「銀河英雄伝説1 黎明編」 田中 芳樹
1982年11月 徳間ノベルより宇宙歴8世紀、人類は宇宙において3つの勢力にわかれていた。帝国と、それに反旗を翻す同盟と、その両者の中間にある貿易国家のフェザーンとにである。微妙なバランスを保っていた3者の勢力が、帝国に出現した天才的戦略家ラインハルトによって、今くずされようとしていた。彼は2万隻の艦隊を率いて遠征の途に上ったが、それを迎える同盟軍の中に彼の終生のライバルとなるヤン・ウェンリーがいた。二人はアスターテにおいて初めてその知謀を競うが・・・・。壮大な規模で展開する本格スペースオペラ。(表紙裏 紹介文より)かなり昔に一度読んだのですが、最近舞台を見る機会があってまた読みたくなりました。独裁者ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが樹立した専制国家ゴールデンバウム王朝。しかしルドルフの死後、何世代かの世襲を経る内に、特権階級の貴族達は権力闘争に明け暮れ、規律や統制は形骸化・弱体化している。そのルドルフの圧政による迫害から逃れたアーレ・ハイネセンを中心とする共和主義者が建国した自由惑星同盟。理想を目指した民主主義は、しかし既に腐敗し、権力者達は私利私欲を貪っている。貿易国家フェザーンは一応帝国に属するが、貿易によって得た富により自治領となった。フェザーンが帝国・同盟のどちらに付くかにより軍事・経済バランスが変わるため帝国・同盟ともフェザーンを無視できない。フェザーンの最大の恐怖は帝国と同盟が手を結んで自国を滅ぼすことなので、そうならないよう帝国と同盟の戦争が終わらないように画策している。という3国の政治背景の下、帝国と同盟は長らく戦争を続けています。そこに登場する2人の天才軍人。帝国のラインハルト・フォン・ローエングラムと同盟のヤン・ウェンリー。この2人の主人公の戦いを中心に話が進みます。この黎明編では、2人が初めて遭遇したアスターテ会戦から、ヤンによるイゼルローン攻略、それを足掛かりとした同盟による帝国への侵攻と帝国の逆襲までが描かれます。以前読んだ時から私は帝国派でした。容貌も金髪美貌のラインハルトの方が、ぼやっとした感じのヤンより好きですし、思想的にも、腐った民主主義より清廉な指導者による独裁政治の方がいいと思っているし。のはずだったのに、読みながらヤンに叱られている気分になるんですよね。その考え方は無責任な権利放棄だよって。それにラインハルトが華麗に勝つ所より、ヤンが一泡吹かせている所を読む方が楽しくてワクワクするこの不思議。ラインハルトの美貌も何だか子供っぽく感じちゃうんですよね。これって自分が年をとった証拠かなあ。(^^;読んだ時の年齢、考え方で印象の変わる話だと思います。また新たな気持ちで読めそうで楽しみです♪これ以降は後の自分のための覚え書きとなり、当然ですが全てネタバレとなります。ご注意ください。私の中でヤンとラインハルトが逆転した感があるけど、変わらないのはヨブ・トリューニヒトの嫌らしさと気持ち悪さ。もう何度見てもホントいや。憂国騎士団とかいう、正義を気取る連中も最悪。絶対トリューニヒトとつながっていて、ヤツの敵となる人物に圧力をかけて回っているんだろうと思います。もう最悪。(-_-#ヤンが、私が覚えていたよりずっと感情の起伏が激しい人で意外でした。憂国騎士団にスプリンクラーで放水したり、イゼルローン攻略の時に玉砕すると言って突っ込んできた敵指揮官に対して本気で腹を立てていたり。子供っぽいと自覚しながら、自分は子供でいいとはっきりと反対してみせる様子は好ましかったです。もっと色々なことを黙って我慢している人かと思っていた。ヤンのセリフで、すごく好きだなと思ったのがあるので以下に抜粋。恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもの望みはしない。だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた。吾々が次の世代に何か遺産を託さなくてはならないとするなら、やはり平和が一番だ。そして前の世代から手渡された平和を維持するのは、次の世代の責任だ。それぞれの世代が、後の世代への責任を忘れないでいれば、結果として長期間の平和が保てるだろう。忘れれば先人の遺産は食いつぶされ、人類は一から再出発ということになる。まあ、それもいいけどね要するに私の希望は、たかだかこのさき何十年かの平和なんだ。だがそれでも、その十分の一の期間の戦乱に勝ること幾千倍だと思う。私の家に14歳の男の子がいるが、その子が戦場に引き出されるのを見たくない。