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空の遊戯館

空の遊戯館

今昔平世蓮想(未完成)


夕飯を手早く片付け、自分の部屋にもどる。

何気ない動作で自分の部屋のドアを開ける。

すると、そこにあるのは見慣れない小包が一つ。



……なんだろう。

宛先は確かに僕になってるけど……

それに、配達物が来たのなら玄関で物音がして気付くはずだし。

見たところ、印鑑も配達手続きをした後もない。

一体だれが、僕に、そして何を……?


どうしても中身が気になる。

普段なら、開けると不当請求なんかが来る可能性もあるから開けない。

けど、あまりにも気になったから、小包を開けて中を見ることにした――








  
    今昔平世蓮想














時は、深夜0時半。



神社の、境内への階段を登っている。

小脇に抱えているのは、新品のまっさらなノート。

小包の中に入っていたものは、これだけだった。

唯一の手掛かりは、ノートと一緒に入っていた紙切れ。

それには、女の人っぽい字体で「子の一つに、近くの神社に行け」という内
容が書いてあった。

だから今、こうして神社の階段を登っている。



……なんで、神社なんだろう。

足を動かしながら、脇に抱えてるノートを見る。



一昔前は、「大学ノート」と呼ばれて学生がみんな使っていたらしいこのノート。

もっとも、今は紙そのものが物凄く高価だから、学校で使う人なんて誰もいない。



今は、かつて紙を使っていたもののほぼ全部が他のもので済んでしまっている。

むしろ、昔はみんな紙でやっていたということ自体が不思議だ。



というのも、紙の原料としていた天然・または栽培の植物がみんな絶滅してしまったのも紙が使われなくなった大きな要因らしい。

かつて、大戦争で一度だけ使われた原子力を使用した爆弾で壊滅した土地で唯一生き残った植物は竹だけだったらしい。

その竹すら、今では自然のものを見ることはない。

竹も、絶滅してしまったと記録には残っている。





……と、ここまで話が広がったけど、こういった「昔の話」というのも、僕が実際に体験したわけじゃない。

みんな、色々な人から聞いたり、歴史として学んだりした内容だ。

つまりは、ただの伝聞情報なんだけれども。





でも、その「昔の話」を聞くと、いつも僕はこう考えてしまう。



『今と昔、どっちのほうが良いのだろう』と。




「今」は、それまでとは比較にならないくらい科学技術が進歩している。

また、それに応じて学問もより多種多様・専門的学問などが増えている。

精神学などの認識も、少し前とはだいぶ違うらしい。



僕は文系科目を受講する学生だけど、専修科目は特に決めてない。

…一度、相対性精神学でもやってみようとは思ったけど。

どうやら、僕には合わなかったらしい。



……それはともかく。

「今」は科学を筆頭に色々と進歩している。

しかし、さっきの植物の話のように「自然」がない。



……あるのは、人工と合成だけ。



「かなり昔」は、科学技術が無い代わりに、自然があった。

もちろん、今の僕なんかが科学技術から離れたら生活はできなくなってしまうけど、それでも一度は「自然」を体感してみたいとは思う。

「今」は、科学ばっかりで自然がない。「昔」は、自然はあるけど生活できない。

科学と自然、両方が少しづつ存在する「少し前の昔」が一番いいんじゃないだろうか。



と、またそんなことを考えているうちに、階段を登りきった。
視界が急に開ける。



月明かりに照らされて、神社の境内はライトがなくても良く見える。

そういえば、今日は満月だったなと思って空を見上げると、見えるのは満天とまでは言えないけれどもよく見える星空と満月。

今日の満月が少し紅く見えるのは、多分気のせいだろう。



そんな月明かりに照らされた神社をざっと見回してみると、そこには、二人分の人影が。

遠目に見て、多分二人とも女の人。

何か会話してるみたいだけど、聞き取ることはできない。



……あれが、この時間に僕をここに来るように知らせた人なんだろうか。



とりあえず、近づいてみることにした。












「ねぇ蓮子、本当にここなの?」

「ええ、間違いないわメリー。写真に写ってるのはここよ。もっとよく探してみて。」

私は蓮子に促されて、辺りに何かないか探し始めたわ。




私は、マエリベリー・ハーン。この町でオカルトサークルをやっているわ。

普通のオカルトサークルとは違って、私達のサークルはまともな霊能活動を行っていない、所謂不良サークルなんだけど……。それにサークルって言っても、サークルメンバーは二人だけだけどね。

「……それで、この前見た夢の話を、もう一度だけしてくれない?確認がしたいのよ」


そんな事はどうでもいいけど、実は私には凄い能力があるのよ。うちの家系は昔から霊感はある方だったみたいだけど……。

私は、世界中の結界、つまり境目が見えてしまうの。サークルは結界の切れ目を探しては、別の世界に飛び込んでみるのよ。神隠しって奴かしら?


