「パーンの竜騎士シリーズ外伝1 竜の夜明け」上・下 アン・マキャフリイ
訳:浅羽莢子1990年03月 ハヤカワ文庫新潮社より射手座区にある恒星ルクバトの第3惑星パーン――――。緑ゆたかなこの星に、いま、地球から三隻の植民船が飛来した。FSP(生命既存惑星連邦)の法にのっとりこの地に理想の植民地を建設するのが目的だ。ヨコハマ号の船長ポール・ベンデンの指揮の下、処女地パーンにふさわしい、科学技術にたよらない共同社会を築くための政策がつぎつぎと実行にうつされた。地球から冷凍輸送してきた植物や家畜もパーンの自然環境に適応し、人びとは広大な土地を自由に開拓していく。植民地として、パーンにはなにひとつ欠点がないように思われたのだが…。 (上巻裏表紙 紹介文より)最初はたんなる黒い雲のようにみえた。だが、近づいてくると、その雲からシューシューと音をたてて降ってきたのは、雨ではなかった。一見雨のような銀色の糸は、触れるものすべてを貪りつくす恐ろしい怪生物だったのだ!科学技術を捨て去り、牧歌的な生活を営んでいた植民者たちは、この思いがけない災厄で恐慌状態に陥った。手持ちの高速飛行ソリを使った撃退方法も、その場しのぎのものでしかない。"糸"を退治するためには、なんらかの生物を遺伝子改造することが急務の課題となった…。惑星パーンの黎明期を描く、シリーズ番外篇登場。 (下巻裏表紙 紹介文より)パーンの竜騎士シリーズ外伝の1番目です。地球を飛び立ち、長いコールドスリープの末に新たな植民地としての『パーン』に辿り着いた植民者達。高度な科学技術を持った彼らの様子を描いた序盤は、まさにSFという感じ。戦争に疲れ、現政府のやり方に納得いかないものを覚えていた彼らは、緑豊かなパーンで科学技術を意識的に捨て去って、農業・狩猟を主とする牧歌的な生活を築き始めます。8年が経過、何もかもがうまくいっていたかのように見えたパーンに植民者達が初めて経験する糸胞が降ってきます。生存をかけて、糸胞との戦いに挑む人々。パーンでなぜ竜が生まれたのか、経緯が判明していきます。ついでに、パーンで一般的な飲み物『クラ』が、コーヒーの代用品だったことも判明。もっとスープっぽいものをイメージしてました。(^^;シリーズ8「竜の挑戦」で、文章全体に緊迫感があまりないと書いたんですが、訳のせいだったみたいです。臨場感と緊迫感がたっぷり。しかも、糸胞が降ってくるシーンで。鳥肌たつくらいに怖かったです。(T▽T)以下、粗筋と感想になります。ネタバレに注意。パーンに向かった宇宙船は3隻。コールドスリープから覚めた入植者達は、パーンを永久の住処と決意して宇宙船を衛星軌道上に残し2度と戻らないつもりで、シャトルで地表に降り立つ。ですが、ここで人々の心は1つではないんですね。素晴らしい技術を持った航宙士のケンジョウは、人々や物資を地表に降ろすための宇宙船とパーンとの往復において、シャトルの燃料を節約し、余った燃料を密かに隠しているのです。何のために?そしてもう1人、エイブリル・ビトラ。こちらの目的はハッキリしていて、パーンの調査隊が持ち帰った宝石が目当て。巨大な宝石類をいくつも採掘したら、自給自足の農業主体のパーンから離れ、もっと近代的な生活ができる別の星へいくつもりです。人々が入植して8年間は平和な日々でした。しかし、ここで入植者達は初めて糸胞を経験する。ペットとして多くの人々が可愛がっていた小竜(火蜥蜴)がここで大活躍。人間と家畜を守ろうと安全な場所へ追い立て、自分達は火を吹いて糸胞を焼き払う。しかし、守りきれなかった多数の家畜、複数の人々が命を落とす。火蜥蜴達の力だけでは生活を守りきれないと、人々は動力付きで空を飛べるソリを使い空中で糸胞を焼き払おうとします。が、小回りのきかないソリでは、空中での事故も多いうえ、いずれ燃料がなくなったら飛ばすことができなくなる。そこで火蜥蜴の遺伝子を操作して、竜が作り出されたのです。最初に孵った竜は18匹。大型優先で作ったので、黄金と青銅と褐の3種類。黄金の雌は複数いて、そのうちの1匹が有名なファランスです。後世、最初の女王竜として知られるファランスですが、最初に孵った竜ではなかったです。もしかしたら、その後最初に卵を産んだのかな?