そういうことだ。ヤンによると、民主主義でも共和主義でも独裁国家でも、堕落しない国家はないそうです。そうなんでしょうね。思想が悪いのではなく、人類という種が悪いのでしょう。私も、滅びない文明はないと思っているから同意できます。でもそれを承知で、自分が関わるこの何十年かでいいから良くあれと願う人が増えれば少しは文明も長生きできるのではないかなと思います。そういう考え方ができるオトナが好き。・・・そうか、だからヤンが好きになったのか。以前読んだ時は、そういう思想じゃなかったもんな、自分。この巻で登場する主要人物[帝国側]ジークフリード・キルヒアイスラインハルトの幼馴染みで、善良で優秀な右腕。赤毛ののっぽさん。パウル・フォン・オーベルシュタインラインハルトが自分の幕僚に加えた義眼の参謀。陰謀術策が得意。ウォルフガング・ミッターマイヤーラインハルトの幕僚。疾風ウォルフの異名を持つ。オスカー・フォン・ロイエンタールラインハルトの幕僚。ミッターマイヤーと並んで帝国の双璧と言われる。左右の瞳の色が違う「金銀妖瞳(ヘテロクロミア)」で、右目が黒、左目が青。フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトラインハルトの幕僚。「黒色槍騎兵艦隊(シュワルツ・ランツェンレイター)」と呼ばれる宇宙艦隊を率いる猛将。[同盟側]アレックス・キャゼルヌヤンの士官学校の先輩で軍の後方勤務。デスクワークの達人で、補給・組織運営など施設管理の専門家。ワルター・フォン・シェーンコップ同盟に亡命した旧帝国貴族。薔薇の騎士(ローゼンリッター)連隊の隊長。ローゼンリッターとは、帝国からの亡命者の子弟で構成されている白兵戦部隊。ユリアン・ミンツ「軍人子女福祉戦時特例法(通称:トラバース法)」によりヤンの被保護者となった14歳の少年。頭脳明晰・運動能力に優れ、家事能力も高い。フレデリカ・グリーンヒル宇宙艦隊総参謀長ドワイト・グリーンヒル大将の娘で、ヤン・ウェンリーの副官。14歳の時にエル・ファシル脱出行の際に民間人として居合わせ、この時ヤンに一目惚れした。サンドイッチとコーヒーの差し入れをしたら「紅茶が良かった」と言われたことを忘れていない。オリビエ・ポプラン単座式戦闘艇「スパルタニアン」のパイロット。空戦の天才であり、「ハートのエース」の称号を持つ。「スペードのエース」の称号を持つウォーレン・ヒューズと、「ダイヤのエース」の称号を持つサレ・アジズ・シェイクリと4人組のエースパイロットだったが、ヒューズとシェイクリは帝国侵攻の際に戦死した。イワン・コーネフ単座式戦闘艇「スパルタニアン」のパイロット。「クラブのエース」の称号を持ち、オリビエ・ポプランとコンビを組む撃墜王。ヨブ・トリューニヒト国防委員長。同盟の最高評議会を構成する評議員の一人。[フェザーン]アドリアン・ルビンスキーフェザーンの第5代自治領主。「フェザーンの黒狐」と呼ばれる野心家。 [主要な事件]エル・ファシル脱出行ヤンの名を有名にした戦い。惑星エル・ファシルに帝国軍が迫った時に、責任者のリンチ少将は民間人を見捨てて自分達だけ脱出しようとた。その時、民間人の救出を命じられていたヤンは、リンチ少将を囮とするため、リンチ少将が脱出するのと同じタイミングで反対方向へ民間人の船団を導き、全員を無事に脱出させた。リンチ少将は帝国軍の捕虜とされ、大失態から世間の目を逸らしたい軍首脳部は「軍だってちゃんと民間人を守った」ことを宣伝するためヤンを英雄として讃えた。アスターテの会戦ヤンとラインハルトが初めて出会った戦い。ラインハルトの艦隊2万を、同盟は倍の4万で囲んでいながら、艦隊を3部隊に分けていたため、包囲網が完成する前に各個撃破され2部隊が壊滅。最後の1部隊も全滅の危機にあったが、指揮官の負傷によりヤンが指揮するところとなり帝国軍と引き分ける形で部隊を守った。イゼルローン攻略戦難攻不落と言われた帝国のイゼルローン要塞を、ヤンがほとんど無傷で攻略した。具体的には、シェーンコップが同盟に追われた帝国軍を装ってまずイゼルローン駐留軍を誘き出し、その隙に要塞内部に救援信号を出し司令官&司令室を抑えて乗っ取った。アムリッツァ会戦イゼルローン要塞を手に入れた同盟が、そこを拠点に帝国に対し無謀な侵攻を計画。帝国は食料を全部接収して自国領の惑星を捨てて撤退、そこへ侵攻した同盟軍は民間人のために食料供出をしないわけにはいかず、食糧不足に陥った。そこで帝国は大反撃に転じ、同盟軍の8個艦隊の内ヤンが指揮する13艦隊以外のほとんどが壊滅した。ヤンにも危機的状況はあったが、ビッテンフェルトの勇み足的接近戦を見破ったため命拾いした。