……禁止されてるんだけどね。
ただ最近私は、色んな世界の夢を見るようになってきて……


そのことを蓮子に相談したら、こうやって言われたわ。
「夢と現実は違う。夢は現実に変わるもの。夢の世界を現実に変えるのよ!」ってね。

私達秘封倶楽部―――さっき言ったサークルの名前よ―――は今、その「夢を現実に変える」ためにここ『博麗神社』に来ているわ。蓮子によると、ここに「夢の世界の入り口」……つまり結界の境目があるらしいの。

これまでも何度も色々な場所に出かけたり別の世界に入ったりしたけど、その情報を集めてくるのはいつも蓮子よ。蓮子によると裏のルートで集めてるらしいけど、私には知りようもないわ。


「……0時31分25秒。もうここに着いてから27分11秒経ってるけど、まだ見つからない?メリー」


さっきから私が蓮子と呼んでいる彼女は、宇佐見蓮子。同じ大学の、私達のサークル・秘封倶楽部の一人よ。とは言っても、そもそもサークルメンバーは私と蓮子だけなんだけど。いつも蓮子が結界について調べてきて活動を決めるから、サークルは蓮子の考え一つで活動していると言っても過言じゃないと思うわ。

そんな彼女は、私が文系の相対性精神学を専修科目にしているのと反対に、理系の超統一性物理学を専修に取っているわ。最近は「ひも」の研究をしているらしいけど……、今日のこととは直接は関係ないわね。

……そうそう。蓮子も、普通の人にはない能力があるのよ。蓮子は、空の星の動きを見ただけで今の時間が、月の輝きを見ただけで今いる場所が正確にわかるらしいわ。天文学者でもそんな正確にわかりっこないのにね。気持ち悪い。……唯一、あの夢の中では、一度だけその能力をうらやましいと思ったけど。


「それらしいものはちっともありゃしないわよ、蓮子?それとも、神社の建物の中にも忍び込むつもりなの?」

「私が調べた所では、中じゃなくてここに境目があるはずなの。メリー、あたりの物を動かしたりもしてもっとよく探してみて。」

蓮子は「調べる」なんて簡単に言っちゃってるけど、そうやって色々といじるのも大変なのよ。蓮子はいつも見てるだけだし。
まあ境目が見えるのは私だけだから仕方ないとは思うんだけど、前に蓮台野で墓荒らしの真似事をした時は本当に気味が悪かったわ。



とりあえず周りをもっと目を凝らして見て境目を探していたら、私はある一つの事に気付いたわ。
それが一体いつからそうなのかはわからないけど、深夜で暗かったせいでこれまで気付いてなかったのは確かだわ。


「どうしたの、メリー?急に立ち止まっちゃって」

「ちょっと待って蓮子。……あそこに、誰かいるわ」

「まさか、こんな時間に?あの人じゃないだろうし……」


私達がそれを見て驚いてたら、その人影がだんだん近づいてきたわ。
ひとまず一目見てわかったのは、人影の正体が私の知らない少年だったこと。蓮子の反応からして、蓮子の知り合いでもないみたいね。

その少年は、脇に一冊のノートを持っていたわ。
少年の持つそのノートの表紙の色は……最近の私のカラーコンタクトと同じ色、私の好きな色。
……赤と青の二色からなる色、紫色。

そのノートを持った少年は、私達の前まで来て立ち止まったの。
そして一呼吸置いてから、こう話しかけてきたわ。






「あの、……僕をここに呼んだのは、貴女達ですか?」
















……やっぱり、いきなりこんなことを聞くのはまずかったかなぁ。

なんか困った顔をしてるってことは、やっぱり違うんだろうか。



……もし違ってたらどうしようかな。

そもそも、こんな時間にこんな場所に呼ぶ時点でおかしいし。

もしこれで呼び出した人が現れなかったらどうなるんだろ。

ある意味で怪奇現象じみたこの一連の出来事は。

そうであると仮定したら、このノートはどうしてくれようか。

……あぁもう、自分で考えておきながらだんだん考えがまとまらなくなってきたぞ?

人の仕業にしろ妖怪の仕業にしろ、その目的はちっともわからないし。





そんなことを考えていたら、僕が話しかけた恐らく僕より年上であろう二人の女性のうち、金髪のほうの女性が僕の最初の質問に答えた。

金の髪に紫の瞳、そして手に持った日傘。なんだか、不思議な雰囲気の人だ。

「残念だけど、私達は貴方のことは知らないわ。私達は、私達の目的のためにここに来ているの。」

「……目的、って?」



当然の疑問を口にする。

でも、つい「って?」なんて聞き方をしちゃったなぁ。初対面の人に。

そこだけは反省。


「私達は秘封倶楽部。この冥な街でオカルトサークルをやっているのよ。今はその活動中」


今度は、黒い帽子を被っているほうの女の人が返答してくれた。

黒帽子に黒い上着という服装が、夜の境内に半分くらい溶け込んでいてミステリーっぽいイメージを与えてくれる。



そうこうしながらも、彼女たちは自分達の説明を僕にしてくれた。

……一部、一般からはかけ離れてるような内容もあったような気もするけど。



とりあえず、話を聞いているうちにわかったこと。



まず、彼女ら二人はオカルトサークルの活動のためにこの神社に来ているということ。

そのサークルは、メンバーが二人しかいないこと。

これまで、活動として他のオカルトサークルがやるような降霊などの霊能活動を全くやってないから、世間からは「活動をしないで集まってるだけの不良サークル」と呼ばれていること。

