったような、されどどこか悲壮感の漂う顔の文高1人。


お父さん、お母さん、そしてお姉ちゃん達――――
僕はこの恋を諦めた方がいいような気がします・・・・・


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ってなわけで、万里高校時代の話。
今回スゴク早く書ききった。
書き始めたのが午後8時で書き終わりが次の日の午前6時。(寝ろ
珍しくオチまでネタ考えたよ。
最後の万里のセリフ言わせたいがための小説ですね、もう。(ぇ
すげぇ、万里らしく勝手に進めてる。
女装はもう趣味なんで、ね。
この後、万里は女子制服のまんま、杏里は男子制服のまんま、宙と3人で空手道場まで行きます。
本人達全く、気にしてません。
中性的な顔ってことになってますから、まぁ大丈夫だろと。
行った先の道場で、修一とか三兄弟から「うげぇ」という歓声をもらいます。

カワイソウナヒト呼ばわりの山本文高君。
実際、このネタのために作られたかわいそうなキャラ。(ぇ
まぁ、せっかくなのでまた出てきます。(断定で

ちょっと、双子ABの口調めんどくさいと思った今日この頃。(オイ


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