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カテゴリ:読んだ本
訳 : 猪熊 葉子
2007年10月 岩波少年文庫より 百人隊長フラビウスといとこのジャスティンは、皇帝の側近アレクトスの裏切りを知り、 追われる身となった。二人は地下組織のメンバーとともに、故郷で見つけた「ワシ」を 旗印に新皇帝に立ち向かう。ローマン・ブリテン四部作の二作め。 (表紙裏 紹介文より) 主人公は軍医であるジャスティン(ティベリウス・ルシウス・ジャスティニアヌス)。 赴任地で最初に知り合った百人隊長が、いとこのフラビウス(マーセルス・フラビウス・ アクイラ)であることを知り、2人は親しくなっていきます。 フラビウスはエメラルドのはまったイルカの印章付きの古い指輪をしています。 この指輪は、前作『第九軍団のワシ』でマーカスが父から譲り受けた指輪ですね。 また、フラビウスの親類であるホノリア大伯母の家はカレバにあって、 マーカスの子孫なのです。 2人の属する軍団はカロウシウス帝の軍。 このカロウシウス帝は重要人物なんですけど、立場がイマイチわかりにくかったので Wikipediaで調べた時代背景を少々。 285年、ディオクレティアヌス帝は、一人で支配し統制するには帝国はあまりに広いと考え、 マクシミアヌスを副帝にして帝国の西側の統治者とした。 翌年、マクシミアヌスはディオクレティアヌスに並ぶ正帝となった。 293年にディオクレティアヌス帝がテトラルキア(四分統治制度)を導入すると、 コンスタンティウス・クロルスがマクシミアヌスの副帝となり、 マクシミアヌスの義理の娘フラヴィア・マクシミアーナ・テオドラを妻とした。 この時代、皇帝は4人いたんですね。 まずは東のディオクレティアヌス帝と西のマクシミアヌス帝。 それぞれに副帝がいて、東方副帝ガレリウスと西方副帝コンスタンティウス・クロルス。 2人の正帝の後継者として副帝がいたようですが、本を読んだ感じでは 庶民は「みんな皇帝」として認識していたみたい。 ゲルマン人に対処している間、マクシミアヌスは、海賊を討伐するためカラウシウスに 北部艦隊を任していた。 カラウシウスは何か金銭的に不正を行っており、処罰されることを恐れていたことが 知られている。 カラウシウスはブリタンニアとガリア北部をうまく支配下におき、自ら皇帝を名乗った。 マクシミアヌスは、依然としてゲルマン人の脅威に足を止められており、 新たに副帝に任命したコンスタンティウスを送ってカラウシウスの対策を任せた。 コンスタンティウスはまずガリアに戻ってカラウシウスを討ち、続いて296年、 ブリタンニアにおいてカラウシウスの後継者アレクタスを破って反乱に終止符をうった。 (Wikipedia マクシミアヌスより) 293年、コンスタンティウスはボノニア(現ブローニュ=シュル=メール)近くで カラウシウスの軍団を破った。 カラウシウスは、ブリタンニアとガリア北部で286年に自ら皇帝を僭称していた。 この後、カラウシウスは会計官アレクタスに殺害され、代わってアレクタスが ブリタンニアを支配するようになったが、296年にコンスタンティウスが送った 近衛兵隊長アスクレピオドトス(en: Asclepiodotus)に敗れて落命し、 ブリタンニアのローマ支配が復元した。 (Wikipedia コンスタンティウス・クロルスより) 多少矛盾した内容ですが、本書では、カロウシウスはサクソン海軍を撃退したが、 その時に得た財宝などを私物化し、自ら皇帝を名乗った。 しかしアレクタスに暗殺され、アレクタスはコンスタンティウス軍に討たれたという流れです。 勝手に皇帝を名乗っちゃったって、普通は謀反とか反乱のイメージなんですけどね。 カロウシウスは兵士達に皇帝として尊敬されているし、カロウシウス軍に属するジャスティンも フラビウスもローマの正規の軍人。 このへんの感覚はちょっと不思議。 ジャスティンとフラビウスは狩りに出かけたある日、カロウシウスの側近アレクトスが サクソン人と会っているのを見てしまいます。 国の危機に関わる裏切り行為を告発する2人。 しかし、逆に遠い赴任地へ追いやられてしまいます。 赴任地で部下の信頼を得て充実した日々を送るのですが、そこで再びアレクトスの陰謀を知る。 カロウシウスに知らせようとした2人ですが、それが発覚し追われる身となる、という話。 読んだ時点で時代背景がわかっていなかったせいか、「第九軍団のワシ」に比べると 何のために戦うのかが途中ちょっとわかりにくくて地味な印象でした。 特に追われている時は、軍を離れてゲリラ的活動をしているので 「我慢の時」という感じだったし。 でも最後まで行くと、カロウシウスと2人の間にあった信頼関係とか思いとか、 そういうのが伝わってきて面白かったです。 これ以降は詳細な感想となり、当然ですが全てネタバレとなります。ご注意ください。 2人はカロウシウス帝と直接話をしたことがあって、その時にカロウシウス帝が言ったんです。 「ローマは没落しつつあるのだよ」 「わしはローマが倒れるのを見ることはないだろうよ。それにお前たちだって、 帝国の終わりを見はしないだろう。しかし、ローマはその芯が腐って空洞化している。 そしていつの日か、国は崩壊するだろう。 もしわしが、この属州を強くすることができたら、ローマが滅びるときにも 独り立ちすることができるほどに十分強くしてさえおけば、暗闇から何かを 救い出すことができるかもしれない。 