二人がお互いのことをメリー、蓮子と呼んでいること。

……そして、二人がここに来た目的の詳細については、教えてくれなかった。





代わりに僕のほうも軽く自分について喋った。

…名前、そういえば言いそびれちゃったな。



まず、僕がこの近くの学生であるということ。

文系に所属してはいるけど、これから先の専修科目を決めていないこと。

今日の晩、自室に戻った謎の小包が置いてあったこと。

中には、一冊のノートと「深夜0時半に一番近くの神社に行け」と書かれた紙切れが入っていたこと。

一番近い神社が、ここ『博麗神社』であったということ。

……そして、指示通りに来たら、二人に会ったということ。






「……なるほど。不可解な点は多いけど、貴方の事情はわかったわ。」



どうやら、納得してもらえたようだ。

でも、やっぱり完全に合点がいったわけでもないみたいだ。

そりゃあ、僕自身だって未だよくわかってないんだし、わかるわけもないか。



「それらのことについて、貴方は思い当たることとかはないの?」

「う~ん…、何しろあまりにも唐突だし……。それに、こんな女の人っぽい字を書く知り合いもいないし。」

「その紙切れとノートを、私達に見せてくれないかしら?」

「ぁ、うん。どうぞ。」



とりあえず、僕ではわからないけど彼女たちなら何かわかるかもしれないし渡してみた。

別に、他人に見せちゃいけないものでもないだろうと思うし。



……二人にそれらを手渡した直後、紙切れを見てひどく驚いたように見えたのは、気のせいだろうか。





彼女たちが僕の持っていたノートと紙切れを手に話し合っているのを注意深く見ていて、やっぱり思うこと。



――とても、不思議な人たちだなぁ、と。



どこがどう不思議かはひとまず置いといて、二人について気になる点もいくつかある。



まず、見た目の雰囲気。

二人とも、一般の人々とは少し違うような、ミステリアスな感じがする。

それに、手に持っている荷物などから言って、まるで『これからどこかに出かける』かのような感じだ。

深夜なのに日傘を持っているのも気になる。

でも、この神社自体が周りの住宅地から離れた山の中にあるから、ここから出かけるというのも変だと思う。

……なんで、こんな深夜に、人里離れた神社に?



もう一つ。

彼女達は、自分たちをオカルトサークルだと言った。

そして、まともな活動を行ったことがなく、不良サークルと呼ばれているとも言った。

けれども、彼女達は僕と会ってすぐの時に、こうやって言った。

「今はサークルの活動中」、と。

まともに活動しないサークルなのに、何故今はここで活動しているのか?

僕が考えたその答えとしては、それは恐らく……








「私達にも、これについてはわからないわ。二人で相談してみたんだけど…」

「あの…、蓮子さん?少し、尋ねてもいいですか?」


僕は、思い切って聞いてみることにした。


「別に構わないけど……、わざわざ敬語で話さなくてもいいわ。貴方の普段の口調で話してくれたほうが、こっちも気持ちがいいから」


あちゃー、気を使ったつもりだけど返ってそう言われてしまった。

……って、そんなことは比較的どうでもいい。

それより、本題を早く言わないと。



「それじゃあ…。蓮子さんたちがここに来た理由って……、もしかして『現世と別世の境界』を越えるため?」

「……なぜ、そう思うの?」

「理由は……、…まず、最初に、まともに霊能活動をしないサークルだと言っていたよね?でも、それとは別に一番最初に僕に向かって『今はサークルの活動中』とも言った。そして、自称オカルトサークルだとも言った。つまりそれは、『一般のオカルトサークルとはかけ離れた活動をしている』って事だと僕は考えた。それも、世間に活動内容が全く知られてないってことは、世間に知られてはならない……つまり、禁止されている内容の活動なのかな、と。そこから考えて、思い当たったのが世界各地にあるという結界のことだったから。前に、この神社には別の世界への入り口がある、と聞いたことがあったし。」

「……。」


特に何か言うこともなく、彼女達は僕の話を聞いている。

当たっているのか、それとも全くの検討違いなのか。それはわからないけど、僕は続ける。


「…それに、その日傘。ただ夜の神社でサークル活動するだけなら、日傘なんて必要ないはず。つまりそれは、『これから日傘の必要などこかへ出かける』ということ。こんな山の中にある神社から行く場所なんて、それこそ別世界くらいしかあいと思ったから。」


ここで僕の話は終わり、彼女達は二人でひそひそと話し始めた。

それが何を意味するのか、何を言っているのかはわからないけど、返答が帰ってくるのを僕は待つ。

暫くして意見がまとまったようで、二人は僕に話し出した。



「……そう。貴方の言うとおり、私達は各地の結界を暴くサークルよ。今日ここに来たのも、結界の境目を見つけて、そこから結界の向こう側へ行くためなの」

「それにしても、驚いたわ。まさか、ここまで正確に見抜かれるなんて。」

「半分くらいは根拠のないただの憶測で、確信はしてなかったんだけど……。それと、どうやって結界の向こう側へ?」


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