「奪取 上・下巻」 真保 裕一
日本推理作家協会受賞作全集86 奪取(上)日本推理作家協会受賞作全集87 奪取(下)2012年06月 双葉社より友人の雅人が悪徳金融から1260万円の借金を!どうやって返す?おれは偽札を作ることにした。狙いは銀行の両替機。精巧である必要はない。センサーさえごまかせばいいのだ。ATMから紙幣識別機を奪い、解読して、雅人と一緒に作った970枚の1万円札は、見事に機械を通った・・・・。完璧な偽札を目指す、サスペンスに満ちた旅が始まる。(裏表紙紹介文より)印刷機、スキャナー、用紙、インク・・・・。偽札造りの世界で「彫りの鉄」として知られるじじいと組んだ、完璧な偽札を作るという夢が、あと一歩で叶うという時、それを狙う闇組織の邪魔が。おれは許さない!雅人が帰ってきた。印刷会社社長の娘だった幸緒もいる。完璧なものを造って、あいつらを騙してやるんだ。偽札を使った復讐の旅が始まる。(裏表紙紹介文より)主人公・手塚道郎は、自動販売機などに電気ショックなどを与えて釣り銭を多く騙し取るなどの軽犯罪者。ところが、親友の雅人がヤクザの経営する東建ファイナンスから借金をしてしまい、その返済のために偽札作りを始める、という話。偽札作りという知的犯罪がテーマですが、緻密さはなく、でもストーリーに勢いがあって最後までハラハラしながら面白く読めてしまいます。人情も感じられて、主役は人なんだなと思います。ついでに、これを読むと日本の印刷技術ってハンパなくすごいんだなと感心します。思わず一万円札見ちゃいました。 以下、粗筋と感想になります。ネタバレに注意。道郎と雅人は銀行のATMを襲って紙幣識別機を盗み出し、その識別機をパスする偽札を作る。そして銀行の両替機で偽札の換金に成功。しかし彼らの動きはヤクザに見張られていた。彼らの偽札作りの技術を利用しようとするヤクザに捕まってしまう。それを助けたのは、水田鉱一と名乗る老人。彼は「彫り師の鉄」という異名をもつ偽札作りの原版彫りの名人で、ATM襲撃のニュースから、誰かが偽札を作ろうとしていることを推理して両替中の道郎に接触してきていた。道郎はヤクザと警察から逃れるため、水田老人に連れられて住所を移し、戸籍を新たに買って別人となる。ヤクザに捕まっている雅人を助けるため、警察に通報。雅人は逮捕されるがヤクザからは解放され、道郎のことは一切しゃべらない。そして道郎は水田老人と、印刷会社社長の娘である幸緒と完璧な偽札作りを目指す。長期計画の予定だったが、帝都銀行と東建ファイナンスが手を組んで幸緒の母の印刷会社を潰してその土地を奪い取られてしまう危機を乗り切ろうと偽札作りを急ぐ。そのせいで、東建ファイナンスに道郎の存在がばれ、東建ファイナンスに水田老人が捕まってしまう。偽札を渡して取引し、水田老人を取り戻そうとするが、逃げる途中で水田老人は死亡、道郎も銃で撃たれて怪我を負う。それから5年後、再び名前を変え、整形した道郎。幸緒と出所した雅人と、かつて水田老人の仲間だった光井という仕事師(犯罪の段取りや準備をする人)も加わった4人で、今度こそ完璧な偽札を作り、帝都銀行から金を奪って復讐を果たすことを誓う彼ら。偽札作りは成功し、帝都銀行からも金を奪うことに成功するが、光井に金を持ち逃げされてしまう。しかし、彼らは帝都銀行への復讐と完璧な偽札を作った満足感で、笑いながらまた次を目指そうと明るいハッピーエンド。敵は警察じゃなくて、ヤクザと銀行というのが意外でした。最後に光井に金を持ち逃げされたのには驚いたし、ちょっとがっかりしました。皆で贅沢のバカ騒ぎをしてもらいたかったです。でも、まあいいのか。犯罪が何の報いも受けないっていうのも問題あるし、お金が目的じゃないわけだから。