もしだめなら、灯はすべて消えてしまうだろうよ」 没落しつつあるローマにあって未来を憂えて、仮にローマが滅びてもこの属州を残したいという思い。 カロウシウス帝って、純粋なローマの人じゃなくブリテンの血筋の人だったのかな? その思いを2人は受け止めたようです。 でも、アレクトスの裏切りを告発したために、遠くに異動させられる。 しかし後に、これは2人をアレクトスの暗殺から救うために危険から遠ざけたのだとわかります。 カロウシウスが2人に向けて「こども達よ」と呼びかけるのが愛情が感じられて 好きでした。 カロウシウスの暗殺後、2人はアレクトス側から追われる身となり、赴任地の砦から脱出。 コンスタンティウス軍に合流できるゴールへ渡るため、港町ポルトス・アドルニへ行く。 しかしゴールに渡る手立てがない。 そんな時、ポウリヌスに会います。 彼は、反アレクトス派の人物達をかくまったり、船に乗せてゴールに送ったりという ゲリラ活動をしている人。 2人は彼に万一のことがあったら、その後を継いで仲間達の指導者となるよう依頼されて ポウリヌスと共に活動を始めるのですが、ある日隠れ家が発覚、ポウリヌスは命を落としてしまいます。 そこからは急展開。 街中に広がるサクソン人から逃れてカレバへ移り、私的軍団へと成長する組織。 2人はカロウシウス帝の道化であったクーレンを、サクソン軍の追っ手から助けた際に、 ホノリア大伯母の家の床下から埋められていた「第九軍団のワシ」を掘り出します。 軍団はそのワシを旗印にかかげ、アレクトス軍を討伐に来ていたローマ軍 (アスクレピオドトス軍)に合流するのです。 そして戦が始まります。 ローマ軍はサクソン人に勝利しますが、敗残兵達がカレバの町の略奪に走る。 それを助けるべく、私的軍はカレバでサクソン人と戦うのです。 しかし人数は少ないし、広場に集まった町の人達を守らなくちゃいけないしで、 早く他のローマ軍が助けに来てくれないかとハラハラしました。 戦いは勝利しますが、この戦いでかなりの犠牲が出ました。 ジャスティンが怪我を治してあげたことから親しくなった氏族、槍のエビカトス。 彼はクーレンとクーレンが持っていた『ワシ』を守るために、 サクソン人の群れの中に仁王立ちとなり戦い続け、全身に傷を負って、 戦いが終わった時に死んでしまうのです。(T_T) もう一人は、闘技場の剣闘士であったパンダラス。 木剣を手に入れて自由の身になりましたが、世界に絶望してすべきことを失っていた時に ジャスティンと出会い、軍団に入ったのです。 剣闘士の時はいつも「明日死ぬかもしれない」という思いで生きて、 闘技場ではいつもバラをつけて戦っていたというパンダラス。 サクソン人からカレバの町の人達を守るため、広場に向かって走りながら、 咲いていた神殿のバラを折り取って肩に付けた。 サクソン人を追い払った後、落ちていたバラを拾い上げたジャスティンは 自分の指が血に染まったのを見て、パンダラスを探し出し、その最期を見取る。 戦士の最期はいつでも悲しいです。(T_T) ※木剣を手に入れるとは 闘技場の剣闘士は、死ぬまで戦うという性質上、奴隷がなるもの。 勝利の栄誉により木剣を授けられた者は奴隷の身(剣闘士という仕事)から解放される。 戦いが終わって私的軍団は解散。 2人を始めとして元々軍人であったものはコンスタンティウス軍に配属されます。 コンスタンティウス帝と対面した2人は、カロウシウスに忠誠を誓った自分達が 再び別の皇帝に忠誠を誓えるのかと悩むのです。 でも、カロウシウス帝の道化であったクーレンが、今度は2人に仕えるというのを聞いて ふっ切れたみたい。 クーレンに「仕える必要はないんだ。もう奴隷じゃなくなったから、自由なんだ」と 言うのですが、クーレンは 「自分は奴隷の息子として生まれて、生まれ落ちた時から奴隷だった。 自由ということはご主人様がないこと、腹がすいているということだ」 というのです。 2人は考え「自分達も仕える皇帝がいなかったことはなかった」と晴れ晴れと笑い、 クーレンを伴って新たな赴任地へ向かう決意をする。 タイトルの「銀の枝」が象徴するものも、これなのかな? 銀の枝というのは、皇帝の道化クーレンが持っていた銀製のリンゴの木の枝。 小さなリンゴの実が付いていて、その1つ1つが鈴になっているので、 動かすとチリンチリンと音がする。 クーレンが皇帝の密書を運ぶ際には、枝の部分の秘密の空洞に隠して持ち歩くのです。 奴隷であったクーレンがカロウシウスに仕えていた時の「銀の枝」を持ったまま、 自由となった今、自らの意志で選んでジャスティンとフラビウスに仕える。 これは、2人がカロウシウスへの忠誠を持ったまま、コンスタンティウス帝に仕えるのと同じ。 クーレンがカロウシウスへ向けていた気持ちと、2人に向ける気持ちは別物とわかる。 でも、だからといってクーレンが2人を軽んじているかというと、絶対そうではない。 つまり2人が別の皇帝に2度忠誠を誓うということも、それと同じなのだ、 ということかな? クーレンの気持ちも理解できて、自分達も納得いって晴れ晴れ、というところでしょうか。 途中経過は我慢が多かったけど、読後感はすっきりでした。 ![]() お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.07.30 12:43:38
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