騎手(この頃は騎士ではなく騎手と言っていた)はソルカ・ハンラハン。ショーン・コンネルと共に、入植直後(10歳くらい?)最初に火蜥蜴を感合した少女です。ショーンは青銅竜カレナスの騎手。竜騎手隊のリーダーで、ソルカと結婚しました。役割的には統領と洞母の位置にいる2人。カレナスの名は後世に残ってないですよね。やっぱり卵を産んだか否かかな?彼らは親から何も教わることのなかった竜達と、初めての飛行を経験し、偶然により初めての間隙を通っての移動を経験し、最後には糸胞との初戦闘を行う。初戦闘、感動しました。火山の噴火により南ノ大陸から北の大陸へ移動したため、ソリを飛ばすだけの燃料を失い、洞窟に隠れて糸胞をやり過ごすしかなくなった人々。絶望的なやりきれない気持ちでいる彼らの前に、突然南ノ大陸からテレポートして戦い始めた竜騎手隊達に、歓喜の涙を流して迎えるのです。思わずもらい泣き。竜に関しては上記の通りの流れなんですが、その間に色々な事件が起きる。糸胞の調査のため、シャトルで宇宙空間まで出て探査機を飛ばそうとする計画がありました。しかし、エイブリル・ビトラが操縦士を殺害してシャトルを奪い、ヨコハマ号へと向かう。宝石を手に入れたので1人でパーンから脱出するつもりです。止めようとシャトルに乗り込んだのがサラ・テルガー。サラはエイプリルに捕まってしまい、指を切り落とされかけながら協力するよう強要される。地上の指導者達の1人であるオンゴラが、必要なチップを入れ替えたためシャトルが発進できず、何とかしろとサラに迫るのです。オンゴラが何か仕掛けをしたらしいと見抜いたサラは、エイプリルに協力するふりでメインコントロールのチップと交換するように奨める。しかし、交換して動くようになったシャトルは永遠に直進しかできなくなり、直進した結果、エイプリルは糸胞の雲に突っ込んでシャトルが爆発して死亡。しかし、シャトルを失ったサラは地表に戻る手段がない。探査機を飛ばし、ヨコハマ号のブリッジで出血多量のため命を落とします。『竜の挑戦』でアイヴァスが語ったサラ・テルガーの英雄的行為はこれだったんですね。しかし、そこまでして飛ばした探査機は、糸胞の雲の中でこれまた爆発してしまい、なんだか報われていないなあと納得いかない気持ちでした。ちなみに燃料をため込んでいたケンジョウは、自分が根っからの宇宙飛行士であるがため空を飛べない生活に自分が耐えられるか不安で、パーンに入植後もこっそり飛行を楽しむため燃料を隠し持っていたのです。ケンジョウはエイプリルに殺されてしまったのですが、彼が残した燃料がその後の北大陸への移動に大きく役立ちました。それから植物学者のテッド・タバーマン。最初の糸胞で娘を喪った彼はまともな判断を失ってしまい、自治に逆らい人々から孤立した生活を送っていました。竜の実験なんか当てにならないと公言し、糸胞を食べる虫を開発。これは成功して、その虫をまいた場所は糸胞から植物が守られていました。後世『地虫』と言われる虫がこれなんんじゃないかと思います。しかし、チーターを改良した実験動物は失敗し、獰猛な大型獣ができあがりタバーマンはそれに食い殺されてしまいました。元から少し独りよがりなところのある人で、糸胞により命を落としたのは彼の娘だけではなかったとはいえ、気の毒な人生であったと思います。糸胞の脅威から生き延びるためには、それぞれが広い地域に点在していたのでは無理。『着場』と呼ばれるシャトルが最初にパーンに着陸した場所、当初はそこに自治政府が置かれていた場所に、人々は再集結。しかし竜達も生まれ、場所が狭くなる。彼らは北大陸への移住を決めます。北大陸で発見した大きな洞窟群なら、全ての住民を受け入れられる。これがフォートでした。しかし移住計画の途中で、着場近くの火山が噴火。人々は追い立てられるように、北大陸への移住を決行したのでした。ここでは描写されることはありませんが、この時に、アイヴァスに糸胞絶滅を最優先プログラムとしてインプットして残していったのでしょうね。コンピュータの1つがヨコハマ号に位置情報で連動しているので持っていくことができないという話題が出ていたので、恐らくそれがアイヴァスで、持っていけなかった理由なのだと思います。過去から見た歴史が今現在の生活であり、リアルに見えるのが感慨深かったです。